関東ゴルフ連盟(KGA)のジュニア強化部会で、11年間にわたり技術部門のコーチを務めるのがプロゴルファーの重田栄作氏だ。同プロジェクトから畑岡奈紗、永井花奈、吉田優利……男子では星野陸也、中島啓太……といった、今のゴルフ界をリードする錚々たるプロを輩出している。
重田プロが本格的に携わるようになったのは吉田優利、中島啓太らが中学生時代からで、いわば黄金世代、プラチナ世代を陰で支え続けた指導者とも言えるだろう。
また現在では、同プロジェクトで小さい頃から指導してきた鶴岡果恋、澁澤莉絵留らのツアーコーチも務めている。
ゴルフの本質は「正直で誠実」「自己責任」「人を助けられる精神」
ジュニアゴルファーを育てるにあたり、重田プロの指導哲学を聞いてみた。
「技術コーチというと、ボールの打ち方ばかり教えているように思われるかも知れませんが、KGAもそうですし、もちろん私もそうなんですが、一番大事にしているのはゴルフの本質を教える、身につけてもらうということです」
では、ゴルフの本質とはなにか?
「第一は正直で誠実であること。自分自身が審判でなくてはならないスポーツですから。次に自己責任だということです。すべての責任は自分にあるし、ならば自分で出来ることは自分でやりなさい、と。人のせいにはしない、できないという精神です。
そして3つ目は、余裕があれば人を助けてあげられる精神です。私たちの指導するチームKGAは、ある程度、ゴルフの実力のある選ばれた子どもたちです。ならば自分のことだけでなく、人のことを助ける余裕のある人間になって欲しい。ゴルフが上手いからといって、威張るような人間にはなって欲しくはありませんからね」
親への指導も選手の育成に必要
チームKGAはレベルによりS、A、B、Cの4クラスで編成されており、小学校6年生から高校2年生までの64名で編成されている。
「本質ではありませんが、個人競技でもあり、また最近ではあまり学校生活を経験していないケースも多く、コミュニケーション能力に欠けている子どもも少なくありません。私には3人の子どもがいて、主に野球をやらせてきましたが、改めて親と子どもの関係を眺めると、ある意味、ゴルフのそれは特殊だなと感じることもあります。その意味では親権者、つまり親への講習会も行っており、それもまた選手の育成の上では大切なことだと感じています」
ゴルフは言うまでもなく、競技時間が長いスポーツだ。また施設が繁華街にはないため、親の車での送迎が当たり前になる。そのためコース近くで子どものプレーが終わるのを待つ多くの親の姿は、ジュニアの大会では見慣れた光景である。
「ひと言でいえば、スコアや結果にこだわり過ぎる親が多いのは間違いありません。気持ちがわからないではありませんが、上がってきた子どもにまず親が聞くのは、“いくつだった?”とスコアですからね。
指導者としてこだわりたいのは、選手がスタート前に自分で決めた課題に挑戦したかどうかであり、成功したのであれば自信にすればいいし、できなかったのであれば、それを次の課題にすればいい。指導哲学といった大それたものではありませんが、そうした積み重ねこそが子どもの成長だと思うんですね。それはどのレベルの子どもであっても同じだと私は思うのです」
「親であれコーチであれ、ゴルフの本質を理解しているかが問題」(重田氏)
結果が悪いと、あからさまに不機嫌になる親も少なくない。
親子で同乗するしかない帰路の車中の雰囲気、子どもの心中を察すると、こちらも暗い気分になるものだ。なかには怒りをこらえ切れず、人目を憚らず怒声を発し、手を上げる親もいる。
ヘッドアップするな、もっとインサイドに下ろせ、もっとフィニッシュを高く……技術的なことにまで口を出す親も少なくない。
「もちろん親が指導するのが悪い、というわけではありません。実際、上手な方もいるでしょうし。ただ、先ほど言ったゴルフの本質を理解されているのかどうか。親であれコーチであれ、ゴルフを指導するためには、そこがあるかどうかが一番重要だし、それが指導云々の前に大人としての責任だと思うんです。
実際、親の顔色を見てゴルフをしている子どもも少なくないし、たとえばいわゆる”スコチョン”(スコアの改ざん)だって、親が怖くて怒られるからという子もいれば、反対に親を喜ばせようと嘘をつく子どもだっているわけです。子どもがゴルフを好きでやっているのではなく、やらされている気もします。果たして、それが指導と呼べるでしょうか。私はその辺を大人として、またゴルファーとして大事にしていきたいと思うんですね」
「選手だけでなく、指導者も常に成長しなければ…」(重田氏)
もちろん技術コーチであり、ジュニアたちに技術的なことを教えていることは言うまでもない。
重田プロが技術的に大事にしている基本は次の5つ。
ジュニアやアマチュアだけでなく、現在指導している鶴田果恋や澁澤莉絵留の女子プロにもあてはまるポイントだ。
①グリップ
②ボールポジション
③スタンス
④エイム(狙い)
⑤ポスチャー(姿勢)
「もちろんレベルやその子の課題によって、色んなことを教えます。ただ、これも受け身ではなく、自分から学ぼうというタイプの子の方が、成長が早いですね」
と、言う。
「選手だけでなく、指導者も常に成長しなければ」という重田プロは、JGAのナショナルコーチであるガレス・ジョーンズ氏と頻繁に連絡を取っては、そのゴルフと指導法に磨きをかけている。
「世界で通用する選手というけれど、そのためには世界に通用するコーチの育成も大事です。そのためには自分も常に成長しなければ、と肝に銘じています」
熱中症対策のため、ジュニアがセルフバッグを担ぐ風景も減り続けているという。学連もカートの導入を決めた。果たしてこれが「自分のことは自分でやる」という基本に逆行しているのではないか、そんな疑問も重田プロにはある。
「そうした時代の流れの中でも、準備や後片付け、挨拶など……自分のことは自分でやれることは山ほどあります。それを見つけては、そうしたゴルファーに育てていく。それが私たち大人のゴルファーとしての使命だと思っています」
と、重田プロは今後もジュニアゴルファーの指導に真剣に取り組んでいく。
※重田栄作:サンディエゴゴルフアカデミーでゴルフを学び、卒業後は金子柱憲、佐々木久行プロのキャディとして5勝。その後、35歳で日本のPGAのプロテスト(トーナメントプロ)に合格。現在では関東ゴルフ連盟のジュニア担当と同時に、PGAのA級ティーチングプロであり、PGAのジュニア指導員も務める。また本拠地の山梨県北杜市には昨年、インドアスタジオを開設し、アマチュアゴルファーへのレッスン活動も積極的に行っている。