ゴルフに関する様々な理論に精通するインストラクター・大庭可南太がPGAツアーでアマチュア優勝を飾ったニック・ダンラップのスウィングメカニクスに注目!

こんにちは。ゴルフインストラクターの大庭可南太です。さて今週行われましたPGAツアー「ザ・アメリカンエキスプレス」では、二十歳になったばかりの大学生、ニック・ダンラップがアマチュア優勝を遂げました。今回の記事ではその「凄さ」に迫ってみたいと思います。

何がスゴいのか?

PGAツアーで伏兵の選手が初優勝をするケースでは、たいてい最終日にビッグスコアが出て逆転という場合が多いのですが、今回のダンラップ選手は最終日首位で出て、後続の出方を見ながら守りのゴルフを展開。一時逆転されるもそこからギアを上げて再びトップに立ち、1打差で迎えた最終ホールも寄せワンでパーをキープしての優勝と、完全に横綱相撲での勝利でした。

画像: 二十歳でPGAツアー優勝を遂げた大学生アマチュアのニック・ダンラップ。落ち着いたルックス通りのゴルフで逃げ切った(photo/Getty Images)

二十歳でPGAツアー優勝を遂げた大学生アマチュアのニック・ダンラップ。落ち着いたルックス通りのゴルフで逃げ切った(photo/Getty Images)

いろんな報道を見てみますと、やはりとてつもないエリートであることがわかります。例を挙げてみますと

・2016年12歳でスコア59をマーク

・2021年のコーン・フェリーツアーのマンデー予選でスコア62をマーク

・2021年に全米ジュニア優勝(アラバマ州出身者では初)

・2023年に全米アマチュア優勝(全米ジュニアと全米アマチュアを両方制したのは過去にはタイガー・ウッズのみ)

・2023年大学ゴルフ記録の12アンダースコア60を記録

・20歳と29日でのPGA優勝(アマチュアでは1910年以来最年少)

・PGAツアーでのアマチュア優勝(1991年のフィル・ミケルソン以来)

などなど、落ち着いたプレーぶりも納得のキャリアをお持ちの選手なのでした。聞くところによると、引き続き参戦予定だった今週のファーマーズインシュアランスを欠場し、地元に帰って家族や大学関係者と、プロ表明も含めた今後のキャリアについて相談するということです。いずれにせよ今後が楽しみな選手です。

ダンラップのスウィング

アマチュアの選手ということでまだ映像が少ないのですが、SNSに投稿されている動画からダンラップ選手のスウィングを見てみます。

画像: 画像A オーソドックスなスタイルではあるが、ダウンスウィングで「手の通り道」を確保する完璧なヒップクリアが行われている(ニック・ダンラップのSNSより)  www.instagram.com

画像A オーソドックスなスタイルではあるが、ダウンスウィングで「手の通り道」を確保する完璧なヒップクリアが行われている(ニック・ダンラップのSNSより)

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イマドキの若者らしく、完璧にダウンスウィングの両手の通り道を確保したヒップクリアが右足ベタ足で行われ、ヘッドの軌道を長く目標方向に維持しています。ショルダーターンが縦のプレーンで行われ、インパクトに向けて右肩が深く沈み込むスタイルも、PGAで必要なハイボールを打つための必須動作になっていることは以前にも紹介しました。

ダンラップは現在ブライアン・スピークマンというのコーチに見てもらっていますが、この方はマーク・ブラックバーンのもとでキャリアを積んでいます。

マーク・ブラックバーンは最新の米国ゴルフダイジェスト誌のベスト50指導者のランキングで、クリス・コモやショーン・フォーリーらをおさえて栄えある一位になっている人物です。PGAツアープロではマックス・ホーマやコリン・モリカワなどを指導しています。

そのブラックバーンがダンラップのスウィングのパワーの源について以下のように解説しています。

ダウンでは「左脚に乗る」ではなく「左脚をボール方向に蹴る」

ブラックバーンはTPI(Titleist Performance Institute)をはじめ最新のゴルフ理論に精通した指導者ですが、最も地面の反力を使える脚の使い方として、ダウンスウィングの初期に「左サイドに乗っていく」のではなく、「左脚で地面をボール方向に蹴る」動きを推奨しています。

画像: 画像B TPIのブラックバーンのインスタグラムより。ダウンスウィングで左脚に乗っていくのではなく、左脚をボール方向に蹴りだす動作を行うことで、最大のパワーが得られるとしている(マーク・ブラックバーンのSNSより引用) www.instagram.com

画像B TPIのブラックバーンのインスタグラムより。ダウンスウィングで左脚に乗っていくのではなく、左脚をボール方向に蹴りだす動作を行うことで、最大のパワーが得られるとしている(マーク・ブラックバーンのSNSより引用)

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この動作によってインパクトに向けて上半身の前傾が増加し、両手とクラブの通り道が完璧にキープされるということで、現代ゴルフでパワーを得る為に不可欠な動作であるとしています。確かに昨今ドラコン選手でもこの左脚の使い方をしている選手が多数派に思えます。

この動作と、一般に言われてきた、「ダウンスウィングで左脚に乗る」動作とどのような違いがあるかというと、ブラックバーンの言うように左脚をボール方向に蹴る動作を行うと、骨盤が目標方向にスライドしません。その結果左のヒップは、背中側および右足側に移動する形になります。

画像: 画像C いわゆる「左脚に乗る」スタイルと、「左脚を蹴る」スタイルのインパクトの違い。骨盤の目標方向へのスライドを抑えることが最大限の飛距離につながるとブラックバーンは指摘している。(写真左はトミー・フリートウッド、写真右は蟬川泰果)(フリートウッド写真/姉崎正、蟬川写真/Blue Sky Photos)

画像C いわゆる「左脚に乗る」スタイルと、「左脚を蹴る」スタイルのインパクトの違い。骨盤の目標方向へのスライドを抑えることが最大限の飛距離につながるとブラックバーンは指摘している。(写真左はトミー・フリートウッド、写真右は蟬川泰果)(フリートウッド写真/姉崎正、蟬川写真/Blue Sky Photos)

いわゆる「左脚に乗る」スタイルの選手で、私が即座に思いつくのはトミー・フリートウッド選手ですが、ダウンブローにボールを捉えるといった利点はあるものの、飛距離面では「左脚を蹴る」スタイルのほうが効率的だというわけです。

レッスンでも「左脚に乗る」「左の壁」といったことを意識されている方が多いのですが、その結果「つっこみ」が発生してインパクトが窮屈になってしまう場合があります。

確かにフリートウッドのようなインパクトの形も「カッコイイ」と思われる方が多いと思いますが、フリートウッドは骨盤を目標方向にスライドさせつつ、上半身は後方に(正確には上半身の右側屈を入れて)残しています。

しかしこれはかなりの筋力が必要な動作であり、アマチュアの場合は骨盤のスライドと同時に上半身や頭部も目標方向に流れてしまいがちです。加えて「左脚を蹴る」スタイルのほうが、膝や下半身への負担も少ないように思えますので、試してみる余地はあるはずです。

インパクトの直前に強く左足をボール方向に蹴る(左脚を伸ばす)と、右足に荷重が移動してインパクトの衝撃を右足で受け止めることになります。この一瞬右足に荷重が移動することで、フィニッシュで余裕を持って左足に乗り直せます。是非お試しください。

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