1960年代から2000年代初頭まで、50年の長きに渡って躍動した杉原輝雄。小柄な体、ツアーでは最も飛ばない飛距離で、当時トーナメントの舞台としては最長の距離を誇る試合で勝ったこともある。2打目をいちばん先に打つのだが、そのフェアウェイウッドが他の選手のアイアンより正確だった。ジャンボ尾崎が唯一舌を巻いた選手で、「マムシの杉原」、「フェアウェイの運び屋」、「グリーンの魔術師」「ゴルフ界の首領(ドン)」と数々の異名をとったのも頷ける話だ。「小が大を喰う」杉原ゴルフ、その勝負哲学を、当時の「週刊ゴルフダイジェスト」トーナメント記者が聞いた、試合の折々に杉原が発した肉声を公開したい。現代にも通用する名箴言があると思う。
画像: 97年 杉原輝雄

97年 杉原輝雄

パターは生涯一本

ーー「距離感とは見た感じをパターで表現することや。なら一本を使い続けることが有利やろ」

皆さんはパットでの距離感は、どういうふうにとらえておいでだろうか。

ボクは距離感というのは、単に目で見て感じとったものでないんやと考えています。距離感とは、「目で見て、それに自分のパターの打つ感覚を混ぜ合わせて算出した距離、に対する“勘”」であると思うています。

グリーンには、速いとか、重いとかの“質感”があって、この距離はこれくらいの強さで打つという、自分だけの“加減”もまた距離感の分野やと考えています。それならば、パターをあれこれ替えるいうことは、替えたパターに対する新たな“加減”という作業が必要になってくるんやと思います。その分、複雑になって、そんなん、ボクはようしません。

たとえグリーンが速くても重くても、使い慣れたパター1本に絞ったほうが、パットの単純化にもつながり、技術にも磨きがかけやすい、思うんです。

先程もいったように、距離感というのは目で測る勘には違いありませんが、その答え(何メートル)を出すにあたっては、自分のパターが無意識のうちに基準となっているんです。

ゴルフは単純なほど明快になりますのや。複雑にすると、どこまでも複雑になる危険性も秘めています。そうなると自分の能力では手に負えんいほど難しくなります。考えすぎると、考え負けになってしまうことだってありますのや。

特徴の異なった複数のパターを、グリーンの違いで使い分けることは、それだけゴルフ――パッティング――を複雑にするということを忘れてはいけません。

ボクはパターも女房も、生涯1本(人)主義なんです(笑)。 

1日1回は挑戦を愉しむ

ーー「谷越えのホールでは新品のボールを使う。挑戦を愉しむ気持ちになれば、ゴルフは一層おもしろくなるで」

アマチュアの皆さんとまわっていて、谷越えのホールにくると、決まってキャデバッグをごそごそさせて何かを探している光景を何度か見かけました。

ボクが「何しとるんですか? 」と聞くと、「ボールの古いの、探してますねん。谷越えやと必ず落としますよって」。そんな時、ボクは今使ってるより、新品のボールをと勧めるんです。「最初からコースに負けててどうするんですか。ゴルフは挑戦なんですよ。挑戦を愉しまなくて何がおもろいんですか」と挑発するのが常です。

ボクは辛抱強く守ってばかりいるのゴルファーと思われているようやが、勝負をかける時は思い切っていくタイプなんです。ゴルフは挑戦があってこそ一層楽しめるスポーツです。

谷越えのショットとなれば、プレッシャーもかかるやろ。しかし逃げてばかりいては、いつまでも上達はそこで止まったままです。自分のそのプレッシャーも愉しまんと。だって、高いお金出してやね、そういう挑戦をしにきたわけでっしゃろ。ボクは1日に1回は、チャレンジしろと勧めます。ここでは絶対にナイスショットするんやという気持ちを新品のボールに込めるんですよ。気持ちで自分にストップかけてどうするんや。

谷越えショットでのちょっとした技術の助言をしましょう。

谷越えという意識が力みを呼んで、なるだけ早くボールをつかまえようと、ボールの位置も右足のほうに寄りがちになります。そうなるとボールは上がりにくくなる。普段より左足寄りにしてボールを上がりやすくして、あとは越えることを信じて思い切って振り切っていかな!

文/古川正則(ゴルフダイジェスト特別編集委員)

杉原の箴言集のバックナンバーはこちらから

This article is a sponsored article by
''.