ゴルフには、みんながなんとなくそう思っている定説がいくつもある。もし、その定説が違っていたとしたら……。1メートルが9割の確率で入る「トライプリンシプルパター」とその理論を作り上げた福岡大学名誉教授、医師・医学博士の清永明(きよながあきら)先生とともに考える新コーナー! 「ボールはバックスピンだけで戻らない!?」を引き続き検証!

さて、前回お伝えした「ボールはバックスピンだけで止まらない、戻らない」というお話ですが、私が研究してきた実験結果を踏まえ、もう少しみなさんと考えてみたいと思います。

画像: ボールはバックスピンだけではグリーン面上で止まらない・戻らないと清永明教授。ではどんな要素がギュギュッと止まる球を生み出すのだろうか?

ボールはバックスピンだけではグリーン面上で止まらない・戻らないと清永明教授。ではどんな要素がギュギュッと止まる球を生み出すのだろうか?

【問題】
ドライバーからパターに至るまで、どのクラブであれ、自分の使用したクラブによって打ち出されたボールがグリーン面上に止まることに関係する因子を列挙して下さい(バックスピン量は除く)。

さて、みなさんはどれくらい思いつくでしょうか?

ボールがグリーン面上に止まるための諸条件(1)

まずひとつに「グリーンの硬さ、軟らかさに関係すること」があります。

グリーンの硬さを決める要素は

【1】設計面でいえばグリーンを造成するための基本構造(排水管設置)の有無、サイドグリーン構造(底部から岩石、小石、粉砕石、砂、土の層状)の有無

【2】水分の多寡、これは地形や天候に影響されます。ゴルフ場の年間降雨量、日照時間、風の有無。河川、池、海等の有無。森林の有無。スプリンクラー施設の有無も関係します。

【3】圧縮の程度に関しては、ローラーのかけ方(かけた回数と方向性) あとは年間月間週間1日当たりのラウンド者の多寡が挙げられます。

次に「グリーンに関すること」がありますね。

まず【1】グリーン傾斜形態(受けグリーンなのか、フラットグリーンなのか、奥への下り傾斜なのかマウンドか)。そして【2】グリーンの傾斜の度合いもですね。上り、下りいずれの場合でも、その度合いが1〜3%未満か、3〜6%未満か、6〜10%未満なのかでもちろん変わります。ちなみに申し上げておきますと、11〜12%以上の傾斜面において、ボールは静止力学上の摩擦の関係からグリーン面上に止まることができません。

画像: 清永教授が実験したストレートラインでグリーン傾斜におけるボールの転がる距離。スティンプメーターで10フィートの芝の場合は11.8%以上の上り傾斜でボールが戻ることになる

清永教授が実験したストレートラインでグリーン傾斜におけるボールの転がる距離。スティンプメーターで10フィートの芝の場合は11.8%以上の上り傾斜でボールが戻ることになる

画像: スティンプメーターで10フィートの芝の場合は12%以上の上り傾斜でボールが戻ることになる

スティンプメーターで10フィートの芝の場合は12%以上の上り傾斜でボールが戻ることになる

そして「芝に関係すること」です。

【1】芝の種類(高麗芝か、西洋芝かなど)。【2】刈り高が長いか、短いか。【3】芝目が順目か、逆目か。【4】芝の葉の水分含量が多いか少ないか、ということになりますね!

ボールがグリーン面上に止まるための諸条件(2)

ここからはクラブに関係がある要素です。前提として「グリーン面が平坦で、硬く保持されているという条件のもと」で、「ボールはどのようなメカニズムで止まるのか」を考えてみましょう。

まず、私が56度のSWで実験した「打ち出し角度とバックスピンによるランの差」のデータをごらんください。

画像: 56度のSWを使い打ち出し角度とバックスピンとランの関係を調べた結果をまとめた図

56度のSWを使い打ち出し角度とバックスピンとランの関係を調べた結果をまとめた図

これにより「上への打ち出し角が高ければ、バックスピンは少ないにも関わらずランは少ない」逆に「バックスピンが多くても打ち出し角度が低いボールはランが多い」ということが言えます。この結果ランを少なくするためには「バックスピン量を増やすことよりも、上方向の打ち出し角度をできるだけ高く」すればいいことになりますこれはみなさんも経験でなんとなくわかるのではないでしょうか?

そして統計学的手法を用いて重回帰式よりランの距離を算出すると

SWのラン=39.041-0.071×(上向き打ち出し角度)-0.039×(バックスピン量)

となりランを0にするには上向き打ち出し角度が55.7度必要になるのがわかります。

これらの要素はヘッドスピードの遅速に関係する、おもにクラブの長さに影響されます。さらにさらにボール自体に関係する問題も挙げられますね。ディンプルの形状や数の違い、ボール材質や構造も大きな要素です。

「打ち出されたボールがグリーン面に止まる」ということを考えるにしても、これだけのことを分析する必要があるのです。

ボールの影響については次回さらに詳しくお伝えすることとしましょう。

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