ダメなところをしかって修正するより、いいところを褒めて伸ばす
永井氏はツアーには帯同せず、埼玉・毛呂山町の練習場リンクスゴルフクラブで勤務している。
岩井姉妹のプロテスト合格後、姉妹の父・雄士さんから「これを機に正式にコーチ契約を」と依頼されたが、「うれしいですが、このままの関係でいましょう」と返答。同クラブで利用客、ジュニアを指導する道を選んでいる。
「長く続いてきた“いい関係”を崩したくないんです。私はここでの仕事もありますし、プロになった姉妹に影響を与えていくのはどうかと思っています。2人がここまで来たのは、彼女たちの才能と努力があったからこそです。私はアドバイスを求められたら、気付いたことを伝える。それでいいので」
平日は夜7時頃になると、永井氏によるスクールが始まる。子どもたちも大人と一緒にレッスンを受けている。
「それは技術的なことが狙いではなく、『大人とも会話ができるようなってほしい』という思いからです。大人は子どもたちが頑張っている姿に感心しますし、上達すれば『うまいね』と話しかけてくれます。その時にちゃんと、『ありがとうございます』と返せることはゴルファーの前に人として大事なことです。プロを目指して頑張っている中1の女子は、一緒に練習している方から応援され、今ではその方の自宅にある練習グリーンをパット、アプローチ練習で使わせてもらっています。そういうこともメリットの1つです」
子どもたちを指導するにあたり、永井氏は「ダメなところをしかって修正するより、いいところを褒めて伸ばす」を信念としている。
「1つの目的が達成されたらそこを褒めるようにしています。『ゴルフは楽しいもの』と感じてほしいからです。バックスウィングが良ければ、そこをしっかりと褒めるという感じです」
岩井姉妹の場合は、明愛は1つ教えれば、その先の3、4までできる天才型で、千怜は1つ1つ積み上げていく努力型だったという。
「あきちゃん(明愛)は本当にすごくて、教えたことがすぐにできしまうし、連動でその先もできてしまう子でした。ちーちゃん(千怜)も能力は十分高いけど、あきちゃんのようにはいかない。それでも、焦ることはなかったですし、マイペースでコツコツと練習を重ねていました。そこはすごく良かったです」
やはり、プロテストに一発合格した岩井姉妹は幼少から光るものがあった。ただ、才能があっても経済的な理由からプロへの道を断念する子どもたちは少なくない。
その点、リンクスゴルフクラブは「小学生まではボール代が無料」。岩井姉妹については、永井氏がオーナーに「この2人は将来、すごい選手になります。中学生になっても無料してください」と掛け合い、無料が継続となった。
どんなタイプの子にも分かりやすい言葉で伝えることを心掛けている
岩井姉妹に憧れ、永井氏のスクールは小中学生の生徒が増え始めている。
岩井姉妹ほどに才能ある子は簡単に出てくるものではないが、永井氏はどんなタイプの子にも分かりやすい言葉で伝えることを心掛けている。
「子どもはクラブの重さに負けるので、逆に大人よりも体をうまく使うことができますが、『背中を目標方向まで回して』と言っても理解されないことがあります。その場合は、『胸を後ろに回してみて』と伝えます。ドライバーになると細かいことは言わず、『とにかく遠くに飛ばしてみよう』と言っています。そうなると、子どもは夢中になってボールを打ち、どうすれば遠く飛ぶかを考えて、自分の中でのテンポ、リズム、タイミングをつかんでいきます」
それでも、子どもにはさまざまな可能性があり、自分の実力を考えて、中学卒業時に「プロとは別の道」を選択するケースが少なくない。永井氏も「それでいい」と思っているが、1つの願いがある。
「ゴルフを続けてほしいということです。どの指導者もそうだと思いますが、スコアがいいから偉いのではなく、うまくても態度が悪い子には注意をしています。逆に『プロになる才能がない』と思って他の道を選んだとしても、ゴルフを通して学んだマナーや思いやりは生きていきます。なので、クラブは置かずにゴルフでさらに人間性を磨き、多くの人と触れ合ってほしいです」
人間性も評価される岩井姉妹は、ツアーの合間にリンクスゴルフクラブを訪れることがある。幼少から通った、ここに来れば「ホッ」とできるからだ。そして、優しく導いてくれた永井氏は心のオアシス。
岩井姉妹との“いい関係”は続いている。