昨年記録づくめの女王に君臨した山下選手がシーズン早々に勝利を飾りました。しかし今大会の優勝は、持ち味である昨年1位だったパーオン率の高さで獲得したものではありませんでした。
最終日前半の山下選手は、4番でバーディを取るも5、6、7番を寄せワンでしのぎボギーを打ちませんでした。パーオンは18ホール中13と昨年のパーオン率1位の山下選手のゴルフではなく、アプローチとパットでしのいだノーボギーのラウンドでした。
苦しい時間を耐えてノーボギーで優勝を手繰り寄せた
同組で単独4位で終えた仲宗根澄香選手のキャディを務めた関根淳プロキャディは「苦しい時間をパーでしのぎ、勝負どころで100点のショットで決める強さを見せつけられました」と振り返ります。
そして終盤16番パー5では、先に2オンさせバーディ確実の岩井千怜選手が、山下選手にプレッシャーをかけます。山下選手の3打目は良い当たりの音ではありませんでしたが、ピン手前に乗せ、プレッシャーを跳ね除けバーディを奪います。17番は岩井選手のナイスパーがあり、同スコアで勝負は18番に持ち越されます。
飛距離で劣る山下選手の2打目はUTを持ち、グリーン右手前のピンを狙った勝負の一打はピンそばにピタリ。18番を繰り返すプレーオフは山下選手にとっては不利になるので、ここで決めようと全集中の一打が岩井選手にプレッシャーをかけました。
岩井選手の2打目は右手前のバンカーに落ち目玉の状態になり、万事休す。バーディパットは決められませんでしたがボギーとした岩井選手を振り切って今季初勝利を手繰り寄せました。
「ボギーが一番少ない選手が強い選手。ショットの悪い中をパットで耐え、最後の最後でピンをデッドに狙ってプレッシャーをかけ相手がミスをする状況を作り上げました」(関根淳プロキャディ)
ラウンドの流れを読んだゲーム運びの上手さが光った今季初勝利でした。それではスウィングを見て見ましょう。
ワイドスタンスにボールとの距離も適度に遠い
やや広めのスタンスで骨盤を起こした姿勢。反り腰にはならない程度に背中に張りがあり、両肩が下がってわきが締まったバランスの取れたアドレスです。
手元は左手がアゴの下とわずかにボールとの距離を取っています。手元がアゴよりも内側つまりボールに近く構えるとアップライトに上がりやすく、遠いとフラットなプレーンになりやすくなります。
ややフラットで手元が遠いトップ
トップでの手元の位置はボールから遠く、頭と同じ高さのややフラットなトップ。鍛え上げた下半身がスウェイすることなく右足裏全体でしっかりと地面を踏みしめ、その力を受け止めます。
バックスウィングで右足、右ひざが不動で足から背中へと大きな筋肉を十分に引き延ばしダウンスウィングのエネルギーを蓄えています。
トップでの顔の向きをキープして切り返す
山下選手のスウィングの一番のポイントは切り返しにあると思っています。顔の向きをトップと変わらずに切り返すことで、右肩が前に出たりアウトサイドからクラブが下りてくることを防ぎます。
顔の向きをキープしたまま切り返すと、西村優菜選手がよくいう”右で振る”感覚になるはずです。インサイドからクラブを下ろし、インパクトに向けてヘッドを加速することにもつながりますのでカット軌道から脱却するヒントになるでしょう。
インパクトでは右の側屈
右ひじが左腕よりも下にあり、適度に右の体側が側屈することで前傾姿勢をキープしたままインパクトを迎えます。そうすることでティーアップしたボールをややアッパー軌道で振り抜いていけます。左足かかとが浮いているのが見える通り、縦の力も使って効率よくヘッドを加速させていることが見て取れます。
練習日には、コーチを務める父・勝臣さんとトラックマンを置いてドライバーを重点的に練習している姿を目にしていました。ヘッドスピードは41m/s前後でヘッドスピードに対するボール初速の割合を示すミート率(スマッシュファクター)がほぼ毎回1.49と非常に高い数値が表示されていました。つまり、毎スウィング、芯に当たる確率が高いことを表しています。
父・勝臣さんはスウィングを見るだけでなく、パットやマネジメント、その日の調子に合わせた戦略、コンディションなど総合的に監督のような役割を果たしています。プレーするのは山下選手本人ですが、父・勝臣さんはチーム山下にとって非常に大きい存在なのだと思います。
優勝争いのプレッシャーの中で、勝負の一打を放つ強さを見せた山下選手。今季も女王に最も近い選手であることは間違いないことを印象付けた優勝になりました。