「宮里藍 サントリーレディス」の開幕2日前に、大会アンバサダーを務める宮里藍と、同大会に出場するアマチュア選手との座談会が行われた。選手からの1人1つの質問に対し、大先輩の藍プロが回答やアドバイスを返す形式で会は進行したが、いわゆるファンの集いのような緩い質問は一切なし。なんせ2日後にプロのトーナメントの試合が控えているだけに、アマチュア選手たちの質問は“切実”で“実戦”に即した内容のものが多く、それに応じる藍プロの回答も濃い内容にならざるを得ないという流れに。さながら『試験直前講座』と化した、この座談会での質疑応答の内容の一部を要約して紹介しよう。
画像: 座談会に出席したアマチュア選手と宮里藍、そしてMCを担当した宮里聖志

座談会に出席したアマチュア選手と宮里藍、そしてMCを担当した宮里聖志

Q:アドレスが日によってしっくりこない
A:それはしょうがないとまずは割り切る

今年の4月に、ステップアップツアーの『大王海運レディス』でアマチュア優勝を果たした都玲華の質問は、「アドレスが体調や日によってしっくりこなくて、なかなか良いイメージにチェンジ出来ないことが多いので、何か良い対処法とか考え方があれば教えていただきたいです」というもの。

画像: 2日間をイーブンパーでまとめ、37位タイで予選を通過した都玲華

2日間をイーブンパーでまとめ、37位タイで予選を通過した都玲華

日によって、どうもアドレスがしっくりこないのは誰もがあることだが、これに対する藍プロのアドバイスは。

「人間は、毎日同じ感覚ではいられないので、日によって違うフィーリングになることはしょうがないと割り切るとして。『今日は深く構えた方が重心を感じやすいな』とか、『少し上体を上げた方が腕の力が抜けやすい』とかがあれば、そういうアジャストはやってもいいと思います。あと、しっくりこないんだったら、どこにその原因があるのかということを、朝、探ってみる。目を閉じて打ったりとかして、自分のフィーリングがどこにあるのかを体を感じることとかが、朝のウォームアップでは凄く大事になってくるので、普段からその辺に意識を置いてみるということが大事かな」

Q:プレッシャーのかかるときの気持ちの持ち方は?
A:心拍数が上がるので、それを抑えるには呼吸法を学ぶのがいちばん簡単

2月の『アジア女子アマ(アジアパシフィック女子アマチュア選手権)』で日本人最高位の10位タイに入った新地真美夏は、「プレッシャーのかかるショットやショートパットの時の気持ちの持ち方について知りたいです」という質問。

画像: 2日間を4オーバーの78位タイだった新地真美夏

2日間を4オーバーの78位タイだった新地真美夏

プレッシャーが掛かった時の対処法はゴルファーにとって最大の関心事だが、藍プロのアドバイスのポイントは、『アドレナリン』と『気づき』だった。

「(対処法は)いろいろありますけど、自分のアドレナリンのレベルがどれくらいが心地良いのかというのを、普段からちょっと気にかけてみると良いかなと思います。アドレナリンは心拍数と連動しているので、緊張してアドレナリンが出ていると心拍数が普段よりもちょっと上がります。それ(心拍数)を抑えるには、呼吸法が一番簡単に落としやすいです。あと、どこに力が入りやすいかということを普段から観察してみる。私なんかはドライバーイップスを経験してきているから、緊張したり恐怖心が強い時って、体の右側に現れることが多くて、右手のグリップを無意識のうちにギュッと握っている。人間って力を入れるのは簡単だけど緩めるのは難しいんだよね。そして、普段から練習していないと、本番ではスウィングが早くなるから、ちょっとゆっくり振ろうと思ってもアジャストって難しい。だから普段から、自分はどれくらいのアドレナリンのレベルが良いのか、緊張した時の自分ってどういうふうに振っているのかということを、一度、考えてみるだけでも気づきが凄くあって。アッ、こういう時はこうしたらいいんだっていうものが次は出てくるようになると思います」

Q:暫定球を打つときの心構えは?
A:「右に打ちたくない」ではなく「左に打ちたい」という考えに変える

4月の全米女子オープン最終予選で、木村彩子とのプレーオフに敗れ、惜しくも本戦出場を逸した入谷響は、「ココはOB打ちたくないというところでOBの方に飛んでしまったり。暫定球を打つ時に、またOB方向に行きたくないから、逆の方向に打っちゃうというのがけっこう多くて。そういう時にどうしたらいいのかを教えてください」という質問。

画像: 3オーバーの66位タイだった入谷響

3オーバーの66位タイだった入谷響

入谷は全米女子の最終予選の正規の16番でボギー、17番でダブルボギーを叩き、木村とのプレーオフになった経緯もあって、緊張する場面でのネガティブなメンタルのもって行き方を藍プロに教えてもらった。

「まず、『行きたくない』とか『あっちにミスしたくない』といった否定的なセルフトークを変えてみることから始めたらどうかなと思います。「あっちに打ちたくない」じゃなくて、「こっちに打ちたい」というように、自分はどこに打ちたいのかというのを明確にしてあげるだけで、体の動きって全然違ってくると思うから。人間は危険を察知して生き延びてきた歴史があるので、OB打ちたくないな、ラフに入れたくないなというような~したくないという心理が働くこと自体は自然なことなの。だから、そういう心理がプレー中に出てきた時に、あ、今、~したくないっていうセルフトークが始まっているなっていうことに気づけば、『こっちに打っていきたい』というふうに、セルフトークのポジティブな変換を自分の内側で始めるというのは凄く大事かなと思います」

