2016年の厚生労働省のデータによると、日本で「痛風で通院中」の人は110万人以上とされる。しかも、夏は発症が増える時期。ラウンドの際のランチタイムにビールをがぶ飲みし、それでも「俺は大丈夫」なんて言ってていいの? ということで、2024年8月13日号の「週刊ゴルフダイジェスト」では、痛風ゴルファーの体験談や、専門家に予防や対処について聞いている。「みんなのゴルフダイジェスト」でも紹介していこう!
画像: ラウンドの際に飲むビールはやっぱり美味しい! でも「痛風だから飲めない」っていう人も……(撮影/三木崇徳)

ラウンドの際に飲むビールはやっぱり美味しい! でも「痛風だから飲めない」っていう人も……(撮影/三木崇徳)

解説/医学博士 日高雄二先生
東京大学医学部卒。港区赤坂の「赤坂中央クリニック」院長で、専門は痛風、関節リウマチ、膠原病。監修本に「痛風・高尿酸血症 最新治療法」(高橋書店)、「痛風の治療と食事療法」(日東書院)などがある。

そもそも痛風ってどんな病気?

血液中にある尿酸という物質の量が基準値(7.0mg/dL)を超えた病態。尿酸とは新陳代謝やエネルギー消費でできた、いわば体の老廃物。通常は尿や便と共に体外に排出されるが、代謝の異常によって過剰に尿酸が作られたり、腎臓からの排出が低下したりすると尿酸は血液中だけでなく体中にたまってしまう。尿酸が血液中に増え過ぎると、尿酸がナトリウムと結び付いて尿酸塩という白い結晶に
なる。この尿酸塩の結晶は、特に足の関節など、血液が滞りやすい部分にたまりやすく、関節内に沈着した尿酸塩の結晶が関節液中にはがれ落ちると、免疫細胞である白血球が攻撃し激しい痛みの痛風発作を起こすと言われる。

プロの痛風体験&目撃エピソード

靴を切って試合に出場
1970~80年代に活躍し、トッププロだった内田繁(86)は痛風持ちで知られていましたが、ある大会であまりの激痛に耐えきれず、シューズの親指のところをカットして出場していて記者たちもびっくり。それでも「親指の付け根に風が当たって痛い」と嘆いていて、それほど痛いものなのかと二度びっくりでした。(70代男性・ゴルフ記者)

マッサージで悪化
僕をスポンサードしてくれている大学の2年先輩が痛風です。一緒にゴルフに行っていたら「ひざが痛い、ひざが痛い」と言い出して。ゴルフの後すぐにマッサージと鍼に行きましたが治らず、翌日、整形外科へ。そこではわからず、次に行った内科でようやく痛風と判明。薬を飲んで小康を保ち、今は平気でビールをグビグビやっていますよ(笑)。(タケ小山・プロゴルファー)

画像: 1969年日本シリーズの内田繁。パットを外した後の仕草であり、痛風が痛くて足を上げているわけではないので悪しからず……

1969年日本シリーズの内田繁。パットを外した後の仕草であり、痛風が痛くて足を上げているわけではないので悪しからず……

高い尿酸値を放置しておくととんでもない激痛が襲ってくるかも……

痛風を専門とする医学博士の日高雄二先生によると、日本では「(2016年データで)痛風で通院中の方が110万人を超えるとされていますが、これは1995年と比べると約3倍の数字。また痛風の予備軍ともいえる高尿酸血症の患者数は1000万人を超えるとされています」という。ちなみに、高尿酸血症の患者は痛みなどの自覚症状がない場合で、激痛発作が起きると痛風という診断になる。また、痛風といえば中高年男性の病気というイメージがあるが「最近は若い男性にも痛風患者は増えています」(日高先生、以下同)という。

主な原因としては「不規則な食生活、食べ過ぎや動物性脂肪の取り過ぎによる肥満、精神的ストレス、アルコール摂取量の増加などが考えられます」。それによって高くなった尿酸値を放置しておくと、激痛発作が起こるだけでなく、腎障害、尿路結石、高血圧症、脂質異常症、糖尿病などを引き起こす原因にもなる。「こうした合併症を招かないためにも、食事や運動などの日常生活を改善することが大事なのです」。

夏の夜中~明け方に発症しやすい!? 暴飲暴食、激しい運動も引き金に

「痛風の発作は、夜中や明け方に起こりやすいです」と日高先生。睡眠中は副交感神経が働いて血流がゆるやかになり、体温が下がるため、明け方には血中の尿酸が上昇し尿酸塩の結晶ができやすいことが原因と考えられている。「特に、暴飲暴食や激しい運動の後に起こりやすいです」。また、「痛風発作がもっとも起こりやすい季節は夏です。暑さで大量の汗をかくと、発汗による脱水で血液中の尿酸の濃度が上がるためだとされています」。ゴルフは激しい運動とは言えないだろうが、大量の汗をかくので水分補給はマストだ。

