3日目を終えた時点で首位はメジャー連勝を狙う山下美夢有、2打差の2位に森田遥、さらに1打差で三ヶ島かなと優勝経験のある選手が続いた。川﨑は4人が並んだ4打差の4位グループの一人だったが、今季の最高成績29位、直前のステップアップツアーで初優勝を飾ったばかりのルーキーの逆転を予想した人はほとんどいなかったはずだ。そんななかで迎えた最終日、出だしからパーを重ねた川崎は8番パー4で残り120ヤードからの2打目を放り込んでイーグル。スーパーショットで首位との差を3打に縮めた。
振り返れば、これがドラマの始まりだったが、一気に勢いづいたわけではない。続く9番パー4では2打目を1.5メートルにつけたが、これを外してパー。あれを決めていれば、川﨑にもチャンスはあったのに…。もしも、優勝していなければ、そう言われていても不思議のないシーンだった。
しかし、実際には後半、それも12番から勢いが加速する。3連続バーディで首位に立つと、15番もバーディとして4連続。さらに17、18番を連続バーディで締め、あっという間にリードを3打に広げてホールアウトした。優勝会見ではゾーンに入っていたという言葉を否定し「ミスしても寄っていました」。6バーディを奪った終盤の7ホールはまさに何をやってもうまくいく状態だった。
女子ツアーでは8月に岩井千怜が2002年度生まれの先頭を切って初優勝を飾ったばかり。それからわずか1か月で、さらに1つ下の世代の2003年度生まれの優勝者が、メジャーで生まれた。川﨑は高校時代に全国大会の優勝経験があるものの、ジュニア時代に圧倒的な実績や知名度があったわけではない。この世代でアマの実績、知名度ナンバー1は昨年のプロテストで不合格となった梶谷翼。順調にプロテストに合格した中でも、日本女子アマ優勝&プロテストトップ合格の尾関彩美悠、高校時代にツアーで渋野日向子とプレーオフを戦った佐藤心結の方が知られていたはずだ。川﨑は昨年の日本女子オープンでは11位タイに食い込んだが、ローアマは7位タイに入ったやはり同い年の竹田麗央に阻まれている。脚光を浴びているジュニアのほかにも、その周囲には同じレベルで争っている選手がいる、そんな女子ゴルフのレベルの層の厚さを改めて実感させられた。
今回の優勝で立場は大きく変わり、川﨑は注目を一身に浴びることになる。まだまだ、世間にはプレースタイルもはっきり伝わっていないだろう。本人によれば、得意クラブはショートアイアン。最近はパッティングが好調で、最終日の後半の11パットはさらなる自信につながったという。また、今大会のドライビングディスタンスは247.86ヤードで出場選手中7位。飛距離も上位選手に引けを取らない。初優勝から2週連続Vを飾った岩井千のようにすぐに2勝目を手にするのか、苦しい時期を経験することになるのかは分からないが、オールラウンドに力を持つ、将来楽しみなゴルファーが現れたことは間違いない。