海外のゴルフに関する様々な理論に精通するインストラクター・大庭可南太が2023年の記事の中から、来年にかけてのトレンドを読み解いていく。

みなさんこんにちは。ゴルフインストラクターの大庭可南太です。早いものでこうして年末の記事を書くのも3回目になってしまいました。そこで今回の記事では、今年一年に当コラムで紹介してきた内容から、来年に向けてのキーワードについて考えてみたいと思います。

「ワイドバックスウィング」

こういうコラムを書く上で国内外の様々な選手の連続写真を見ていますが、かなりの選手が「バックスウィングで右ひじを曲げることを遅らせ」ています。

画像: 画像A 極力右ひじを曲げずに、上半身を捻転させたローリー・マキロイのバックスウィング(写真/姉崎正

画像A 極力右ひじを曲げずに、上半身を捻転させたローリー・マキロイのバックスウィング(写真/姉崎正

昔の表現ですと「レイトコック」ということかもしれませんが、「コック」というのは左手首の動作によって左前腕とクラブシャフトの角度が減少する(鋭角になる)ことを言いますので、これに右ひじを伸ばす動作を加えることでクラブヘッドを大きく後方に持ち出すようにしている選手が増えてきたということです。

効果として、両腕が伸びた状態では、クラブは体幹の正面に維持される状態になるため、上半身の捻転が(半ば強制的に)深くなることが挙げられます。またもう一つの昨今の流行である、クラブフェースを「シャット」な状態に保ったバックスウィングとも相性が良いようです。

上半身の捻転が深くなることで、ダウンスウィングで両手が下りてくる空間を広く確保することが可能になりますので、あえて名前をつけるとすれば「ワイドバックスウィング」になると思います。

インに引いてアウトから下ろす

これはPGAツアー年間王者となったビクトール・ホブランや、マスターズローアマとなったサム・ベネットなどの選手に見られる傾向ですが、かなり「インに低く」バックスウィングを行い、ダウンでは垂直に両手を下ろすことで、やや「アウトから」(アウトと言っても極端なアウトサイドイン軌道ではないが)両手を下ろしてくるスタイルです。

画像: 画像B ビクトール・ホブランのスウィング。インに引いているように見えるが、実は体幹の正面にクラブを維持しており、そこから真下に両手を下ろすようにダウンスウィングしている(写真 Blue Sky Photos)

画像B ビクトール・ホブランのスウィング。インに引いているように見えるが、実は体幹の正面にクラブを維持しており、そこから真下に両手を下ろすようにダウンスウィングしている(写真 Blue Sky Photos)

この結果ヘッド軌道がわずかにアウトインになり、フェードボールを打ちやすくなる利点があります。このコラムでも紹介してきましたが、昨今のPGAツアーのフィールドでは「高いキャリーで飛ばしてフェアウェイ(グリーン)に止める」ショットを打つことが非常に重要になっています。

写真で見るとインに上がっているように見えますが、右ひじをかなり伸ばしていますので、やはり体幹の正面にクラブを維持して上半身を捻転していることがわかります。加えてクラブがアウトから下りてくることで、やはり両手を下ろしてくるスペースを充分に確保できるメリットがあります。

骨盤・体幹・腕・クラブの動く順番(キネマティックシーケンス)を整える

日本ではしばしば「カラダを回し続ける」、「カラダとクラブが同調」などと表現しますが、要は再現性を伴ってヘッドスピードが上がれば良いわけで、そういうときに骨盤、体幹、腕、クラブがどのような順番で加速すれば合理的かということを可視化したものが「キネマティックシーケンス」になります。

画像: 画像C 松山英樹のダウンスウィングのキネマティックシーケンス(右のグラフ)。黄線はクラブ、青線は腕、緑線は体幹、赤線は骨盤の動きを表す。写真の時点でハンドスピードが最高速になり、以後両手の速度が減少することでクラブスピード(黄線)が上昇する(グラフはTPIからの引用)

