今週18日(木)から、第152回全英オープンがスコットランド西部のロイヤルトゥルーンで開催。開催を前に、ゴルフ界を彩ったレジェンドたちの全英オープンを全4回で振り返る。第2回目はスペインが生んだカリスマ、セベ・バレステロスの物語をプレーバック。

セベ・バレステロスは生前数えきれないほど多くのスーパーショットを紡ぎ出してきた。誰にもイメージできないクリエイティブなショットでゴルフファンを熱狂させ、不可能を可能にした伝説のゴルファー。数々の名シーンを演出した彼の代名詞ともいえるのが1979年のロイヤルリザム&セントアンズで開催された全英オープンで放った“駐車場”からのショットだろう。

セベの最大の魅力は球を曲げることだった。フェアウェイをとらえグリーンに乗せる、それがスコアメイクの鉄則だがセベのゴルフは違った。ティーショットを曲げながらピンチをチャンスに変える想像力と創造力に人々は熱狂したのだ。

たとえば樹々が鬱蒼と茂る林の中に打ち込みながら、ほんの10数センチの空間を見つけピンポイントで狙った隙間を通したショットをバーディに繋げてしまう。膝をついて打ったトラブルショットをバーディチャンスに変換させてしまう。

画像: 1983年ダンロップフェニックスの練習場で膝をついてのショットを披露するセベ

1983年ダンロップフェニックスの練習場で膝をついてのショットを披露するセベ

橋の下をくぐらせてグリーンに乗せたというエピソードを耳にして生前の本人に直接「覚えていますか?」と尋ねたことがある。すると彼は「そんなこともあったかもしれないね。でもあまりにたくさんスーパーショットを打ちすぎて覚えていない(笑)」とプレー中の険しい表情とはまったく別の人懐っこい笑顔を見せた。

話は1979年の全英オープンである。

最終日は旗竿がたわみ、ズボンがはためくほどの強風が吹き、ヘイル・アーウィンに2打差の2位からスタートしたセベは16番で大きなピンチに陥った。

ティーショットが大きく右に曲がりラフのさらに右、特設の駐車場まで飛んで行ったのだ。フェアウェイを60~70ヤード外れ、ボールの前には黒い車。そこで競技委員が無罰でドロップできると説明。その指示に従ってドロップした彼はショートアイアンでグリーンを狙った。

すると打球はピンの右6メートルのバーディチャンスに。2パットでも上出来という場面で彼は白球をカップの真ん中に流し込んだ。これがかの有名な“駐車場ショット”である。

78を叩いたアーウィンは馬群に沈み、1アンダーをマークしたセベがジャック・ニクラスとベン・クレンショーに3打差をつけメジャー初優勝を飾った。22歳の夏だった。のちに彼は84年と88年に全英を制し、80年と83年のマスターズでも栄冠に輝いている。

画像: 優勝カップを掲げるセベ

優勝カップを掲げるセベ

今年のマスターズのチャンピオンズディナーは奇しくもセベの誕生日(4月9日)に催された。セベに憧れてゴルファーになったディフェンディングチャンピオンのジョン・ラームがホスト役を務め歴代覇者にスペイン料理を振る舞った。さながらスペインナイトとなったその夜、セルヒオ・ガルシアやホセ・マリア・オラサバルが13年前に脳腫瘍で還らぬ人となった先輩との思い出を披露した。

プレースタイルはアグレッシブだが素顔は誰に対しても変わらず優しい人だった。

「19歳の頃から日本に来て(日本が)大好きになった。白いご飯にお醤油をかけて食べると美味しいのを発見したよ」といった彼の笑顔が忘れられない。

あなたの勇姿がもっと見たかった。

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