みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究者およびインストラクターの大庭可南太です。さて先週は男子PGAツアーの最終戦、「ツアーチャンピオンシップ」がおこなわれ、最終日に6打差を大逆転してローリー・マキロイ選手が年間王者に輝きました。
いっぽう、2位に敗れたスコッティ・シェフラー選手は、今季「マスターズ」のメジャー優勝を含めた4勝をあげ、世界ランク1位のアドバンテージをもって今大会に臨みましたが、惜しくも勝利は叶いませんでした。
スウィング的には、誰がどう見ても終始カッコいいマキロイ選手と、ちょっと個性的なスウィングに見えるシェフラー選手とではかなり対照的に思えますが、やはり共通して守られている、ある「原則」があります。今回の記事ではその「原則」についてと、二人の選手の「達成方法」の違いについて紹介したいと思います。
「ヒップクリア」のおさらい
マキロイ選手とシェフラー選手の二人のスウィングの共通点、というか欧米で非常に重視されている原則として、「ヒップクリア」というものがあります。これまでにも本コラムで何度か登場したキーワードですが、重要なのでおさらいしておきます。
まずクラブヘッドが適切な軌道を描くためには、クラブを持っている両手の軌道(「ハブパス」と言います)が適切化されている必要があります。しかしクラブを振り下ろしてくるエネルギーを稼ぐためには、どうしても体幹や下半身の動力が必要になります。
そのためダウンスイングの初期に右腰がボール方向にせり出して来て、結果として「両手の軌道」と「右腰のポジション」が干渉するというエラーが起きやすくなります。こうなるといわゆるスウィングが「詰まる」状態になって飛距離をロスしたり、最悪の場合「シャンク」も起きます。よって「ザ・ゴルフィングマシーン」ではその状態を避けましょうという意味で「右のヒップをクリアせよ」と言っているわけです。
問題は、この「ヒップクリア」の状態をどのような方法で達成するかです。
マキロイの方法「右ベタ足」
マキロイ選手の場合、右足のカカトが地面から浮かないようにして、右腰がボール方向に近寄っていくのを防いでいます。(画像A)
同時に左脚を蹴ることで左のヒップを外側に持ち出して、「両手の通り道」をしっかりと確保しています。韓国人選手にも多い手法ですが、見た目にもカッコいいと思うわけです。
「ザ・ゴルフィングマシーン」のコンポーネント分類で言えば、「ニーアクション」と「フットアクション」という項目になりますが、いわゆる「右ベタ足」というものです。右ヒザ、右足を「アンカー(碇)」として使うことで、「ヒップクリア」を達成しています。
しばしば「ベタ足」が良いのか悪いのかという議論を見かけますが、本質的にはそれをやることによって「ヒップクリア」の状態を作りやすいのかどうかが重要なのではないかと思います。
松山英樹、J・トーマスの方法「左ヒップ持ちだし」
というわけでついでに「ベタ足」ではない手法も紹介しておきます。
松山英樹選手やジャスティン・トーマス選手などは、インパクト前に右カカトが浮いてきますが、それでも「ヒップクリア」はじゅうぶんに達成できています。左のヒップが大きく外側に持ち出され、その位置に右のヒップが入り込んでくるような使い方をするとこうなるのではないでしょうか。
つまりこのタイプは、コンポーネント的には「ヒップアクション」によって「ヒップクリア」の状態を作っていると言えます。人体の動作としては自然ですし、おそらく多数派だと思いますが、うっかりすると単に右ヒザがボール方向に流れてきて「ヒップクリア」そのものが失われますのでそこは注意が必要です。
シェフラーの方法「右足を背中側に引く」
そしてシェフラー選手の方法ですが、ダウンからインパクトにかけて右足を背中側にずらす(引く)という方法を採用しています。右腰が出てくるのが嫌ならば、右足を引きながら打てばいいじゃないかという発想です。(画像C)
一見複雑な動作に見えますが、例えばボウリングの投球や、アイスホッケーのシュート動作などでも同じような足使いをしますし、イチロー選手もこういうバッティングすることがありましたが、上半身の体勢をキープしやすいので、方向性が増す利点があるように思います。ちなみに私はテニス出身ですが、バックハンドのストレートを打つときなどにもこうした足使いをすることがあります。
シェフラー選手の場合、見た目はその、あまりカッコいいとは言えない気もしますが、それはおそらくフォローからフィニッシュにかけての動作がちょっとぎこちなく感じるからではないかと思います。しかしフォローやフィニッシュでインパクトをするわけではありません。それよりもインパクトにおける「ヒップクリア」を重視した結果「これもアリ」と言うことになったのではないかと思います。
逆に言えば「ヒップクリア」という原則を達成できているならば、その方法や結果として表れる見た目は大きな問題ではないということになります。特にアメリカではこうしたことを「個性」として尊重する風土があるために変則的に見えるスウィングで成績を残す選手が多いのではないかと思います。
今回の「ツアーチャンピオンシップ」を見ていて、やはり「個性」という点で言えば、ブライソン・デシャンボーや、ブルックス・ケプカ、マシュー・ウルフ、ルイ・ウーストヘイゼン、そしてパトリック・リードといったLIVゴルフ参加表明メンバーがフィールドにいなかったことは率直に寂しく思いました。
やはりさまざまな選手のドラマを尻目に、コース設計者の意図を無視して無神経にかっ飛ばすデシャンボーや、それを揶揄するケプカとのプロレスなんかもフィールドの彩りとしては面白かったなと。
このLIVゴルフ問題についてはさまざまな関係者の思惑が絡んで来ますので、状況が落ち着くまでにはまだまだ時間がかかるでしょう。しかしいつか団体の枠組みを超えて「今年世界で一番ゴルフが強いのは誰なんだ?」という戦いのフィールドが提供されることを、一人のゴルフファンとして願うばかりです。