「MT-28」「MTIウェッジ」など数々の名器を世に送り出し、日米両ツアーで多くのプロ支給品を手がけたクラブ設計家、宮城裕治氏が流行に惑わされないクラブ選びとクラブ設計の真実をクールに解説。今回はスリクソンの人気の理由を考察してもらった。
画像: スリクソン「ZフォージドⅡ」アイアンを使用する松山英樹。ドライバーは「ZX5mkⅡ」だ(Photo/Tadashi Anezaki)

スリクソン「ZフォージドⅡ」アイアンを使用する松山英樹。ドライバーは「ZX5mkⅡ」だ(Photo/Tadashi Anezaki)

スリクソンのアイアンはすごく真面目に作られている

みんゴル取材班(以下、み):スリクソンの「ZX5 MkII」アイアンが売れています。ドライバーの評判もまずまずです。いま国内ブランドではスリクソンが一番元気ですが、理由はどこにあると思いますか。

宮城:「ZX7 MkII」や「Z-フォージドII」なんかも同じですが、スリクソンのアイアンが"屋根ソール"を採用するようになってから、今のシリーズの形状が一番自然です。以前のモデルなんかはプロが平らに削って使っていましたから。

み:ツアーV.T.ソールですね。「ZX5 MkII」も「ZX7 MkII」も昔ながらのオーソドックスなキャビティアイアンといった風情ですね。

宮城:スリクソンのアイアンはすごく真面目に作られています。極端な設計をしていないので振りやすいし、現行モデルは顔もそんなに逃げていないので、フェードを打つ人はすごく気持ちよく振っていけるはずです。松山英樹選手の意見もフィードバックされているので使う側にとっては信頼性もあります。

み:ヘッドを作っているのは遠藤製作所ですね。

宮城:国内メーカーはほとんど中国生産に切り替えてしまいましたが、スリクソンが唯一遠藤製作所から離れないのはプロ対応をしっかりとしてくれるからでしょう。

み:遠藤製作所ではプロ専門のチームを組んでいるとか。昔は契約プロの人数でダンロップとブリヂストンが競っていましたが、いまやダンロップが断トツですからね。

宮城:市販モデルの評価が高いのも遠藤製作所だから。そこまでいうと語弊があるかもしれませんが、アイアンはマスターモデルを削る人のセンスが大事なんです。形状についてはメーカーもある程度注文を出しますが、ネック周りなど肝心なところの仕上げはマイスターの腕次第。ぼくがアイアンを作るときも毎回遠藤製作所の同じマイスターにお願いしています。

極端なことをしていないからドライバーも振りやすい

み:PGAツアーでもスリクソンの使用者が増えています。ブルックス・ケプカも顔を気に入ったのでしょうか。

宮城:フィーリングだと思います。最近はプロモデルでもバネ鋼を使いますが、スリクソンは正真正銘の炭素鋼なので、打感は外ブラに負けていません。外国人プロは意外と顔を見ないんですよ。打感、音、抜け方、飛び方がイメージ通りなら顔はあまり気にしません。昔、フォーティーンの中空アイアンを持ち込んだときみんな右に行ってたので、ちょっとアップライトにしようかって提案したら、そのままでいいといわれました。右なら右でオーケー、それを真っすぐ飛ばすのは自分の仕事だと彼らはいうわけです。安易に道具のせいにしないんです。

み:スリクソンのドライバーはどうでしょう?

宮城:ドライバーも極端なことをしていないから振りやすい。あとスリクソンに限らずですが、日本のドライバーはすわりがいいんです。外ブラと長く契約しているプロからつい先日こんな話を聞きました。大型で後ろの重いヘッドは置いたときにフェースが開きやすい。アメリカの本社でフィッティングしたときに何でこんなに右を向いているのか聞いてみたところ、パソコンの中では真っすぐ作ってるから、自分で真っすぐ向くようにかまえ直してくれといわれたそうです。一方、日本のメーカーは一度モックアップを作ってシャフトを入れて構えてみてから、データをパソコンに取り込んで設計しています。だからポンと置いたときに真っすぐ向きやすいわけです。

み:なるほど。ひと手間もふた手間も余計にかけているわけですね。

宮城:アイアンもドライバーも、飛ぶとか飛ばないとか、それ以前に人間の使う道具として真面目に作られているところが評価されている最大の理由だと思います。

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