17アンダーから最終日をスタートした菊地は優勝スコアを22アンダーと想定していたが、そこまでは伸ばせず、終盤は三ヶ島かなとのマッチレースとなった。12番でバーディを奪った三ヶ島に対し、菊地は13番パー4でティーショットを右の林に打ち込み痛恨のボギー。ついにリードがなくなった。それでも続く14番パー5では下りの5メートルを沈めてバーディ。「私はパッティングを強く打てるタイプではない。ポンと打ち出せば、あとは転がってくれるような距離とラインが好きなので、そういうラインについてくれたのはラッキーだったと思います」。その後は互いにパーを重ね、菊地の逃げ切りとなった。
飛距離が出るタイプではないものの、安定したショット、そしてグリーン周りでのアプローチが菊地の武器。いっぽうで長年の課題がパッティングだ。初優勝を飾った2015年は平均パット数(パーオンホール)でツアー10位と上位だったが、その後は徐々にランクを落とし、2019年は50位。4年ぶりの優勝を飾った統合シーズンの昨季が36位、今季も42位とグリーン上での苦戦が続いている。ピン型から大型マレットまで、さまざまなパターを試した。グリップも現在は順手だが、クロスハンドの時期も長かった。数試合だけトライしたクローグリップは正直、素人目にもぎこちないものだったが、それもできる限りの工夫を重ねてきた証拠だろう。
数年前のある試合でのこと、約30分に渡って、パッティングの悩みを聞いたことがある。その日、菊地はビッグスコアをマークしてホールアウトした。「パットが入らなければ、こんなスコアは出ないでしょう。そんなに考え込まなくてもいいんじゃない」と声を掛けると苦笑いで「そんな簡単に言わないでくださいよ」。その後は5~6メートルのバーディパットが何度か入ったからといって、1~2メートルの不安は解消されないこと、得意のライン、苦手のラインがあること、プレッシャーのかかる場面とそうでない場面では全く違うことなどを説明された。これだけ悩んでいるのだから、軽口を叩くなと釘を刺された格好。お説教を受けたといってもいいだろう。
今振り返ると、当時がもっとも悩んでいた時期に思える。データ的にはその後もパッティングには苦しんでいるが、少なくとも悩みを口にすることは少なくなった。「私は強く打てるタイプではない」「私はプレッシャーに弱いし、勝負強さもない」。今大会での優勝会見での言葉からは悩んでいる自分も、弱い自分もすべて受け入れたうえでのたくましさを感じさせた。若手の台頭が続く女子ツアーで34歳はベテランだが、新たな強さを手にした菊地の活躍はまだまだ続くはず。これまで一度も達成していないシーズン2勝目で、その進化を証明してもらいたい。
写真/大澤進ニ