矢野経済研究所という調査会社でゴルフや釣り、スポーツバイク(自転車)の市場を中心としたスポーツ産業の調査・研究を生業としている三石氏。時折思いもよらぬところから問い合わせや相談を受けることがあるという。今回はそんな相談でのできごと。
なぜ学生たちは研究材料にゴルフボールを選んだのか?
今から約1年前の2021年5月28日、それは突然の一通のメールから始まった。メールの送り主は同志社大学商学部教授(経済学博士)の太田原準先生。私は面識がなかったが、同志社大学卒業の当社社員からの紹介で私の存在を知ったらしい。
メールによると太田原先生のゼミの学生が「知財戦略の事例研究としてゴルフボール業界における企業間の競争と協調」というテーマで研究をしているとのことで、業界に詳しい人間として、私にレクチャーをお願いしたいとのことだった。
大学の教授、しかも経済学の博士からの連絡となるとどうしても身構えてしまいがちだが、このメールを読んで私が激しく興味を持ったのは「大学の研究テーマとしてゴルフボールが題材となったこと」。なぜゴルフクラブではなくゴルフボールなのか、そもそも論として、ゴルフというスポーツとは「縁遠い世界の住人」と言える一般の大学生がなぜ「ゴルフ道具」に白羽の矢を立てたのか。そんな興味もありZOOMでのインタビューに応じた。
テーマは「寡占市場における新規参入企業の競争戦略」。
研究題材はホンマの「D1ボール」とのこと。ゴルフ用品市場に詳しい方ならばご存じかと思うが、国内のゴルフボール(ラウンドボール)市場は「ブリヂストン」「ダンロップ」「タイトリスト」の3社が全体の約70%のシェアを有する寡占率の高い市場であった。また上記3社が有する特許の出願数も多く、新規参入が難しいという特性を有する市場でもある。
そうした「難しい市場」に後発組で参入したのが本間ゴルフ。2016年6月に発売された「D1ボール」はその高いコストパフォーマンスで高水準の需要を形成、瞬く間にラウンドボール市場におけるベストセラー上位の常連となったのである。以降2019年、2020年、2022年にモデルチェンジをおこない、「D1ボール」は廉価帯ボール市場(小売実売価格1個あたり200円以下の市場)におけるベストセラートップの「常連」となっている。数多あるゴルフボールの中でホンマの「D1ボール」に着目したというその視点に対し、私は強い関心を抱いた。
ディスカッションは学生たちからの質問に私が回答するという形式で進められた。ゴルフボール市場の足元の市場環境から新型コロナウイルス感染拡大によるゴルフ産業の構造変化(若年齢層を中心とした新規ゴルファーの増加)などについてお話をさせて頂いたのだが、驚いたのは太田原ゼミの学生たちがゴルフボールの産業構造や実情について非常によく勉強していたこと。会議はゼミの学生たちが持っている基礎知識に私が「肉付け」を行うような形で進行し、成果については改めて共有ということで終了した。(後編へ続く)
※2022年7月19日13時55分 文章を一部修正いたしました。