勝負を分けたのは終盤17番パー4の攻防だった。最終組のひとつ前を回る勝は残り160ヤードからの2打目を2メートルにつけてバーディ。硬いグリーンを警戒し、1番手下げて手前から攻めた、計算づくの一打で混戦から一歩抜け出した。17番で最終日にバーディを奪ったのは5人だけ。14番に続き、2番目に難しいホールだっただけに大きなバーディとなった。いっぽう、最終組の2人はともに第1打をバンカーに入れ、申がボギー、吉田がダブルボギー。最終18番は揃ってバーディを奪ったものの、もう勝のスコアには届かなかった。
上位に実力者が揃い、終盤までもつれる展開は55回目を迎えた「日本女子オープン」の歴史のなかでも名勝負のひとつに数えられるものだろう。選手たちのプレーはもちろん素晴らしかったが、それを演出したコースのセッティングも見事だった。「メジャーの難しいセッティング」というフレーズはよく使われるが、難しくすればいいというものではない。例えば、グリーンの硬さ。軟らかければフェアウェイからでも、ラフからでも止まるので選手の実力差が十分に反映されない。とはいえ、フェアウェイからショートアイアンで打っても止まらないほど硬くしてしまうと、誰も乗らないので差が出ない。フェアウェイからいいショットを打った選手だけが止まるというのがひとつの理想だ。これはラフの深さ、フェアウェイの幅なども同様で、それらのバランスも考慮しなくてはならない。今大会はすべてがかみ合ったセッティングだったからこそ、素晴らしい戦いになったのだろう。
偉そうなことを書いたが、セッティングについての考えはかつて倉本昌弘に教えられたもの。2014年に日本プロゴルフ協会の会長に就任した倉本は主催の「日本プロ選手権」のセッティングについて「むやみにグリーンを硬くしない、むやみにラフを深くしない」という方針を示した。メジャーなのになぜ難しくしないのか? 多少、独自の解釈が入っているかもしれないが、基本的にはそんな疑問を抱いた筆者に丁寧に説明してくれた倉本の言葉の受け売りである。
優勝スコアが3アンダーというのも絶妙なセッティングだった証。開催コースが異なるため、一概には言えないが、優勝スコアが2桁アンダーでは通常のトーナメントとの差が伝わりにくく、過去にあった2桁オーバーではエンターテインメント性に欠ける。天候にも左右されるため、すべてが思い通りにはいかないだろうが、来年以降も、ナショナルオープンらしい厳しさと面白さが詰まったセッティングで名勝負が生まれることを期待したい。