Q:ビッグスコアの翌日の入り方で気をつけることは?
A:「パープレーでOK」というような自分のハードルを下げることが大事

大久保柚季は「ビッグスコアが出た次の日にスコアを伸ばしきれないことが多いんですけど。そういう時のメンタル面はどのようにしていたのかを教えてください」という質問。

画像: 11オーバーで115位タイだった大久保柚季

11オーバーで115位タイだった大久保柚季

藍プロの答えは。

「あるよね。私も10アンダーとか出た次の日は、入りは難しいなと思うことはありましたね。良いプレーをした時って、(翌日も)その感覚は残っているから。ちょっと違う結果に行くと、凄くミスした気分になるんだよね。そういう時は、全然パープレーでもOKっていう気持ちで、まず、自分のハードルをグッと下げるというのが大事。尚且つ、これは『プレーイングフォーカス』っていうんですけど、18ホールを通して、これだけは絶対にやり切るということを決めてスタートしていくんですけど。例えば『右のグリップテンションを変えずにスウィングする』という、できるだけ簡単なことを18ホールやり切れるかどうか。それが出来たら、そのことを喜ぶという感じで、スコアに直接結び付けないで、自分が決めたことをしっかり100パーセントやる。そういうフォーカスの仕方をしていると、次第に、自分のやりたいことが確実に出来るようになるというか。いきなり63出して次の日も63というのは凄く高度なことなので。だから、良いスコアが出た翌日は、自分のハードルを何処まで下げられるかというのが勝負かなと思います」

Q:ラウンド中の悪い流れを絶ち切る方法は?
A:気持ちを切り替えるためには良かったときの行動をとることが重要

昨年は、日本ジュニアで優勝し、日本女子オープンではローアマとなり上り調子の中村心は、「調子が良い時はショットも上手く振り抜けたり、アプローチパターも寄る気がしたり入ったりする気もするんですけど。調子が悪い時は、ネガティブな気持ちでどんどんミスが重なって、最後までずっと悪い流れでいってしまうことがあるので。ラウンド中のそういうネガティブな思考をポジティブに変えられる方法とか、悪い流れを断ち切る方法を教えて頂きたいです」という質問。

画像: 3オーバーの66位タイだった中村心

3オーバーの66位タイだった中村心

この質問を聞いて、「気持ちの切り替えはゴルファーみんなの課題」という藍プロ。確かにメンタルトレーニングの主要なテーマは、気持ちの切り替えだ。現役時代にこの分野で強さを見せた藍プロが具体的なメソッドを公開してくれた。

「リズムが悪い日ってもちろんあるんだけれど、その流れの波を少しでも小さくするには、良いプレーをした時に近づける、そこの切り替えだと思うんですよね。でも、調子が凄く良かった日に、なんで『65』が出たのって聞かれて、パターが良く入りましたって言うコメントは良く聞くんだけれど、具体的に何をしたかを答えられる選手って凄く少ないんですよ。だから、良いプレーをしている時に、気持ちの部分だけじゃなくて、具体的に自分のスウィングの感覚はどうかとか、決断力はどうだったか、どういったウォームアップをしたかということを、具体的にリストアップをしておくことが大事なんですよね。気持ち的な部分だけでポジティブになろうとしても、実はあまりポジティブにすることにはならなくて、むしろ具体的な行動に繋げることが気持ちの変化に繋がるので。だから気持ちを変えようというより、行動を変えようという感じかな。そのために、まずは良い時の自分を具体的に情報を集めるということからかなと思います」

Q:バンカーが苦手。バンカーに入ってもイイって思える練習法は?
A:プレッシャーのかかる状況をいろいろな遊びを入れながら実施する

左奈々は「アプローチとかバンカーに苦手意識があって。試合でも絶対に入れないようにしているんですけど。どういう練習をしたら、入れてもイイって思えるようになりますか」という、なかなか難解な質問。

画像: 7オーバーで104位タイだった左奈々

7オーバーで104位タイだった左奈々

これに対して藍プロは「バンカーに入れてもいいやと思って打っている選手は一人もいないと思うんだけど(笑)」と、まずは場を和らげておき、その後、きちんと回答してくれた。

「バンカーに入れた時に、どう打つか。58度で打つのか52度で打つのか。スピンを掛けて打つのか、少し転がして打つのか。その種類があればあるほど、対処はできるようになってくるから、いろんなライからいろんな距離を打つ練習というのを普段からやっておくといいかなと思います。ただ、バンカーって同じ所から何回も打つ練習って、実はあまり良い練習にはならないんですよね。というのも、バンカーは実際は同じところから何回も打たないじゃないですか。その場所からは一回しか打たない。だから(バンカーの練習は)、プレッシャーの中で、いろんなライから、いろんな距離から寄せワンの練習をしたかというのが、実際に生きてくる。プレッシャーをかけた練習を一度やっておくと、本番になった時に、あこれ一回経験したことあるよねって反応してくれるんですよ。だから、普段の練習から、プレッシャーが掛かる状況をいろんな遊びを入れながら、やるというのが大事かなと思います」

アマチュアの女子選手の切実な悩みに対して、プロとして世界のトップに上り詰めた宮里藍プロの回答は、彼女たちにとって珠玉の言葉。今回紹介したなかでは、都玲華以外は残念ながら予選落ちしてしまったが、現役を退いてもなお、宮里藍の存在と言葉の重さは変わらないようだ。

写真/中村修

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