画像C 松山英樹のダウンスウィングのキネマティックシーケンス(右のグラフ)。黄線はクラブ、青線は腕、緑線は体幹、赤線は骨盤の動きを表す。写真の時点でハンドスピードが最高速になり、以後両手の速度が減少することでクラブスピード(黄線)が上昇する(グラフはTPIからの引用)

モーションキャプチャーなどの技術を使って、それぞれの部位がどのように加速、または減速しているかを調べると、まず骨盤が加速、そして減速に向かうことで体幹が加速し、またそれが減速することで腕が加速し、また腕が減速することでクラブが加速していくという「シーケンス(順番)」になることで、インパクト時のヘッドスピードを最大化させることができるわけです。

つまり本当に「身体を回し続ける」と、おそらくヘッドはインパクトまでに充分に加速できないことになりますし、骨盤が回り続ければ両手の下りてくるスペースがなくなって「詰まった」スウィングになってしまいます。

このように書いたりグラフを出したりするとなんだか難解に思えますが、野球の投球動作で言えば、まず脚を踏み込んで、ついで体幹がやや回転し、そしてひじが目標に向かい、最終的に前腕がリリースされることで球速が最大化する、というのは確か保健体育でも習った気がしますので、よく考えればゴルフでも当たり前の話ではないかと思います。

そしてTitleist Performance Institute (TPI)

私事ですが、今年の3月からTPIのレベル1、ゴルフのレベル2をオンラインで受講し、11月に渡米してゴルフのレベル3という資格を取得してきました。

TPIではトッププロからアマチュアまで、様々なレベルのゴルファーの動作や弾道の計測、解析を行っていますが、結局のところゴルフスウィングにおける最大の難関は、「いかに『アーリーエクステンション』を回避するか」であるということでした(私の個人の感想です)。

画像: 画像D 骨盤を終始赤線の外側の位置に維持し、代わりにインパクトに向けて上体が沈み込んでいく松山英樹のスウィング(写真:姉崎正)

画像D 骨盤を終始赤線の外側の位置に維持し、代わりにインパクトに向けて上体が沈み込んでいく松山英樹のスウィング(写真:姉崎正)

「アーリーエクステンション」というのは、スウィング中にアドレス時点の位置よりも骨盤がボール方向にせり出していくことを指します。写真の松山選手は(当たり前ですが)きっちり赤線の外側に骨盤の位置を維持してスウィングしています。

これができていないと、両手の下ろし場所が狭くなる、あるいは上半身がボールに近づいてしまうため、上半身を起き上がらせることでボールとの距離を調整しないとインパクトできません。結果としてクラブのライ角が立った状態でインパクトせざるを得ず、ボールに充分なエネルギーを与えられない(飛距離が減少)、かつ「ボールが低くなる」という問題が起きます。

最近では弾道測定器の発達により、ヘッドスピードからクラブの設計通りの理想的なスピン量、高さ、キャリーになっているかを確認することができます。数値が芳しくない場合は、道具を変えるか、スウィングを変えるしかありません。

「手の通り道」を確保することが生命線

前述の通り、PGAツアーでは弾道の高さを非常に重視しますので、そのためにはクラブを持った両手がインパクト前後にかけてスムーズに動いていくことが必須となります。今回挙げたトピックも最終的な共通点はいかに「手の通り道」を確保するかということに尽きます。

ただこのこと自体は、このコラムで再三再四取り上げてきた「ヒップクリア」と同義ですし、また1968年に出版された「Search for the Perfect Swing」でも「ハブパス(スウィング中の両手の軌道)」の最適化が最重要」であることを機械的モデルの解析の中で主張しています。

つまりアメリカで約50年以上前に「どうも大事らしい」と思われてきたことが、最近の科学の発達によって「やっぱり大事だ」ということが再確認され、「どうすればできるのか」が研究し続けられているということになります。

ということは日本でも「両手の通り道をいかに確保するか」が重要視されるようになれば、日本の科学力でもって日本ゴルフ界が世界の中心に躍り出ることも不可能ではないと思うのです。

よって2024年は「両手の通り道」を“推し”のワードとして広めていきたいと思います!

This article is a sponsored article by
''.