ゴルフを志す少年なら誰でもそうであるようにシャウフェレの夢はクラレットジャグ(トロフィー)を掲げることだった。
後続に3打差をつけていた最終ホール。優勝が確実な状況でグリーンに上がってくる場面を「子供の頃からずっと夢見ていました」。
フェアウェイを歩きながら目にした黄色いリーダーボード、大勢のファン。スタンディングオベーション。
「鳥肌が立ちました。人生最高の瞬間だった。でもまだグリーン上のプレーが残っていたので気を引き締めました。こうしてクラレットジャグの隣でインタビューに応えられてとても光栄です」
実力がありながらメジャーに勝てないといわれ続けた。しかし28回目の挑戦で全米プロに勝つと30回目で全英を制覇した。2つのメジャーに同じ年に勝ったのはタイガー・ウッズ、ローリー・マキロイ、ブルックス・ケプカに次いで4人目。
「1つ勝つまでは永遠にかかりました。2つ目に手が届いたなんて格別です。これまでのキャリアで今日のバック9はもっとも難しかった。そのなかで落ち着いていられたのは全米プロでの経験があったからです」
本人が「難しかった」というバック9のプレーは圧巻だった。海から重く強い横風が吹くなか“ザ・レイルウェイ”の異名を持つロイヤルトゥルーンでもっとも有名な難ホール11番でこの日のフィールドで唯一のバーディを奪うと、13番で5メートル、14番で3.5メートルのバーディパットを沈め、あっという間にライバルたちを引き離し、16番パー5のバーディでトドメを刺した。
これで世界ランクはローリー・マキロイを抜いて2位に浮上することが確実。来た間近に迫ったパリ五輪ではフランス系ドイツ人の父の親戚が多く住むフランスで連覇(金メダル)を目指す。
全米プロに勝ったとき父が「これはこれから息子で勝っていくであろう多くのメジャーの最初の一つ」といった言葉が現実味を帯びてきた。
妻、両親、親戚が応援に駆けつけ、チーム・シャウフェレの面々も揃って祝う祝勝会では、全米プロVのときウォナメーカートロフィーに入れた酒を皆で飲み干したシーンを再現する。
今回はそれがクラレットジャグ。「何を入れるかは父が決めます。最初に口をつけるのは彼だから」と“パパファースト“の孝行息子。今後は「グランドスラムを目指す」という。
撮影/姉崎正