マスターズ初勝利を飾ったジョン・ラーム
今年のマスターズは悪天候のため2日連続でサスペンデッドになり長い4日間となりました。特に3日目は前日と比べて20度も下がる気温と雨の難しいコンディションに右足に不安を抱えるタイガー・ウッズは最終日を前に棄権しました。
初日、2日目とスコアを伸ばしたブルックス・ケプカとジョン・ラームは3日目は73と足踏み。最終日はケプカが2打のリードを持ってスタートするも、前半に3つのボギーを叩き75と崩れる中でラームは4バーディ1ボギーの69と落ち着いたプレーで逆転しマスターズ初優勝を飾りました。
マスターズ初勝利を目指すLIVゴルフに参戦し間近に1勝したケプカと、PGAで今季3勝のラームとの間にどんな差があったのか定かではありませんが、二人のプレーがマスターズを盛り上げたことは間違いありません。LIVとPGAツアーの行方にも良い影響を与えたものと考えたいですね。
では飛距離の出るフェードボールでマスターズを制したラームのスウィングを見てみましょう。
ウィークグリップで握りコンパクトなショートトップ
ラームのスウィングはコンパクトなショートトップだけでなく、左手の甲をターゲット方向に向けて握るウィークグリップも特徴的です。ストロンググリップ全盛かと思いきやコリン・モリカワも同じようにウィークグリップで握っていますし、ターゲットと左手首が正対するウィークグリップはフェース面をスクェアに保つ意識が持ちやすいメリットもあります。左手首が手のひら側に折れる”掌屈”を作りやすいこともインパクトでフェース面をスクェアに戻すことにもつながります。
始動でわずかに右に重心を移しますがその度合いはほんの少し。トップからの切り返しでターゲット方向への移動(横方向の力)を使う割合はかなり小さく見えますが、しっかりと左へ踏み込んで切り返しています。
ショートトップから太い体幹部を使って切り返すとシャフトに負荷がかかっていることが見て取れます。地面と平行な位置になるオーソドックスなトップと比べるとシャフトをしならせるタイミングが遅いので、マッチするシャフトのキックポイントも変わってきそうです。
切り返しから左腕が地面と平行になる位置で回転力のピークを迎え、その後シャフトが地面と平行の位置で左足のひざを伸ばす動きに象徴される縦の力のピークを迎えることが、多くのツアープレーヤーの計測データから解析されています。切り返しでの左への移動、回転力、縦の力へと出力が移行しクラブヘッドを加速させるエネルギーを出し続けるので、大きな飛距離へと結びついています。
切り返しから左手首が手のひら側に折れ、左腕が内から外へと回転する"回外”という動作が入り、ハンドファーストで力強いインパクトになることが見て取れます。ウィークグリップ、ショートトップからの再現性の高いスウィングがラームにとってナチュラルな動きなのだと思います。
昨年マスターズを現地取材した際に感じたのは、左足下がりのライから打ち上げるセカンドショットや、傾斜が強く速いグリーンへのアプローチなど、ゴルフを難しくする要素がそこら中に散りばめられているのがオーガスタ・ナショナルGCです。
松山英樹選手が見せてくれた質の高いアプローチの技術、ショット力、決めるべきところで決められるパットなどの技術の高さにプラスして、メンタル、体力など心技体とともに運も味方につけ、その週にすべてを持ち合わせることが、マスターズを制するには必要な要素。そのすべてを今週のラームは持ち合わせ、高い次元で発揮していました。鍛え上げた体という排気量の大きなエンジンで再現性の高いスウィングを持つラームの活躍はまだまだ続きそうですね
写真/Blue Sky Photos