前日までの3.5ラウンドでわずか1ボギー、ファアウェイを外したのも1ホールだけとノーミスの快調なゴルフを続けてきた藤田だが、残り8ホールは試練の連続だった。
前日とは対照的な青空のもと風向きが変わった。藤田が経験したことのない風。スタートする前からアゲンストだとパーオンさえ難しい18番のことが気がかりだった。
11番のティーショットは明らかにいつもと違った。右に抜けラフへ。前の組で回っていたブランドはそれを見て「フジタが初めて緊張の色を見せた」と思ったのだという。
地に足がつかない状態で出だし4ホールで3つボギーを叩いた。
「3打リードしていたのにベストなプレーができずプレーオフにもつれてしまいました。ずっとショットの調子が良かったのに最後になって思うようなショットが打てず残念です」
ブランドに逆転され1打ビハインドで迎えた18番は、その日ひとりもバーディを奪っていない最難関ホール。ブランドがボギーを叩き両者13アンダーで並ぶ。パーをセーブすれはプレーオフ。その状況で藤田がフェアウェイ右サイドから放ったセカンドショットは持ち球のフェードではなくドロー。体勢を崩しながらの渾身の一打は見事グリーンを捉え距離はあったがバーディチャンス。しかしパットを決めきれずプレーオフにもつれ込んだ。
プレーオフ4ホール目(18番)でブランドが右のバンカーから10センチに寄せパー。藤田の6メートルのパーパットが外れ、掴みかけていた栄冠を手放した。
絶好のチャンスだったのはプレーオフ3ホール目。やはり18番でブランドはフェアウェイからの2打目を信じられないほど大きく右に曲げパーセーブは難しい状況に。藤田も左のバンカーに入れていたがパーセーブのチャンスは十分。パー、ボギーでの決着が見えてきたが結果はともにボギー。
「バンカーから寄せ切れなかったのが一番の後悔」と藤田は振り返る。もしそこでオーケーの距離に寄せパーを拾っていれば勝利は彼のものだった。
もちろんゴルフで“たられば”は禁物だが、いい流れのまま最終ラウンドが日曜日に行われていたら、と思わずにはいられない。
「一晩過ごすことで色々な考えが湧いてしまって……」
それはそうだろう。憧れのアメリカ、しかも最高峰のメジャーで優勝争いの先頭を走っていたのだから。いくら「楽しもう」と自分に言い聞かせても、トロフィーがちらついて硬くなって当然だ。
中継を見て寝不足の皆さま。最高の結果ではなかったが55歳の藤田の健闘は我々にドキドキと感動と悔しさをもたらしてくれた。敗戦を糧にさらなる飛躍を期待したい。