同じ460ccの大型ヘッドでも、クラブの個性はさまざま。だからこそ「重心特性」を知ることで、クラブ性能がよく分かり、自分に合ったクラブを選べるようになり、ひいては飛距離を伸ばすことも可能なんだと言うのはクラブデザイナーの松尾好員さん。そこで今回は最新モデルの「重心」を徹底研究。クラブ性能を最大に発揮させて、ビッグドライブを手に入れよう。
ヘッド特性のすべては「重心位置」で読み解ける
松尾 野球のバットやテニスのラケットとは異なり、ゴルフクラブはグリップとシャフトの延長線上から離れたところに重心と打点がある。これがクラブの最大特徴です。とくにドライバーヘッドの体積は大きいぶん、重心設計の自由度が大きい。だからこそ「球が上がりやすい」、「スピンを抑えられる」、「操作しやすい」、「芯を外しても曲がりにくい」といったバリエーション豊かで特徴のあるモデルができるわけです。
と語り始めた松尾氏。ところで今回のテーマ「重心」とはヘッドのどこにあるのだろうか。
松尾 ヘッド内部の空洞にあるのが重心です。そこを中心に3次元的にヘッドが動こうとするので「(重心)距離」、「(重心)深度」、「(重心)高さ」が大切になってきます。さらに、重心位置は慣性モーメント(MI)にも大きく影響します。ヘッド性能のすべては重心位置が物語っているんです。
たとえば重心距離が長いドライバーはヘッドターンがゆるやかになり、左右MIが大きくなり、左右の打点ブレに強くなる。使い手の技量や求める性能によって、ヘッド選び方は変わってくるということだ。
クラブと重心の関係「基本のキ」
スウィートスポット(SS)が低いと芯より上に当たりやすく、ギア効果によりスピン量が抑えられる。逆にSSが高いとスピンが入りやすくなる。
打ち出し高さやスピン量に関わるポイント。重心深度が深いと、球が上がりやすくてスピンが入りやすい。浅いとスピン量と高さが抑えられるぶん、初速は上がりやすい。
重心距離はヘッドターンのしやすさに影響。距離が長いとヘッドはゆったりターンして球が左に行きづらい。短いとターンしやすくて、球がつかまりやすくなる。操作もしやすい。
さらに、重心位置によって「慣性モーメント」も変わる
松尾 慣性モーメント(MI)の数値が大きくなれば、フェースの向きがブレにくく、芯を外しても当たり負けしにくいので、打点ミスに強いと言えます。ただし、フェースの向きが変わりにくいということは、急速なフェースターンはしづらい、ということ。だからこそ自分に合う重心特性を見つけたいですね。
あまり知られていないが、低重心率も大切
松尾 低重心率が60%前後なら低重心、66%前後なら高重心。ある程度スピンが入ったほうが弾道が安定しやすいです。ヘッド速度遅めの人は、そもそもスピン量が足りないことが多いので、高重心のものを選ぶといいでしょう。
大慣性モーメントが生んだ、飛距離モンスター「キャメロン・チャンプ」
クラブの進化に合わせて、プロのスウィングはどう変わってきたのか。クラブとスウィングの関係を研究する永井延宏プロに話を聞いた。
永井 たとえば平均飛距離が340ヤードを超えるキャメロン・チャンプ。圧倒的飛距離も今のクラブだからこそ実現できるのだと思います。MIが大きくてスウィートエリアが広い今どきの大型ヘッドは、芯に当てるという繊細な動きが以前ほど必要ではなくなりました。クラブがプレーンから外れなければ、打点が少々ばらけようと球が曲がりにくくなっています。
永井 ミートに気を使うよりも、いかにボールに大きなエネルギーをぶつけるかが大切になってきているのです。
キャメロン・チャンプ
1995年生まれ。23歳。米国出身。昨年のドライビングディスタンス1位マキロイの平均飛距離は319.8Y。チャンプは同年のWeb.comツアーで343.1Yというとてつもない数字を記録。今シーズンからPGAツアー参戦、2戦目で勝利を挙げた。
かつてのようなMIが小さくスウィートエリアが狭いヘッドの時代は、ボールを芯でとらえるための動きが非常に重要だった。体の軸を中心に円を描いて振るようにして再現性を高めていった。ところが、重心が「長・深」の今どきの大型ヘッドは、円運動をするとヘッドが後ろに倒れやすくなり、パワーロスが起きる。切り返しでクラブを起こしてからボールへ直線的にアタックすることで、大きなエネルギーをダイレクトに伝えていける、と永井プロ
永井 超大型ヘッドになって重心特性が変わってきているからこそ、その性能を生かす打ち方が必要になってきますね。
月刊GD2019年4月号より