序盤は上田の独壇場だった。
4打リードを持ってスタートすると、1番から5連続バーディ。あっという間にリードを7打にまで広げ、優勝はほぼ確実かと思われた。
ところが、この後、流れは一変する。一時は8打差をつけられていた青木がバーディを重ねると、上田が失速。
1打差にまで迫って迎えた13番パー5では上田がこの日2つ目のダブルボギーとしたのに対し、青木は2メートルのバーディパットを確実に沈め、逆転と同時に2打のリードと立場が完全に入れ替わった。
上田の2つのダブルボギーはいずれもバンカーショットが絡んだもの。11番パー4ではグリーン手前のバンカーから奥のバンカーに打ち込み、13番ではバンカーからの脱出に失敗した。
「ちょっと遠い距離のバンカーで奥が下っていたのでスピンをかけたかった。11番は下半身が止まってしまって、13番は安全に深めに(砂を)取りに行ったら、ザクっとなってしまって」
2017年にはサンドセーブ率1位のバンカーの名手が優勝争いのなかでまさかの落とし穴にはまった。昨季は最終日を首位で迎えた3試合でいずれも優勝を逃したが、今回も3位タイフィニッシュと嫌な流れが続いてしまっている。
一方、首位に立ってからもスコアを伸ばし続けた青木は
「優勝争いをしていると一日を通じて苦しい場面が来ないことはないと思っていたので、桃子さんも後半、厳しくなるかもしれない。私も伸ばせばチャンスがあるかもしれないと諦めずにやった結果だと思います」
まさにその通りの結果になったわけだが、目の前で5連続バーディをみせつけられ、心の底から逆転を諦めないというのはなかなかできるものではない。
キャディとしてもサポートした大西翔太コーチは
「相手のことは考えずに、自分のやるべきことに集中しようという話はオフからずっとしてきました。今日の青木プロはそれができていたと思います」
とラウンド中の様子を振り返る。
自分に徹することができたきっかけは他競技の一流選手との出会いだった。
「青木プロとトップアスリートの方が食事をする機会が増え、ありがたいことに私も同席させていただくこともあるのですが、皆さんおっしゃるのは『最大の敵は自分』『最後は自分との闘い』ということでした。野球やサッカーでそうなら、相手と直接やり合うことのないゴルフはなおさらだよねと話してきました」(大西)
青木は後半、スコアボードを見ずにプレー。4打リードの最終18番でパーパットを沈めた瞬間も優勝したという確信はなかったほどで、自分との闘いに徹していたことが分かる。
昨オフから斎藤大介トレーナーに弟子入りし、最終戦が終わった2日後からトレーニングを開始した。
スウィング中は地面を踏むことを意識して、約10ヤードの飛距離アップにも成功。
精神面だけでなく、肉体的にも、技術的にも進化を遂げている。
今季の目標は複数回優勝や8月の「AIG全英女子オープン」出場だ。
シーズン序盤での劇的逆転Vでこれらの目標に向けて、大きく前進したことは間違いない。