「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレーヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈者でインストラクターでもある大庭可南太が、クラブセットの「マッチング」について解説する。

みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究家で、ゴルフインストラクターの大庭可南太です。今回はゴルフにおける永遠の課題とも言える、セット内のたくさんのクラブの「振り心地を揃える」にはどうすればよいかというお話です。

クラブを振るときプレーヤーは何を感じているのか

ゴルフというスポーツでは、ルールの上ではドライバーからパターまで14本のクラブを使用することが許されています。ラウンド中の様々な状況に応じてこれらクラブを使い分けることがこのゲームの醍醐味であるわけですが、一方で異なるクラブの「振り心地」を揃えることができないものかという願望もずっとついてまわるわけです。

つまり180ヤードをロングアイアンで打つときも、100ヤードをウェッジで打つときも、全く同じくラブを振っているかのようにスウィングして、結果の飛距離だけが変わってくれれば、安定したゴルフができそうだと我々は思うわけです。

あるいは、アイアンセットの中で、5番と7番は気持ち良く振れるけど、なんか6番だけは重く感じるといったこともあるでしょう。

では具体的に、スウィング中にプレーヤーはゴルフクラブの「何を」感じているのでしょうか。一般論としては以下が挙げられます。

1. クラブの重量
クラブの全体の重量です。クラブヘッド、シャフト、グリップの総重量になります。

2. クラブの「質量」のモーメント
クラブをどこで持つかによって変わる重量感です。クラブをヘッドに近いところで持てば軽く感じますし、グリップの先端で持てば重く感じます。スウィングウェートはこれを数値化したものになります。

画像: 画像A グリップエンドから12インチのところでクラブを持った時の重量感を数値化(記号化)したものが一般的に使用されているスウィングウェイトである(写真はSearch for the Perfect Swingより抜粋)

画像A グリップエンドから12インチのところでクラブを持った時の重量感を数値化(記号化)したものが一般的に使用されているスウィングウェイトである(写真はSearch for the Perfect Swingより抜粋)

3. クラブの慣性モーメント
クラブを振り回したときに感じる抵抗の大きさです。クラブ全体の慣性モーメントの他に、フェースの開閉や軸周りのヘッドの回転に対する抵抗を表すものもあります。

画像: 画像B 例えば同じ重量であっても、クラブの重量配分を変更させることで、クラブの運動中の回転を抑制させることができる

画像B 例えば同じ重量であっても、クラブの重量配分を変更させることで、クラブの運動中の回転を抑制させることができる

4. シャフトの硬さ、しなり(調子)
クラブをスウィングした際のしなりの強さ、またキックポイントになります。一般論として、シャフトが軟らかいとクラブは重く感じます。

これ以外にも、見た目、つまりヘッド形状や大きさや、構えやすさなども影響してくるとは思いますが、今回の論点からはちょっと外れますので置いておきます。

クラブの長さを変えなければならないのはなぜか

ゴルフでは距離を打ち分けることが必要になるので、セット内のクラブのロフトは少しずつ変化します。ロフトが大きいほどバックスピンに転化されるエネルギー量が多くなるため、ボールが高く上がって飛距離が減り、ロフトが小さいほどバックスピン量が減ってボールが飛ぶエネルギーが強くなります。

しかしこれだとボールが低くなって飛距離を稼げなくなりますので、スウィングプレーンをシャローにして、入射角を緩やかにすることでボールの打ち出し角度を高くする必要があります。これをクラブを長くすることで達成しているのが現代のゴルフの基本設計です。

長くするということは、前述の質量のモーメント(スウィングウェート)がそのままでは大きくなってしまうので、長くなるほどヘッドを軽く設計します。一般的には半インチ長くすると7gくらい軽くしています。

こうして全ての番手で同じスウィングウェートにする、あるいは一定の割合でフローさせるというという現代の手法に落ち着いているわけですが、これが本当に最善の方法なのかは議論の余地の残るところです。

では慣性モーメントを揃える方法にすればいいという意見も出てくるのですが、こうすると下の番手になるほどクラブヘッド重量を重くしなければならない(スウィングウェートが増加する)ため、そこに違和感が出てしまう可能性もあります。

