「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレーヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈に向かい続け、現在はレッスンも行う大庭可南太に、上達のために知っておくべき「原則に沿った考え方」や練習法を教えてもらおう。

みなさん、こんにちは。「ザ・ゴルフィングマシーン」研究者およびインストラクターの大庭可南太です。前回の記事では、「ザ・ゴルフィングマシーン」で提唱されている、スウィングづくりの「設計図」のなかでも、最も初歩的な「ベーシックモーション」について説明をしました。

今回の記事では一歩進んだ、ハーフショット気味の「アクワイアードモーション」、また次回の記事ではフルスウィングへとつながっていく「トータルモーション」について紹介していきたいと思います。

しかしこれらの記述は、スウィングの部品である「コンポーネント」の番号と、推奨のバリエーションの記号が並んでいるだけですので、各コンポーネントの内容を理解していないとかなり意味不明なものになります。

このあたりが「ザ・ゴルフィングマシーン」が難解であるとされるひとつの要因ですが、良くも悪くも「スウィングは24個の部品の集合体」であるという「構成主義」で書かれている書物なのだということをご理解頂ければと思います。それでいて「そのひとつひとつの部品が、相互に連携、連動して機能を発揮して、ゴルファーの感性のもと『全体』として統合される」などと言い出すので厄介なのですが。

では今回のお題である、「アクワイアードモーション」について紹介をしていきます。前回の「ベーシックモーション」ではパットからチップショットの振り幅でしたが、今回はそれがアプローチからハーフショットレベルになります。

アクワイアードモーション

ちなみにアクワイアード(Acquired)というのは「習得された」「後天的な」のような意味ですが、「ベーシックモーション」の状態と比較して「より習熟が進んだ」という意味ではないかと思います。

画像: 画像A プロが最も練習量を多く割いているのは、こうしたアプローチ幅のショットである(左から古江彩花、渋野日向子)

画像A プロが最も練習量を多く割いているのは、こうしたアプローチ幅のショットである(左から古江彩花、渋野日向子)

(1)ウェートシフト 右ひじが体幹から離れない程度の振り幅で双方向に荷重の移動を行う。
(2)フラットショルダーターン 左右の肩は沈み込まない大きさでフラットなターンを行う。
(3)ニーアクション インパクトまでシットダウンの状態を維持。
(4)フットアクション バックスウィングに向けて左足がベタ足。
(5) リストコック 左手首のコックを微少に伴う。
(6)リストアクション バックスウィングに向けてコックした左手首が微少なターンを伴う。
(7)リストロール インパクトからフォローに向けて、リバースターンが発生するが、右手人差し指のプレッシャーは維持されている。
(8)クラブヘッド操作 クラブヘッド重量による「ラグ」を維持する。
(9) オンプレーンなクラブシャフト クラブシャフトは同一平面上に留まる。
(10) ローディングアクション ダウンスウィングのいずれかの時点でローディングを行う。
(11) プレシャーポイント#3 インパクトにかけて、右手人差し指にプレッシャーが維持されている。
(12) リリース 適切なタイミングを意図したリリースを行う。
(13) フォロースルー フォローで両腕が真っ直ぐな状態になる。
(14) エンドレスベルト効果 クラブヘッドの角速度が、インパクトに向けて両手の角速度を上回る。

今回はなんとたったの14項目です。上記の説明を見て、「ああ、なるほどねー」となる方はもう立派な「ザ・ゴルフィングマシーン通」です。「そうはならねーよ」という方(正常な感覚の持ち主です)は過去記事の見出しを拾って頂けると、より詳細な説明をしている項目が結構あるはずです。

前回の「ベーシックモーション」が、「きちんと当たる」体勢づくりに重点を置いていたのに対して、今回の「アクワイアードモーション」では、クラブヘッドを「二重振り子」を活用して動かす感覚の習得に重点を置いていると言えます。とは言え、スウィングの振り幅はそれほど大きいものではありません。30ヤードくらいのアプローチ、あるいは50ヤードくらいまでのハーフショットのようなイメージではないでしょうか。

なぜプロや上級者はアプローチ幅のショットを重視するのか

一般論として、プロや上級者ほど短い振り幅のショットの練習量が多く、アマチュアほどフルショット(そしてドライバー)の練習量が多いように思います。なぜアマチュアの練習がフルショット中心になるのかというと、一つにはボールが遠くに飛んでいくのが「気持ちイイから」というのもあるでしょうが、おそらくはフルショットのほうが「当たりやすいから」ではないかと思います。

フルショットは、クラブヘッドの速度が速くなる結果、クラブヘッドにかかる遠心力も大きくなり、そのために両腕が伸ばされることで、スウィングの半径が安定しやすい傾向があります。そのためスウィング全体として脆弱性が多く存在しても、ナイスショットになりやすいのです。

いっぽう、アプローチ幅ではスウィング全体の速度を出せないため、クラブヘッドのかかる遠心力を活用してスウィング半径を保つことがより難しくなると言えます。

ここで重要になるのは、「いかにクラブヘッドの重量を感じられるか」、より正確な言い方をすれば「クラブヘッド重心を感じているか」になります。クラブヘッド重心を基準とした「振り子」になっていれば、振り幅が小さいショットでもリズムとスウィング半径を維持したショットになります。

しばしばプロや上級者が、ショットを打ち終わった後にグリップをゆるめてストンとクラブヘッドを手元に落とす(その際に「クルクル」を入れる場合もあります)仕草をすることがありますが、あれはクラブヘッドが「重たい」と感じている状態から開放しているのです。つまりそれだけクラブヘッドの重心を感じているということであり、短いショットの方がその感性を養うのに効果的だということになります。

画像: 打ち終わった後にクラブヘッドを手元に落とすのは、それだけクラブヘッドの重心を感じられている証拠(写真2022年 樋口久子 三菱電機レディス 撮影/姉崎正)

打ち終わった後にクラブヘッドを手元に落とすのは、それだけクラブヘッドの重心を感じられている証拠(写真2022年 樋口久子 三菱電機レディス 撮影/姉崎正)

「ライン出し」はまさに「アクワイアードモーション」の延長

話は変わって、先週の「樋口久子 三菱電機レディス」で金田久美子選手が11年ぶりの復活優勝を遂げました。コースコンディションの影響もあったと思いますが、「ライン出し」と呼ばれる、ハーフショット気味のショットを多用して優勝をたぐりよせました。

しかしそうしたショットをよく見ると、フォローで両手の位置はそれほど高くないにも関わらず、クラブヘッドはしっかりと高い位置に到達していることがわかります。

画像: グリーンを狙うショットで見られるライン出しショット(写真 左は金田久美子 右は馬場咲希)

グリーンを狙うショットで見られるライン出しショット(写真 左は金田久美子 右は馬場咲希)

つまりインパクトでしっかりとクラブヘッドが加速して両手を追い越していかないと、ああしたキレのあるフィニッシュにはならないのです。プロや上級者のグリーンを狙うショットではしばしば見られる光景ですが、しっかりとクラブヘッドを動かす意識という点では、今回の「アクワイアードモーション」の延長と言えるでしょう。

美しいフィニッシュも確かにカッコイイのですが、アプローチやハーフショットの練習を増やしてみると、新たな発見があるのではないでしょうか。

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