今年の日本オープンは25歳の岩﨑亜久竜が逆転でツアー初優勝を飾った。女子と比べ人気低迷気味の男子ツアーだが会場が大阪中心部からほど近い茨木カンツリー倶楽部だったこともあり大勢のギャラリーが詰め掛けた。そんななか最終日最終ホール、林からのピンチをスーパーショットで切り抜け勝ち切った岩﨑のプレーを歴代チャンピオンの田中秀道が「ギャラリーがあのプレーをさせてくれた」といった。果たしてその意味とは?

18番542ヤードのパー5、ティーショットを右に曲げた岩﨑のボールはテレビ塔の真後ろの林に消えた。リードはしていたが1組後ろの石川遼が1打差に迫り、池がらみの最終ホールのスコアによっては逆転を許すことになる。

岩埼の頭に浮かんだのは「プレーオフにはしたくない」という強い気持ち。「石川選手は絶対バーディを獲ってくるだろう。イーグルを奪われたら逆転される」。危機感が募るなか、救済を受けテレビ塔が障害にならない場所にドロップした。

画像: 国内男子ツアー「日本オープン」を制した岩﨑亜久竜(Photo/Tadashi Anezaki)

国内男子ツアー「日本オープン」を制した岩﨑亜久竜(Photo/Tadashi Anezaki)

残り238ヤード。グリーン左には池が広がり、ピンはバンカーのすぐ上。難しい状況で4番アイアンを手にした岩﨑の放ったショットが勝負を決めた。

正面の松の木を避け、果敢に池の真上に打ち出し、スライスボールでグリーンを狙ったのだ。「バンカーでもいい」と腹をくくって振り抜いた1打は、緩やかな右カーブを描き見事2オンに成功。ピンチをチャンスに変え、石川に2打差をつけ最高峰のメジャーでうれしい初優勝を飾った。

「これだけギャラリーが入ってくれるとね。ギャラリーがああいうプレーをさせてくれるんですよ」といったのはラウンドレポーターを務めた田中秀道。98年大洗ゴルフ倶楽部での日本オープンのチャンピオンである。

思えば田中もその試合で最終ホール右の林に打ち込むピンチに陥っていた。2打目は木に当たって跳ねさらに悪い場所へと押し戻される。そして3打目、今でも語り継がれるスーパーショットが飛び出した。木と木の間の15センチの隙間を抜く6番アイアンのスライスでグリーンをとらえ、ボギーフィニッシュながら1打差で尾崎直道の3連覇を阻み優勝を成し遂げたのだ。

ドローの名手と呼ばれた田中のピンチを救った1打が起死回生のスライス。そして今回岩﨑が最終ホールで勝利を決めたのも林の中からのインテンショナルスライスだった。

よく「応援が力になった」という言葉を耳にするがニュアンスとしてはわかってもどういう意味か実感としてわからなかった。しかし経験者が語る「ギャラリーが選手のポテンシャルを引き出す」という言葉に応援の力の意味が少しわかったような気がした。それを人はアドレナリンのなせる技というのかもしれない。声援によって体内に何らかの化学反応が起きるのは間違いなさそうだ。

続々ニューフェースが登場し、熱い戦いを繰り広げている男子ツアー。近い将来、毎週のように今回並みのギャラリーが押し寄せる日が訪れてほしい。

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