究極の手法 – クラブの長さを統一する

そこで各番手の長さを同じにできないかという議論が巻き起こります。そうです。ワンレングスです。デシャンボーです。ザ・ゴルフィングマシーンの申し子です。

画像: 画像C 先週のLIVゴルフシカゴ大会でも優勝し、ライダーカップの代表に選ばれなかったことを悔やんでいるというデシャンボー。(写真はグレッグ・ノーマンのツイッターより引用)

画像C 先週のLIVゴルフシカゴ大会でも優勝し、ライダーカップの代表に選ばれなかったことを悔やんでいるというデシャンボー。(写真はグレッグ・ノーマンのツイッターより引用)

実はこの発想は新しいものではなく、古くはスチールシャフトがルール適合になった1920年代後半に、かのボビー・ジョーンズが「精密に同じようなシャフトがスチールで作れるならば、いろんな長さのシャフトでゴルフをしなくて済むはずだ」と言ったといわれますし、これまで再三にわたって製造の試みはあったのです。

そして21世紀に入り、デシャンボーがプロ入りすると同時にコブラと契約、翌年から「ワンレングス」と称して、ユーティリティからピッチングウェッジまでの全ての番手を37.5インチに統一したモデルを販売しています。

この結果、クラブ重量、スウィングウェート、慣性モーメントをほぼ同一に設計することが可能になりました。問題の「上の番手はボールが上がらず、下の番手は上がりすぎる」という課題も、独自の設計によってカバーしているもようです。デシャンボーもそのクラブで全米オープン優勝をはじめ、一定の成績をおさめています。

「5番アイアンもピッチングウェッジもまったく同じスウィングで打てる」というのはやはりセンセーショナルであり、詳しい販売本数はわかりませんが、市場に一定のインパクトを与えたことは事実です。

しかし今度は、「人は5番アイアンとピッチングウェッジを同じ精神状態、同じスウィングで打てるのか」というプレーヤー側の根本的な問題が発生します。少しでも高いボールを打ちたいと思えば、スタンスは広くなってボールを左脚よりに置くとか、状況に応じて細かい調整をプレーヤーが加えているのがゴルフです。

禅問答のようですが、どうせ細かい調整が必要なら、あらかじめクラブ側でそうした調整をしておいてくれた方が、つまり「ロングアイアンは長く作っておく」方が実はシンプルなのではないかとも考えられます。

そしてLIVゴルフに移籍し、コブラとの契約が切れたデシャンボーが最近どんなクラブを使っているかを見てみます。

画像: 画像D デシャンボーの2023年PGA選手権のセット内容。ドライバー、ウッド、ユーティリティの下の番手を見ていくと、長さが二段階の「ツーレングス仕様」になっているように見える。ちなみにアイアンはピンを使用 (写真はhttps://www.golfwrx.com/714065/bryson-dechambeau-witb-2023-may/より引用)

画像D デシャンボーの2023年PGA選手権のセット内容。ドライバー、ウッド、ユーティリティの下の番手を見ていくと、長さが二段階の「ツーレングス仕様」になっているように見える。ちなみにアイアンはピンを使用

見たところ9番以下(PW、50°、55°、60°)の5本は同じ長さに見えますが、その上の番手は少し長くなっているように見えます。以前はドライバーとスプーン以外、つまりユーティリティからウェッジまでの長さを統一していたのですが、現在は違っているように思えます。

おそらく現在のデシャンボーの飛距離ではセカンドショットには、ほぼ9番以下しか使わないことが理由かも知れません。特定の距離のパー3、あるいはパー5のセカンドでは、ある程度高さでグリーンに止めることが必要だと考えると、やはり少し長い方が合理的ということだと思います。

今のところワンレングスアイアンを使用している他のプロの噂は聞きませんので、番手の長さを揃えることで「全ての番手の振り心地をそろえる」という究極の課題については、やはりまだ研究の余地があるようです。

しかし現在我々が使用しているクラブは、ヒッコリー時代に比べれば格段に向上した技術で設計されているクラブであるわけで、その中で「なんか調子が合わない」クラブがあるとしても、それを微調整したりして使いこなしていくのもゴルフの楽しみ方の一つではないでしょうか。

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