1960年代から2000年代初頭まで、50年の長きに渡って躍動した杉原輝雄。小柄な体、ツアーでは最も飛ばない飛距離で、当時トーナメントの舞台としては最長の距離を誇る試合で勝ったこともある。2打目をいちばん先に打つのだが、そのフェアウェイウッドが他の選手のアイアンより正確だった。ジャンボ尾崎が唯一舌を巻いた選手で、「マムシの杉原」、「フェアウェイの運び屋」、「グリーンの魔術師」「ゴルフ界の首領(ドン)」と数々の異名をとったのも頷ける話だ。「小が大を喰う」杉原ゴルフ、その勝負哲学を、当時の「週刊ゴルフダイジェスト」トーナメント記者が聞いた、試合の折々に杉原が発した肉声を公開したい。現代にも通用する名箴言があると思う。
画像: 1973年ゴルフダイジェストトーナメント優勝後の表彰式の様子 副賞の自動車に乗る杉原輝雄

1973年ゴルフダイジェストトーナメント優勝後の表彰式の様子 副賞の自動車に乗る杉原輝雄

苦しい時ほど積極策をとる

ーー「苦しいホールと苦手なホールは違うで。苦しいホールを積極的に攻めてこそ活路も開けるんや」

“苦手なホール”を簡潔にいうと、パー4でドライバーを2度使っても乗らんホールや。まあ日本にはそうないけど、風、雨などでそうなることはあります。乗らん可能性が0%なら苦手ホール。けど2打目がドライバーで乗る可能性が1割でもあれば、それは“苦しいホール”やと自分の中で規定してるんです。そして苦しいけどもそれなら何とかなる、いや何とかせなと考えているんです。

苦しいホールの例でいえば、太平洋御殿場コースの9番ホールやろな。距離は400ヤードを超し、第2打が打ち上げになっていて、バンカーもせりだし花道が狭い。こういう状況で、3番ウッド、時にはドライバーで打ったことさえある長さです。3番ウッドやとグリーンで止まりにくく、2オンは難しくなります。

しかしそれは届きさえば何とかなる、ということでもあるんです。事実、乗ったこともあるし、グリーン横から寄せてパーを拾ったこともありますんや。

ボクのような飛ばんもんは、ドライバーでグリーンを狙うより、バンカーの前に打っておいて、寄せワンを狙うという堅実策がベターのように思われますが、ボクはそう考えてません。乗る可能性があるなら狙う。苦しければ苦しいほど、積極的な攻略を考えるということです。苦しい時耐えて無理をせず、ケガしないようにというのも一つの方法ですわ。しかしそれだけでは、活路は開けません。それに、ドライバーを2度使ったとしても、ボクにはそんな無理なゴルフというわけでありません。ひとつ間違えばOBというケースとはまったく違うんです。飛ばんもんが勝つためには、苦しい時ほど積極策をとる。これはボクの哲学やいってもよいと思ってます。 

安全策ばかりでは進歩の妨げ

ーー「基本的に安全策は必要ない。挑戦、失敗、克服の過程をくりかえしながら技術を高めていく」

ボクが第一線でバリバリやってる頃、ハワイからやってきたデビッド・イシイいう選手がいました。プレーがやたらと遅い、というのもめちゃくちゃ慎重なんです。石橋叩いても渡らんようなプレーぶりでした。普通なら狙っていくところを、絶対的に安全な確率を踏まえたゴルフをする。見ているギャラリーもやきもきしたのと違いますかね。

ともかく安全策ばかりで日本でも何勝もしていきましたが、ボクにいわせれば積極策でいってれば何倍も勝ってる、そう思います。だって技術は十分持っているんですから。人の勝負哲学をなんやこうやいう権限はボクにはないが、ボクやったら挑戦してだめやったら、2位でもいいやないかという場面が何回もありました。

こんなこというのも、ボクは挑戦して失敗、それを克服してスキルアップをしていくというのが、ゴルフの楽しみというか、やりがいだと思うからなんです。スポーツなんだから冒険を楽しむ気持ちが大切と思います

特にアマチュアはそう思います。だから、ボクは谷越え、池越え、OBに向かって打つような場面では「拾ってきたようなボールは使わんと、新品ボールにしなさい」とアドバイスするんです。

アマには基本的には安全策は必要ないと思っています。進歩の妨げになるとさえ思っています。先程もいいましたが、挑戦、失敗、克服、この過程を踏んでこそゴルフの本当の“愉しみ”があるのですから。

文/古川正則(ゴルフダイジェスト特別編集委員)

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