「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレーヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈者でインストラクターでもある大庭可南太が、タイトリスト・パフォーマンス・インスティテュート(以下TPI)の取り組みについて紹介する。

みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究家でゴルフインストラクターの大庭可南太です。先週お伝えした通り、11月3日〜5日の日程で、カリフォルニア州サンディエゴ近郊のオーシャンサイドというところで行われました、TPIの「ゴルフ レベル3」という資格取得のためのセミナーに出席してきました。今回の記事ではTPIがどんな団体なのかと、ゴルフ界のトレンドへの影響についても紹介したいと思います。

TPIってどんなところ?

TPIはバイオメカニクスの博士であるグレッグ・ローズと、ゴルフコーチであるデイブ・フィリップスの二人を創業者として、2003年に設立されました。ただコンピューターを使用した統計的解析を行うという思想は1996年にはスタートしていたといいます。1996年といえばタイガー・ウッズの登場によってゴルフ界がアスレチックなパワー・ゴルフの時代に突入した時期でもあります。

それ以後に起きたことで言えば、ウレタンボールの登場、またドップラーレーダー技術を使用した弾道解析機、モーションキャプチャー技術を使用した3D動作解析、ハイスピードカメラを使用したヘッド挙動、ボール挙動の解析など、これらの計測、分析が頻繁におこなわれるようになり、かつそのデータが蓄積されていくことになりました。

TPIでやっていることは、おおざっぱに言えば、それら解析の結果、「トップ100の選手と、トップ10の選手では何が違うのか」といったことを調べています。例えばパッティングのスタッツが上位の選手は、グリーンの読みをどのような順番で始めているのかといったことや、グリーンオンまでのスタッツが上位の選手のボールの高さは、トップ100レベルとどのように異なるのかと言ったことです。

しかしなんと言っても、渡米当時17歳だったスペイン出身のジョン・ラームとデイブ・フィリップスが出会い、それ以降現在に至るまでコーチ契約を結んでいることがTPIの名声を支えている部分は大きいでしょう。

画像: TPI創業者のデイブ・フィリップスは、フィル・ミケルソンから「スペインの子ですごい才能ある選手がいる」と紹介され、大学在学中からプロ転向後の現在までコーチ契約を結んでいる

TPI創業者のデイブ・フィリップスは、フィル・ミケルソンから「スペインの子ですごい才能ある選手がいる」と紹介され、大学在学中からプロ転向後の現在までコーチ契約を結んでいる

TPIではまず身体能力のテストであるスクリーニングを行います。ラームは、かなり身体的制約が大きい選手で、トップがコンパクトなのもそのことと無関係ではありません。ただそのかわりに肩甲骨と手首の柔軟性に長けており、ほぼ右肘を曲げずにレイドオフのトップを作ることができます。

画像: ジョン・ラームの低いが、十分に肩の入ったトップ。身体的制約があっても、トレーニングで解消できる場合と、他の部分で補える場合があり、ラームの場合は後者であった(写真は2023年の全米オープン 撮影/Blue Sky Photos)

ジョン・ラームの低いが、十分に肩の入ったトップ。身体的制約があっても、トレーニングで解消できる場合と、他の部分で補える場合があり、ラームの場合は後者であった(写真は2023年の全米オープン 撮影/Blue Sky Photos)

身体的制約がある場合、まずはトレーニングでその弱点を解消できるかどうかを検討しますが(そのためのトレーニングメニューも無数にデータベースに蓄積されています)、同時に他の部分で補うことができないかも検討します。ラームの場合は手首と肩甲骨の柔軟性で十分にパワーを出力できていたため、現在のスタイルを選択したということでした。

新たに野球やテニスも。TPIの挑戦

TPIでは、ボールやウェッジ、パターを含めると広範な選手と何らかのつながりがあるため、それら選手が訪れた際はスウィングのデータを蓄積させることができます。そのためランキング上位30位のうち、25人の選手はTPIと何らかのコネクションがあり、また指導者で言えば全米50位のコーチのうち、実に47人がTPIの資格保持者であるということです。

その点では、用具契約を超えた「総合的ゴルフ研究所」という様相になりつつあります。しかし実はそれにとどまることはなく、新しく野球とテニスの運動解析を行う準備をしているというのです。

つまりゴルフ同様に、上位の選手がどのような動作をしているのかをモーションキャプチャーで解析し、投げたボールの軌道や回転量をトラックマンで調べたりすることでパフォーマンスの向上につなげるという、全く同じ手法を試そうとしています。現在TPIはそうした新たなフィールドの拡大も含めた改装を行なっており、2025年には新装オープンの予定だということです。

画像: TPI改装の2025年完成予想図。新たに野球やテニスの解析を行う施設も増設し、ウェッジやパッティングについてもより詳細なフィッティングができるようになるという

TPI改装の2025年完成予想図。新たに野球やテニスの解析を行う施設も増設し、ウェッジやパッティングについてもより詳細なフィッティングができるようになるという

「高い」は「稼げる」

では具体的に解析の結果として分かったことの一つに、ボールの高さ(最高到達点)があります。速くて硬いグリーンでボールを止めるのに高さが必要だというのはわかるのですが、このとき例えばドライバーであっても、同じ高さに揃えるということを上位選手はやっているというのです。

画像: トラックマン計測によるPGAツアー全体の平均値。高さ(Max Height)をみていくと、確かにドライバーからピッチングまで30y前後の高さで揃えていることがわかる

トラックマン計測によるPGAツアー全体の平均値。高さ(Max Height)をみていくと、確かにドライバーからピッチングまで30y前後の高さで揃えていることがわかる

普通に考えればドライバーでは、多少低い球でランを稼ぐということもあってよいのかと考えてしまうのですが、ティートゥグリーン(グリーンオンまでの打数)が上位の選手は、ドライバーでもしっかりと高さを出してキャリーを稼ぎ、ランを少なくしてフェアウェイ上に止めるということをしているというのです。

その統計をもとに、TPIで道具のフィッティングを行う場合は、例えば4番アイアンだけ高さが出ていないのであれば、低重心のアイアン、あるいはハイブリッドを入れることを検討することで高さを揃えることを考えるといいます。逆に言えばPGAの選手はもっと飛距離を稼ぐ方法はあるかもしれませんが、それで狙ったところに止められないのであれば逆効果であるということになります。

この「ボールは高いほうが稼げる」というのは、ウェッジの授業でも一貫していたポリシーでした。

ではどういうスウィングならボール高くなるのか、またどのような時にそれが阻害されるのかもわかっています。今回の研修ではその内容が非常に濃かったのですが、長くなりましたので次回に紹介させていただきます。

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