2日目に自己ベスト「63」と大爆発
首をすくめ、心の底から笑った。
最終18番、新垣は70センチほどのウィニングパットを静かに沈めた。強い雨にもかかわらずグリーンを囲んだ大勢のギャラリーから惜しみない拍手と声援が沸き上がる。その中心で復活を高らかに告げたヒロインは、少し恥ずかしそうな笑みをいつまでもたたえていた。
6年分の苦しみと努力が詰まった通算2勝目。涙を流して喜ぶキャディの兄、そしてグリーンサイドで待っていた黄金世代の仲間、吉本ひかる、大里桃子と感激の抱擁。穏やかな笑みはやがて熱い涙へと変わった。
グリーンサイドで行われた優勝インタビューで涙の理由に触れた。
「涙は私自身は(最初は)我慢できたけど、お兄ちゃんやひかるちゃんの涙を見てぐっときました。いつかいい結果が出る日まで頑張ろうと思ってやってきました。お母さんやキャディをしてくれるお兄ちゃんに、また活躍する姿を見てもらいたいなと思って頑張りました」
2日目に見せた神がかったゴルフが優勝への導火線だった。1イーグル、7バーディ、ボギーなしで自己ベストを更新する63の大爆発。363ヤードの12番パー4ではピンまで残り100ヤードの第2打を50度のウェッジで直接カップインさせる「ショットインイーグル」をマークし、単独首位へと駆け上がった。
「予選2日間はすごくパットがよくて、たくさん決まった。そこが一番よかったと思います」
この日は午後から豪雨の予報だったため、大幅にスタート時刻が早まったが、動じることはなかった。1番で手前から6メートルのバーディパットを決めて気分よく滑り出すと、難しい2番でボギーをたたいたが、すぐに3番で3メートル、4番で2メートルを沈めて連続バーディ。勢いを損なうことなく後半へつなげた。そして前日イーグルを奪った12番。第2打をピン左3メートルに乗せ、下りのスライスラインをしっかり沈めて、優勝への流れを引き寄せた。
「今週は自分のゴルフじゃないような不思議な1週間だった。今日はショットがうまくいかなくて苦しかったけど、落ち着いてプレーすることできました。最後もバーディを決めて上がりたかったんですけど、長いパットだったしパーパットも意外と残っちゃったので、ちょっと緊張しました」
青木翔コーチから「スウィングとかいろいろ教えてもらった」
1998年度生まれの黄金世代の代表的選手で、2018年4月のサイバーエージェントレディスでプロになった黄金世代としては初優勝を果たした(アマチュアでは勝みなみ、畑岡奈紗が先に優勝)。これで一気にスター選手の仲間入りを果たしたが、その後は順風満帆とはいかなかった。2021-22シーズンから3シーズン連続でシードを逃し、QT13位の資格で参戦している今季も6度の予選落ちと結果を出せなかったが、スランプ中も絶やさなかった努力が今大会でようやく実を結んだ。
「調子が思うようにいかなかったときは、試合に出るというか、ゴルフをするのが苦しかったりとか、沖縄の家に帰りたいけど、試合を休めなかったりとかが、結構メンタルにきました」
復活を支えたのはキャディを務めた兄の夢蔵(むさし)さんと渋野日向子を全英女子オープン優勝に導いた青木翔コーチだった。
「兄は私と正反対でポジティブなので、私一人だと落ち込んだりするときもちょっと上に上げてくれる存在です。試合会場にいつも身内がいてくれるのは、すごく大きいですね」
青木コーチには22年秋から指導を仰いできた。
「スウィングとかいろいろ教えてもらって、こう打てばいいんだというのがちょっとずつ分かってきた。いいゴルフをできることが増え始めました」
今大会はメルセデスランキング1位の竹田麗央、2位の岩井千怜、3位の小祝さくら、4位の山下美夢有、5位の鈴木愛ら多くの上位選手が同週の全米女子オープン(ペンシルベニア州ランカスターCC)に出場するため欠場した。ともすれば寂しくなりがちな大会ではあったが、新垣が実力者の穴井詩、初優勝が待たれる鶴岡果恋らと激しい優勝争いの末に戴冠。国内ツアーの盛り上げに大きく貢献した。
優勝会見では今後の目標を新垣らしい言葉で表現した。
「優勝をまたできたら最高だと思いますけど、今回のようなチャンスがまたくるのかなと思うと、ちょっとよく分からないので、とりあえずQTを受けなくていいと思うので、何にも追い込まれず、気持ちのいいゴルフをしたいです」
穏やかな笑顔の陰に人一倍の芯の強さを秘めた新垣、輝かしいゴルフ人生の第2章へ、飛躍のときを迎えた。