痛風発作を起こす主なきっかけ

▷激しい運動
発汗で体内から水分が減り、尿酸値が急上昇。また、ATPというエネルギー物質が急激に消費されると、尿酸の原料となるプリン体がたくさん作られる。

▷過食やアルコール
カロリーの取り過ぎ、アルコールの飲み過ぎ、高プリン体食品やたんぱく質の過剰摂取も痛風発作の要因に。

▷患部への物理的刺激
患部付近の打撲やねんざ、長時間の歩行や、きつい靴での足の締め付けによる外傷など。

▷薬物治療の初期
尿酸値を下げる薬物治療の初期段階で、急激に尿酸値を低下させたとき。

▷体温の低下
体温が下がると尿酸塩の結晶化が進み、結晶もはがれ落ちやすい。

▷強いストレス
人間関係や仕事で強いストレスがかかるのもきっかけになりうる。いらだちや焦りなどからくる発汗や脱水も誘因に。

痛風発作の多くは足の親指の付け根の激痛として起こることが多いが「足の甲やくるぶし、アキレス腱周辺、ひざなどに表れる人もいます」。ある日突然起きるイメージだが、実は前兆がある場合も。「発作の1日~数時間前に、発作が起こる部分がチクチク、ピリピリ、ムズムズしたり、鈍痛やこわばり、火照りのようなものを感じるようだと前兆。ただし、前兆が起きても必ず発作が起きるとは限
りません」。

そして痛風発作が起きると「関節は熱を持って赤く腫れ、痛みはどんどん強くなり、発生から24時間ぐらいでピークになります。痛みは3~7日ほどで収まり、関節の腫れも引きますが、だからといって治療を受けずに放っておくと、半年から1年後には同じような発作が再び起きます」。

そのうち発作の間隔が短くなり、ほかの関節に発作が起きるようになる。「痛風かも」と思ったら病院へ、は鉄則だ。

では、もし痛風発作が起きてしまったら。「夜中などですぐに病院に行けない場合、応急処置もあります。まずは安静にすること。歩いたり患部をもんだりせず、患部は氷や水、シップなどで冷やしてください。あとは患部を心臓より高くすること。これにより静脈のうっ血が防げます」。その後、なるべく早く病院へ。膠原病、リウマチ内科、内分泌代謝内科、整形外科、腎臓内科などで診察を受けるのがいいが、まずかかりつけ医に相談して、専門医を紹介してもらうのもいい。治療を受けずにいると慢性化の恐れもある。また「アスピリンは少量であっても、かえって尿酸値を上げ、悪化させる場合があるので、服用は避けてください」。

ちなみに痛風になりやすい人には、さまざまな特徴がある。前述の激しい運動をする人も一つだが、遺伝もまた一つ。「日本の痛風の患者さんの20~40%には家族や親族に痛風患者がいるとされています」。ほかには性格的なものも。活動的、積極的、意欲的、せっかち、攻撃的、負けず嫌い、競争心が強い、など。ゴルファーには当てはまるものが多そうだ。

では、予防するためにはどうすればいいか。以前は「プリン体(尿酸の原料となる物質)」の制限がよく言われていたが「厳密なプリン体制限は実際には難しく、長続きしません。そこで、最近は『この食品を食べてはいけない』という食品の制限はあまり指導されず、それよりも食べる総量を制限することが重要とされています」。

実は痛風患者の約60%が肥満とされており、特に内臓脂肪型の肥満と痛風は密接な関係があるという。また「アルコールには尿酸の産出を促し、尿酸の排出を阻害する働きがあります。さらに、アルコールの利尿作用で脱水傾向となり、尿酸排出が低下してしまいます。痛風になった人の95%はアルコールを週に5日以上飲んでいるという調査結果もあるんです」。

ただ、夏ラウンドのランチでのビールはおいしい。前述のとおり、プリン体制限より食事の総量制限が大切なので「プリン体が多いからビールは絶対飲めない」というわけではない。そもそもプリン体は体内で作られる物質で、食事によるプリン体摂取は全体の10~20%とされており、それほど神経質になる必要はないのだ。摂取の目安は1日400㎎を超えないこと。

神経質になり過ぎなくてOKですが……

▷プリン体が極めて多い(300㎎以上)主な食品
鶏レバー、真いわしの干物、白子(イサキ、ふぐ、たら)、あん肝(酒蒸し)、太刀魚、健康食品(DNA/RNA、ビール酵母、クロレラ、スピルリナ、ローヤルゼリー)など

▷プリン体が多い(200~300㎎)主な食品
豚レバー、牛レバー、かつお、真いわし、大正えび、オキアミ、干物(真あじ、さんま)など

※100g中の総プリン体量、『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版』より

ちなみに通常のビールは500㎖(中びん1本)で、プリン体は21.8~34.4㎎、焼酎(アルコール25%)は「0」だ。

また、生活面の改善では適度な運動は推奨されているので、ゴルフも悪くない。ただ、夏ゴルフは大量の汗をかくので水分補給はくれぐれも忘れずに。ただし「清涼飲料水には糖分が含まれているので、カロリー摂取オーバーのため体重が増加して尿酸値が上昇し、痛風発作のリスクが高くなります。尿酸値が気になる方は水や日本茶、ウーロン茶などがおすすめ」とのこと。

「高尿酸血症は悪い生活習慣のアラーム」と日高先生。尿酸値が高いなら、アラームが鳴っているということ。この段階で生活習慣を改め痛風の発症を防げればしめたものだ。すでに発症している人も、薬や生活習慣の改善で発作を抑えることは可能。ゴルフのような適度な運動も味方につけよう。

※2024年8月13日号週刊ゴルフダイジェスト 「痛風講座」より

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