スペインの「ラ・マンガクラブ」で開催された欧州女子ツアー(LET)最終予選会「Qスクール」。日本から出場していた識西諭里が、全5日間を競技を戦い抜きトータル3アンダー17位タイで来季出場権の獲得に至った。
識西を指導し、今大会では現地でキャディも務めた井上透コーチは「20位以内でフィニッシュできたことはすごく大きい成果です」と語る。
「Qスクールで20位以内に入れば『カテゴリー12』という出場枠で来季LETに参戦できます。20位以内に入れなくてもある程度の試合には出れるのですが『カテゴリー12』に入ることでリランキングに対してすごくアドバンテージが取れるんです。ざっくりの説明ですが、LETに本格参戦してシード権を狙うことを考えれば、まずQスクールで20位以内に入る必要性があったというわけです」(井上コーチ、以下同)
識西の最終スコアはあと1打違えば20位圏外に落ちる、まさに瀬戸際。プレーを支えたのは「この一週間終始良かったショットですね」と井上コーチは振り返る。
「本当に恐ろしくショットが上手いですよ。僕がいろんな選手を見てきた中でもトップクラスだなと思いますね。特にこの5日間は、ことショット力……ドライバーの精度や、アイアンがピンにつく距離に関しては驚くべき精度で打っていました。正直ショットだけで言えばトップ3ぐらいは楽々狙えるような内容だったと思うんですね。それを決めきれなかったからこその最終スコアとも言えるわけですが」
難しかったのはパッティング。「グリーンコンディションがかなり悪くて難しいうえに、緊張もあったでしょうね」と井上コーチ。
「日本では経験できないバンピー(凹凸があり跳ねやすい)なグリーンで距離感がつかめず、近くにつけたパッティングがあまりにも入りませんでした。グリーンのスピードも8.5フィート前後の超低速。届かせようとするとオーバー、普通に打つと届かないというくらい重たい感覚のグリーンで、毎回5メートルぐらいのミドルパットも50センチぐらいショートしてしまいました」
ただそんな中でも耐えてプレーし、前半では80ヤードのウェッジショットをダイレクトインしてイーグルを奪取。早々に6アンダーまでスコアを伸ばすも、9番では80センチのパットを外しパー、10番では5メートルのバーディチャンスから50センチショート、続くパットも外してボギーと悪い流れに。
「後半で崩れてしまう、諭里のよくないパターンに突入してしまいましたね。日本のプロテストや米女子ツアー最終予選会『Qシリーズ』でもちょっと悪い流れになってくると崩れてしまうシーンがあったと思います。でもそこは、こういう状況の識西諭里をキャディする、サポートするということなんだなと、僕は自分で勝手に思っていて。悔やむプレーでも『選択に対する後悔はそのラウンド中にすべきではない』『カッコ悪いゴールの仕方でも20位以内フィニッシュに意味がある。それが何においても重要だ』というのを強く彼女にも伝えて、できる限り負のマインドにならないように努めました。16番ホールの時点でギリギリ20位以内のスコアというのはわかっていたので、残り3ホールを本当に死ぬ気で耐えましたね」
そして迎えた最終ホール、入れば4アンダーの2メートルの下りのバーディパットも全力で寄せに行き、残った20センチのパットを決めてパーセーブ。無事20位以内でのフィニッシュを決め切ったというわけだ。
「終わった後はなんかもっとやれたんじゃないかみたいな気持ちを最初持ってたと思うんですけど、何しろその順番関係なく20位以内のフィニッシュに価値が、ものすごくあるので。やはり一打の差というのははるかに価値がありました」
LETへの出場権という明確な成果を得た一方で、課題もくっきりと浮かび上がったQシリーズでの戦い。井上コーチは今後の展望をこう語ってくれた。
「諭里は気持ちのムラッ気がまだ基本的に大きい選手なので、そこをいかに減らすかというのはこれからの試合の課題ですね。今までの6年間、ほとんど3日間・4日間の試合をこなせなかった彼女にとっては、来季のLETの試合の中で学んでいくことなんだろうなというふうに感じます。今後グリーン周りがもっと成長すれば、LETでもシードを狙えるようなパフォーマンスを十分期待できるなというように感じています。あとは整備された日本のグリーンとは違う、いろいろな悪条件を受け入れながらプレーする難しさに慣れることも大事ですね」
果敢に挑戦し海外への切符をつかみとった識西、そして井上コーチの活躍に今後も注目していきたい。
写真提供/井上透