
“情熱的なジュニア指導”を重ね、数多くのツアープロと契約している三觜喜一氏
「心からゴルフをしたい」がスクール入校の条件
三觜氏は「レッスンの達人」であり、数多くのツアープロと契約している有名コーチだが、そこに至るまでに“情熱的なジュニア指導”を重ねていたことでも知られている。
「20年間、自分のジュニアスクールを持って子どもたちを指導してきました。週4日、4時間。基本的に1学年に男女各1人を預かるようにしていました」
入校には条件があった。「心からゴルフをしたい」。それを本人から感じ取れることだった。
「申し込みがあった時、必ず子どもと1対1で面接をしていました。そして、本人のやる気を確かめました。親から『ゴルフをやれ』と言われて嫌々で来ていると感じたら、どんなに運動能力や将来性を感じる子でも、お断りしていました。『プロにさせたい』は親のエゴでしかありませんから」
大事なことは「親子のモチベーションが常にフラットであること」とし、「子どもがやる気がない時に親が無理に連れて来る」「子どもがやる気がある時に親が忙しくて連れて来られない」は絶対NGだった。
「最も大切なのは人間教育であり、ゴルフはそのツール」(三觜氏)
三觜氏によるジュニア指導は、「社会性のある大人になってもらいたい」という願いから、あいさつ、礼儀、マナーに重点を置き、「厳しく楽しく」をモットーにしてきた。
練習前には毎回、指を使って下記のルールを暗唱させていた。
・親指(あいさつ)
・人差し指(人に迷惑をかけない)
・中指(先生や親の言う事を聞く)
・薬指(安全の確認)
・小指(コースの保護)
「最も大切なのは人間教育であり、ゴルフはそのツールなのです。最初から『プロにさせたい』とは考えていませんし、『ゴルフという生涯スポーツを通じて、社会性をつけさせたい』という願いがあります」
「『中2までは、1回の練習で100球以上は打たせない』がルール」(三觜氏)
それらを前提に大事にしてきたのは「あらゆるスポーツに通じる体作り」だった。
長年の指導から『徹底的に正しい体の使い方を覚えさせる方が、上達のスピードが早い』と確信。
そのために、「故障しにくいスウィング作り」を目指し、専門のトレーナーと一緒に体作りと動きの練習を徹底してきた。

「うちでは大半の時間をトレーニング、かご練(両手でボールかごを持ってのスウィング練習)、素振りに費やす」という三觜氏
「うちでは大半の時間をトレーニング、かご練(両手でボールかごを持ってのスウィング練習)、素振りに費やしていました。『中2までは、1回の練習で100球以上は打たせない』がルール。それ以上打つと、『腰椎分離症のリスクが何倍も高まる』からです。これは科学的なデータに基づいたことですが、子どもの頃、ボールを打ちすぎて30年以上、腰痛に悩まされている私自身の反省もありました」
子どもたちは上達に伴い、本気で「プロを目指したい」と思うようになる。三觜氏はその時点から「1人につき、10年は情熱を注いでやらなければいけない」と決めていた。
そして、「最後の弟子」にしたのが佐藤心結。
彼女は、小学校、中学校時代に目立った成績は残せなかったが、高3になった21年4月以降、日本女子アマ3位、日本ジュニア4位と好成績を挙げ、国内ツアー・スタンレーレディスではプレーオフに進出。渋野日向子に敗れたものの、その後のプロテストでは一発合格を果たした。
「僕はどの生徒にも『目先のスコアにこだわるな』と言ってきました。よく試合でスコアが悪いと親が怒って子どもが委縮することがありますが、こういうことが一番ダメです。なので、僕は成績のことで怒ったり、褒めたりすることはしませんでした。
『目先のスコアに一喜一憂するゴルファーにしたくない』という思いもありますし、問題があれば理由を聞いて、修正していく。終わったことよりも未来に向けて何をすべきかが大事だからです。そうしたことができている生徒は、高校時代にグッと伸びてきます」
「『プロになれる・なれない』は結果であり、過程が大事」(三觜氏)
佐藤心結がプロになったことを見届け、三觜氏にジュニアの「弟子」はいなくなった。
「これは私の年齢的なことがあります。今、教え子がいて『プロになりたい』と言いだすと、僕は10年後に還暦近くです。さすがに体力面で厳しいかと思い、スクールは閉じています。振り返ると、将来有望なのに父親が経営していた会社が倒産したり、両親の離婚でゴルフを断念した子もいました。
ただ、『裕福でなくてもゴルフはできる』という思いがあったので、長年レッスン代もほとんど取らずに教えてもいました。そして、スクールの卒業生には医師もいますし、バリバリのビジネスマンもいます。ゴルフというツールを通して人として大切なこと、頑張ることを学んでくれたからだと思っています。『プロになれる・なれない』は結果であり、過程が大事。どんな道に進んでも教え子の成長はうれしい限りです」

ジュニアスクールを閉じた三觜氏の「最後の弟子」となった佐藤心結(写真は23年ダイキンオーキッド)
スクールは閉じても、三觜氏のもとにはジュニアの指導依頼が多数あるという。その際も「親が口出しをしない」「目先のスコアにこだわらない」を指導の条件としている。
「間違えてはいけないのが、育成と強化を履き違えないことです。今のジュニア指導は強化になりがちですが、僕は子どもたちの将来を見据えた『育成』をしたいので」
揺るぎない信念。
48歳になった今も、三觜氏の“情熱”は続いている。
<三觜氏のもとでプロになった主な現役選手>
辻梨恵、森彩乃、篠崎愛、高木優奈、佐藤心結、佐久間隼人、大島炎、長田栄明、植田希美子
※2023年8月25日8月38分写真を一部変更しました。