多くのゴルファーはグリーン上にボールが落下し、その地点から戻ったり、その場で止まったりするのを見ると、「ボールのスピン(回転)、とくにバックスピン量(回転数)が大きく関わっている」と信じています。いわゆる『ゴルフ界の常識』のひとつですよね。
バックスピンについてみなさんは、どんなイメージをもっていられるでしょうか?
川柳にしてみましたのでちょっとお付き合いください。
「解説者 止まった時のみ バックスピン」「戻らない 止まらない球 ほどけたと」
「バックスピン 何故に左右に 切れるのか」「ウッズでも スピン調整 間違える」
いかがでしたか? プロゴルファーのアイアンショットで、いつも必ず起こるというわけではありませんがグリーン上に落下したボールが、落下直後から急激に真後ろ方向に戻って止まったり、あるいは2〜3バウンド前方に進んだあと、急に逆戻りしたり、時にはグリーン上に止まらずそのまま加速しながらグリーン外へ転げ落ちていく場面を見たことがあるでしょう。
今回、そのような場面にはどのような機序が働いているのかを一緒に考えてみましょう。
ここでは「背理法」と呼ばれる証明方法を使います。これはある命題を証明するために最初は「結論が正しくない」と仮定して、そこから矛盾する事例を引き出し、結局は「仮定したことが間違っていた」ために、「結論は正しい」と証明する方法です。
「ゴルフボールはバックスピンだけで戻らない(止まらない)」と仮定して、このゴルフ界の常識という命題が正しいのか、間違っているのか、背理法を使って証明しましょう。
(質問1)
サンドウェッジ(SW)によるショットにおいて、以下の図の様な落下角度の場合
1)画像1の a)と b)、どちらのボールがラン(ローリング)は少ないですか?
2) 同一人がショットした場合、バックスピン数が多いのは a)と b)のどちらですか?
かつて私自身が実験者となり、サイエンスアイでデータを取ったところ
・落下角度>45度だとバックスピン量は少ない。それなのにランは短いこと。
・落下角度<45度だとバックスピン量は多い。それなのにランは長いこと。
という結果を得ました。つまり上方向に打ち出し角が高ければ高いほど、バックスピン量が少なくなっているのにもかかわらずランが少ないのです。逆に打ち出し角度が低いためにバックスピン量が多いボールほど、ランが多いという結果だったのです。
この実験でわかったことといえば
(1) 打ち出し角度とランは逆相関し、とくにこれまでの常識とは異なり、バックスピン量とランは正相関し、いずれにおいて有意な一次回帰式を認めた。また、「打ち出し角度とバックスピン数は逆相関する」という予想もしていなかった結果を得た。(2)打ち出し角度が56度以上の場合に、ランは0ヤードと算出。(3)打ち出し角度が52度以上の場合に、バックスピン数は0rpsと算出。
これでもまだ、グリーン面ではバックスピンだけでボールが戻ると言えるのでしょうか。
証明法:事例として極端な例を示します。みなさんも考えてみてくださいね。
1)バックスピン数がほぼゼロ、つまり無回転ボールであってもグリーン上に落下したその場で止まる場合はどんな状況が考えられますか。
2)万が一、トップした場合のボールのバックスピン量は、極端に少ないのか、或いは極端に多いのか、果たしてどちら。
3)ボール弾道が低く地面にほぼ平行な飛び方をするボールが、グリーン上で落下地点に止まるか、あるいは後戻りするような場面を想定して下さい。このような状況が起こるグリーン形状はどんなのが考えられますか。
では回答です。
1)については、グリーンが水平面であり、かつボールが真上(垂直)から落ちた場合です。
2)について、じつはバックスピン量は多くなります。例えば水切りショットは水面を数回跳ねながらボールの進行方向へ進んで行ってなかなか水中に沈みませんよね。その理由は、ボールの赤道線より1ミリでも下側にクラブのリーディングエッジが当たると、ボール中心点との相対的位置関係によってヘッド速度がそのままバックスピン量に反映しますので、結果としてバックスピン量はもっとも多くなります。
3)については、グリーンが地面に対して垂直の壁のようになっている場合です。
もうおわかりですね!
最初に仮説とした「ゴルフボールはバックスピンだけでは戻らない(止まらない)」は否定できませんでした。そうなると、ボールを止めている(戻している)のはバックスピンではないということです。グリーンの形状(特に傾斜の度合い)に依存しているのです! 次回はもっとこの問題について掘り下げていきましょう。
*そのほかにも、グリーン表面に水が浮いている場合などでもボールはバックスピン量とは無関係に止まります。