9月初旬の世界アマチュア選手権の個人戦を2位で終え、同下旬の「パナソニックオープン」でアマチュアで日本ツアー優勝。その勢いは留まらず、アマチュアとして2度目のツアー制覇をなんと日本オープンで挙げた蝉川泰果選手。そのプレーはラフが深く、硬く速いグリーンのメジャーセッティングでも飛距離の出るドライバーを武器にピンを攻め続けました。フィニッシュまで思い切りよく振り切るドライバーショット、距離と方向性を両立させた高さのあるアイアンショット、グリーン周りのアプローチ、パッティングと心技体の総合力の高さを見せてくれました。
小6から高3まで指導を受けてた青木翔コーチに当時を振り返ってもらうと現在のプレースタイルの基礎を育てた指導法が見えてきました。
「まずドライバーは曲がってもいいからひたすら振れ! でしたね。精度を求めて振らなくなるのは違う。思い切り振ったうえでフェアウェイの幅の中に収めることが大事だと話していました。それと当時は飛距離が出ないほうだったのでショートゲームでスコアを作れるようにと、たくさん練習を重ねました。高校生になってからはトレーニングを積み重ねてきたので飛距離も伸びてきていました」(青木翔コーチ、以下同)
「飛距離を落としてフェアウェイに置くのではなく、振ってもコントロールできるドライバーを目指す」という青木コーチの指導がプロでも通用するドライバーとスコアメイクできるショートゲームの基礎を作ったのでしょう。
もう一つ、左手の甲が正面から見えるストロンググリップについて聞くと「直そうとしたこともあったのですが、大切な感覚が失われる可能性もあるのでそのままにしました」と青木コーチ。
そのことが結果的にフェースの開閉が少なく、方向性に優れた、現代のクラブにもマッチしたスウィングを作ることにつながったと思われます。さらに大学生になってから体力が上がり、飛距離も手にしたことで現在の蝉川選手のプレースタイルが完成したのではないでしょうか。
実際にスウィングを見てみると、ダウンスウィングで回転力を目一杯使うために軸をセンターに置きながら深く捻転していることが見て取れます。(画像A)
そして切り返し以降は、地面からの反力を回転力に変換し体をフルターンさせながらヘッドを加速させています。ストロンググリップの特徴でもある左手の甲が正面から見える形のままインパクトを迎えるので、フェースを返すタイミングは遅く開閉の少ないインパクトゾーンを身に着けています。(画像B)
「素直で目立つのが好きで、本当に良い子です。練習時間は長かったですね。クラブのことでも疑問に思ったことは何でも聞いてきました。伸び悩んだ時期もあったようですがナショナルチームのガレス・ジョーンズコーチや大学の先輩たちからの支えもあったと思いますね」
蝉川選手は今後時機を見てプロに転向し、日本ツアーをベースに目指す米ツアーに向けて先輩松山英樹選手の後を追いかけることになるようです。大西魁斗、中島啓太、久常涼、桂川有人など伸び盛りの若手が多い男子ツアーからも目が離せなくなりそうです。
2014年に軽井沢で開催された「世界アマチュア選手権」で日本は、男子29位タイ、女子8位タイと惨敗したところから、日本ゴルフ協会(以下JGA)はガレス・ジョーンズコーチを招聘しトレーナーも含めて一丸となってナショナルチームのレベルアップを図ってきていました。その成果が金谷拓実、中島啓太の世界アマチュアランク1位獲得につながり、女子ツアーでもナショナルチーム出身の勝みなみ、古江彩佳ら多数の選手の活躍にもつながっています。
ナショナルチームのアマチュア選手がJGA主催の日本オープンを制したことは歴史的な快挙になりましたが、JGAの取り組みが大きく花を咲かせたことでもあると思います。後に続く馬場咲希選手などJGAの取り組みの成果が今後のゴルフ界を盛り上げることにつながっていくことでしょう。