アーノルド・パーマー、ジャック・ニクラス、トム・ワトソンらの全盛時代に彗星のごとく現れたセベは“マタドール(闘牛士)”のような情熱的なゴルフで一世を風靡した。
彼の全英初出場は1976年ロイヤル・バークデール。当時19歳のセベは初日から3日目までトップを走り最終日ジョニー・ミラーに逆転を許したがニクラスとともに2位タイに入りセンセーショナルな話題を振りまいた。
初優勝はその3年後ロイヤル・リザム&セント・アンズで開催された108回大会。4日間を通してティーショットを大きく曲げながら常人の想像を超えるイマジネージョンで優勝争い。最終日にはあの有名は“駐車場ショット”が誕生する。
ティショットを臨時駐車場に打ち込んだセベのボールは車の下に潜り込んでいた。動かせない障害物の扱いとなり無罰でドロップするとグリーンサイドまで運びパットをねじ込んでバーディ奪取。
これには同じ組で回っていたヘール・アーウィンが白いハンカチを降って降参のポーズ。結局ニクラスとベン・クレンショーの3打差をつけセベが歴史的な初優勝を飾った。ショットを曲げながらスーパーリカバリーで魅せ場を作るセベのゴルフに目の肥えたイングランドのギャラリーは釘づけになった。
そして84年聖地セントアンドリュースではトム・ワトソンの全英3連覇の夢を打ち砕き2度目のクラレットジャッグを掲げ世界のゴルフファンを陶酔させた。さらに89年再びロイヤル・リザム&セント・アンズで戴冠。
黒髪をなびかせ情熱的なガッツポーズで会場をまるでサッカースタジアムのような熱狂の渦に巻き込んだカリスマには数々のスーパーショット伝説がある。セベのキャディを務め今年の全米オープンでマシュー・フィッシュパトリックをメジャー優勝に導いたビリー・フォスターがこんなエピソードを教えてくれた。
「セベは死んでも諦めない。そのメンタリティ、カリスマ性は唯一無二。93年スイスで優勝争いしていたとき、トップタイで迎えた最終ホール、セベがティーショットを曲げて松の林の中に打ち込んだんだ。背後には背丈ほどの壁が迫りバックスウィングは少ししか取れない。しかも林の隙間はディナープレート(皿)1枚ほど。お願いだからフェアウェイに出すだけにしてください、とセベに頼んだよ」
するとセベはこういった。「ビリー、ここはグリーンを狙う」。グリーンまでは残り140ヤード。ハーフショットで林を脱出できても到底届く距離ではない。「出すだけにしましょう」というフォスターに「絶対にダメだ」と言い張ったセベは皿一枚の空間を射抜いてグリーン手前2、3ヤードに運びチップインバーディを奪ったのだ。「あれには脱帽した。セベさまさまだった。でも彼にとってスーパーショットは日常茶飯事。だからファンは彼のゴルフに夢中になったんだ」
生前のセベに一番思い出に残るスーパーショットは? と尋ねたことがある。すると彼はチャーミングな笑みを口元に浮かべながら「ありすぎてわからないな」といって肩をすくめた。セベの思い出は尽きない。