「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレーヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈者でインストラクターでもある大庭可南太が、ウェッジゲームの特徴について紹介する。

みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究家で、ゴルフインストラクターの大庭可南太です。これまで本コラムでは主にフルショットを想定しながらインパクトにおける身体の各部位の理想的な構造や、そうあるべき理由などについて紹介をしてきました。

レッスンの現場では、一般的にはフルショットの改善がその内容の中心になりがちですが、皆さんも薄々お気づきの通り、スコアメイクにはグリーン周りのウェッジゲーム(アプローチショット)の精度が大きなカギとなります。

そこで今回は、このウェッジゲームにどのような特徴があるのかを、フルショットとの違いを踏まえて紹介していきたいと思います。

ショットの目的

例えばピンまでの距離が20ヤードで、グリーンエッジまでが10ヤードのアプローチショットを打つとします。理想的にはグリーン面までキャリーで着弾し、そこからピンに近いところまで転がるボールを打ちたいわけです。このときボールが低く、強いとランが出てしまうので、弾道はやや高く、適度なバックスピンも欲しいところです。

例えば深いラフからのショットであれば、ボールとフェースの間に芝が入るために、スピンは期待できないかもしれませんが、ボールの下にクラブを入れる空間があれば高さは出せるかもしれません。

逆に花道などの「良すぎる」ライであれば、バックスピンは入りやすいですが、高さは出しづらいかもしれません。あるいはバンスが跳ねてトップするのを怖がって、余計にハンドファーストになってしまうかもしれません。

つまりウェッジゲームでは、ショットの強弱に加え、弾道の高さ、スピン量などを想定したうえで、最適な結果になりやすいショットを選択しなければなりません。重要なことは、それら条件と自分の技量を踏まえた「イメージ力」がどのくらいあるのかということです。

ごまかしがきかない

そのような精密さを要求されているにもかかわらず、振り幅が小さいショットというのはヘッドスピードが出せませんので、インパクトの精度によって結果が大きく変わってきます。フルショットであれば多少のトップ、ダフリでも、ちょっと飛距離がばらつく程度にごまかせますが、ウェッジゲームではそうはいきません。ほんの少しの打点のズレで、大きなミスになることもあります。

しばしば「このウェッジでこの振り幅なら30ヤード」という指標を持っている方もおられますが、ウェッジゲームでは状況が様々に変化しますので、そのように杓子定規にはめ込むことは簡単ではありません。「7番アイアンで150ヤード」の指標よりも信頼性が下がってしまうということです。

シーケンスの違い

ではそうした精密なショットのウェッジゲームと、適正飛距離を求めるフルショットでは、振り幅以外にスウィング動作が異なるのでしょうか。

実はツアープレーヤーのフルショットとウェッジゲームのショットの、シーケンス(身体の各部位の動き出しの順番)を見ていくと、その順番が異なっていることがわかっています。

具体的には、フルショットでは、ダウンスウィング時に、下半身、胸郭、腕、クラブの順番に加速しているのに対して、ウェッジゲームではまず腕から動きだし、その後下半身や胸郭が追従していくというのです。

おおざっぱに言えば、フルショットは下半身が先行するスウィングであるのに対して、ウェッジゲームでは腕と体が一緒に動くようなスウィングになるということです。

画像: 画像A フルショットとウェッジショットの体勢の違い。フルショットでは下半身が先行したことで得られたエネルギーを開放するが、ウェッジショットでは一定のエネルギーでボールコンタクトを行う(左トミー・フリートウッド 写真/姉崎正)

画像A フルショットとウェッジショットの体勢の違い。フルショットでは下半身が先行したことで得られたエネルギーを開放するが、ウェッジショットでは一定のエネルギーでボールコンタクトを行う(左トミー・フリートウッド 写真/姉崎正)

余談ですが、これがパッティングになると下半身の動きもほぼなくなって、腕と胸郭のみの動作になっていきます。

インパクトの違い

フルショットでは、いわゆるハンドファーストの状態をつくり、ややロフトが立った状態でインパクトをすることで、ボールに伝わるエネルギーが最大化される、つまり飛距離が出ますが、ウェッジゲームではそもそもの目的が異なるために、インパクトのあり方も変わってきます。

具体的にはハンドファーストになりすぎないことで、クラブのロフトとバンスを最大限に活用することができます。さらに状況に応じては、ザ・ゴルフィングマシーンでも基本としている「フラットレフトリスト」の状態を崩して、フルショットでは良くないとされる「フリップ(インパクトからそれ以降にかけて左手首が甲側に折れること)」を入れる場合すらあります。

画像: 画像B ウェッジショットではクラブのロフトとバンスを適性に操ることで、弾道とコンタクトの双方をサポートする必要があるため、左のように振ることでその効果が得られる。右ではハンドファーストになりすぎてバンスの効果が消えてしまう(Titleist Performance Instituteより抜粋)

画像B ウェッジショットではクラブのロフトとバンスを適性に操ることで、弾道とコンタクトの双方をサポートする必要があるため、左のように振ることでその効果が得られる。右ではハンドファーストになりすぎてバンスの効果が消えてしまう(Titleist Performance Instituteより抜粋)

ウェッジ三本体制のススメ

ここでフルショットとの違いで重要になってくるのは、バンスの存在です。フルショットは基本的にハンドファーストでインパクトをするのであれば、バンスはあまり必要ありませんが、ウェッジゲームではスピードをコントロールした状況下で精密なインパクトをしなければなりませんので、「何度のロフトのクラブにどれくらいのバンスがついているのか」という組合せが結構重要になってきます。

加えて昨今はピッチングウェッジのロフトが立っているモデルが増えており、例えばピッチングのロフトが40°台前半の場合、その下のウェッジを二本にすると、かなり番手間のロフト差が大きくなってしまいます。

そこで例えば、ピッチングの次に48〜50°、その下に54〜56°、さらにその下に58〜60°の三本のウェッジを入れることも考えて見てもよいでしょう。

その際、54〜56°はバンスが多め(10〜14°)、58〜60°はバンス少なめ(6〜8°)にする組合せを行えば、対応できるライの幅も拡がります。

画像: 画像C 54〜56°はバンスを使いたい場面、58〜60°ではバンスよりも「抜け」を重視したい場面で使用すれば、ウェッジゲームの幅が拡がる

画像C 54〜56°はバンスを使いたい場面、58〜60°ではバンスよりも「抜け」を重視したい場面で使用すれば、ウェッジゲームの幅が拡がる

そして現実にPGAツアーでは、ラフからのアプローチ対策としてバンス少なめの60°を入れるのが主流になっています。しばしば「日本の芝では60°は必要ない」という論拠の不明な意見を聞きますが、どうせ三本入れるならこうした組合せにするのが自然な流れだと思いますし、このように特性の異なるウェッジを使い分けることでウェッジゲームに対する理解も向上すると思います。ぜひお試しください。

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