今大会、圧巻のプレー以上に印象的だったのは3日目のラウンド終了後の会見での発言だった。勝は6月からスタンスをオープンにして調子が上がってきたことを明かし「元のスタンスに戻しただけなので、2~3週間で体が思い出してくれました」と続けた。ただし、この“元のスタンス”というのはツアーでアマチュア優勝を果たした高校1年生のころの話。スウィング改造に失敗した選手がなかなか立ち直れないように、元に戻すというのは簡単ではない。そんななか、8年も前のイメージを2~3週間で取り戻せるというのは、やはり特別な感覚の持ち主なのだろう。
アマチュア時代からコーチはおらず、独自にスウィングを作り上げるなど、勝には天才という印象が強い。好調時にはグリーン上で「カップまでのラインが見える」と話したこともあった。この特殊能力はプロになるころにはすっかり失われてしまったようだが、現在もパットが武器であることに変わりはない。今季は平均パット数(パーオンホール)で西村優菜に次ぐ2位につけている。
また、アプローチについて話を聞くと「打ち方を考えたことはない」という言葉が返ってくる。幼少期に独自に身につけた基本があるのだろう。ツアープロでもアプローチに悩む選手は多いが、勝にはそれがない様子。ベーシックなアプローチだけではない。ほかの選手が特殊なショットを打っているのを見ると「あれってどうやってるんだろう?」と言いながら、練習場で数球も打てば、再現してしまう。そんな場面も何度か目にしてきた。
いっぽうで手を焼いたのが大幅な飛距離アップだった。プロ入り後はトレーニング量を大幅に増やし筋力アップ。ツアーでも指折りの飛ばし屋に変貌したが、昨季までは自分でもどれだけ飛ぶか分からない状態に陥っていた。それでも、今季はややトップをコンパクトにして、安定性を重視したことが奏功。「一発の飛びはなくなったかもしれないけど、平均して飛ばせるようになりました」。ドライビングディスタンスは昨季の254.31ヤード(2位)に対し、今季は252.54ヤード(4位)とほとんど落ちておらず、安定感が増したことのプラスのほうがずっと大きい。トレーニングは継続しており、遠征先でも週に何度かジムに赴く。現在の飛距離を余裕を持って出せるようになれば、安定感はさらに増していくはずだ。
米女子ツアー6勝の畑岡奈紗、メジャー制覇を果たした渋野日向子など、黄金世代の主役は毎年のように入れ替わっているが、8年前のアマチュア優勝以来、勝がつねにトップグループにいたことには変わりはない。コントロールできる飛距離は勝にとって鬼に金棒。今回の独走Vをきっかけに主役に返り咲く日は近そうだ。