みんなのゴルフダイジェストをご覧の皆様、こんにちは。SPORTSBOX AI・3Dスタッフコーチの北野達郎です。今回はPGAツアーの「ジェネシス招待」で見事な逆転優勝を飾った松山英樹選手のアイアンショットをスポーツボックスAIで分析してみましょう。
松山選手の正確無比なアイアンショットのスウィングデータを分析すると、
①胸の位置の安定(CHEST SWAY・胸の左右の移動量)
②左腕の長さのキープ(LEAD ELBOWFLEXTION・左腕の屈曲角度)
この2点が非常に特徴的でした。それでは早速チェックしてみましょう。
ダウンブローに打つためのアイアンショットのアドレス
まずアドレスをご覧下さい。右手はスクエアですが左手グリップをややウィークに握っています。松山選手といえば精度の高いフェードが持ち味ですが、左手をややウィークに握ることで、切り返しからインパクトにかけてフェースローテーションを行ってもフェースが閉じ過ぎずに左から右にカーブするフェードが打ちやすくなります。またボール位置はスタンスのセンターにセットしていますが、ボール位置をセンターに置くとインパクトがダウンブローに入りやすくなります。また、アドレスでの左肘の屈曲角度は170度と真っ直ぐ伸びています。この左肘の角度に関しては後ほど詳しく解説します。
アドレスからインパクトまで胸の位置が安定している
松山選手の最初の特徴はトップとインパクトでの胸の動きです。トップとインパクトの胸のポジションを比較してみると、アドレスの位置を0としてトップが+0.7cm左、同じくインパクトが+0.1cm左と、スウィング中は胸がほとんど左右に動いていないことがわかります。このことから松山選手は左右に重心移動することなく、体をその場で回していることがわかります。センター・オブ・マス(Center Of Mass・略称は「COM」/体の質量の中心)という言葉があり、体の質量の中心(COM)が体の中心からブレないほどスウィングは安定しますが、左右にブレない松山選手の胸の動きにはCOMの安定が見られますね。
一方で骨盤の動きを見ると、アドレスを0としてトップは−1.1cm右、インパクトでは+11.4cm左と、トップからインパクトにかけてより左に移動しています。この骨盤が左に動くことでヘッドの入射角はダウンブローに入りやすくなります。この時に胸がアドレスのポジションより右に残るとスウィング軌道がインサイドアウトになるのでダウンブローに入れにくくなります。この「胸は中心、骨盤は左」のインパクトが松山選手のアイアンショットの秘訣のひとつです。
豊富な練習量で培われた左肘の角度の安定
もうひとつの特徴は左肘の屈曲角度(LEAD ELBOW FLEXTION)の安定です。アドレスは169度の左肘の角度はトップで167度、インパクトで156度と、アドレス〜インパクトまで左肘の角度の変化が少なく、再現性が高いことがわかります。スポーツボックスAIが独自のシステムで統計を取った「トップでの左肘の角度」のアイアンショットでのPGAツアーレンジ(範囲)は、141.5度〜150.5度で、松山選手は163度ですのでツアーレンジに対してかなり左腕の長さを保つタイプであることがわかります。
松山選手のように左肘の角度をキープする練習ドリルには、左手での片手打ちやクロスハンドの練習が有効です。左手の片手打ちはアドレスからインパクトまで左腕〜クラブまでを同調させて体の回転で打たないといけないのですが、松山選手もこの左手の片手打ちを常に練習してスウィングをチェックしています。この練習は肘や手首を自由に使ってしまうと打てないので、やや難易度が高い練習ですがアイアンショットの再現性を高めるのに効果的な練習ドリルです。もし左手の片手打ちが試してなかなか打てなかった方は、最初はクロスハンドでショートスウィングの練習から始めると良いでしょう。クロスハンドは右手に比べて左手をクラブの短い位置で握りますので、自然と左肘が伸びます。その伸びた状態を保ったままショートスウィングを行うと、スウィングアーク(弧)の長さが保たれるので再現性が高まります。まずクロスハンドでトライして、徐々に慣れたら左手の片手打ちにチャレンジしてみて下さい。
今回は、松山 英樹選手のアイアンショットを分析させて頂きました。これまでアジア人のPGAツアーでの最多勝は韓国のチェ・キョンジュ(K・J・チョイ)選手でしたが、今回の勝利で松山選手がアジア人最多勝記録を塗り替えました。松山選手自身も「10勝目を目指して頑張ります!」と力強いコメントをしていましたが、次の勝利がまた一層楽しみになりましたね!