今年の日本オープンの開催舞台である東京ゴルフ倶楽部は 2018年、名手ギル・ハンスの手によって改修された。このインタビュー記事は2019年1月号『Choice』誌掲載されたものである。原文のままでお届けしよう。

GIL HANSE(ギル・ハンス)

画像: ギル・ハンス。現在世界のコース設計家5指に数えられる名匠

ギル・ハンス。現在世界のコース設計家5指に数えられる名匠

1963年、米国ニューヨーク州生まれ。デンバー大学政治学科、コーネル大学ランドスケープアーキテクチャー科卒業後、コースデザイナーの道へ。パインハーストNo,4、ロサンジェルスCC、メリオンGCなど米国の歴史あるコースのリストアを手掛けた。またリオ五輪コースも設計。現在世界のコース設計家5指に数えられよう。

アリソン、大谷の遺産を理解し、引き継ぐ改修

――なぜ、あなたが東京GCの改修を依頼されたと思いますか。

ギル 私が東京・朝霞コースを設計したチャールズ・ヒュー・アリソンと原設計者、大谷光明さんに敬意を表しているからでしょう。最初はアリソンの先輩パートナーだったハリー・コルトのことを研究した『コルト&カンパニー』(フレッド・ホウトレー著)から、アリソンを知り、大谷(光明)さんを理解し、東京GCのルーツを探り出しました。このことは倶楽部からの面接の折、お話ししました。

画像: 左がチャールズ・ヒュー・アリソン、右が大谷光明

左がチャールズ・ヒュー・アリソン、右が大谷光明

――アリソンの何があなたの琴線に触れたのでしょうか。

ギル 彼のハンドライティングの設計図で等高線の描き方、バンカーの造り方なども緻密、精緻で文字そのものに深い教養を感じます。これを見た大谷さんが非常に感銘を受け、基礎として設計をしています。私達はその大谷さんの原設計を尊重しながら、復元・改修して行こうと。それが倶楽部の要望であり、私達もしっかりと受け止めました。

画像: 当時のコース改造委員長・相馬仁胤氏(左)はグリーンキーパー柴沼朋彦さんに進捗状況を確認する日が続いた。クラブのアイデンティティがかかる

当時のコース改造委員長・相馬仁胤氏(左)はグリーンキーパー柴沼朋彦さんに進捗状況を確認する日が続いた。クラブのアイデンティティがかかる

――近年は米国名門コースでの改修・改造が多いですが、その経験は東京GCへはどのように伝えられるのでしょうか。

ギル 確かに私達プロジェクトはこれまでメリオンGC、ウイングドフットGC、ロサンンジェルスCCなど改修・改造の仕事が増えました。しかし、それらを十把一絡(じっぱひとからげ)にしては語れません。そこに通底しているのはレストレーション(原状復帰)ということでしょうね。例えばメリオンではーーこの改修は私ではありませんがーー全米オープン開催(2013年)のために手を入れました。しかし、さらにクラブ側は、今度の私達プロジェクトに再改修のオファーをしました。現在、そのレストレーションを終えるところまで来ています。

東京GCもアリソンと、彼の理念を達成しようとした大谷さんの精神、そして伝統・歴史を尊重するよう配慮しました。

2グリーンの特性をパーフェクトに生かした

――さていよいよ核心に迫りますが、東京GCでは2グリーン制を残して改修されましたよね。これは世界では見られません。本音では1グリーンがいいとは思われませんでしたか。

ギル 東京GCは日本で最も伝統あるクラブの1つです。その伝統を守ることが私達に課せられた命題でした。東京GCは長い間、2グリーンで経過し、それが伝統の中に収まっている以上、2グリーン制を維持することが最良であると私達は判断しました。それを許し、可能にしたのが土地のスケールです。グリーンを心地よく2つに分けることができるほど十分な広さがあれば、このシステムは非常にうまく機能します。

――2グリーン制でよくいわれる弱点は、常に2つのグリーンがあるために、どのホールも同じように見え、単調になりやすいことです。またグリーンとグリーンの間がどちらのエリアかはっきりしないために、曖昧さを残したデザインになってしまいがち……。この点はどのように克服されたのでしょうか。

ギル 2グリーンがコースを単調にするという考え方には全く反対です。私達はグリーンをどう攻めるか、2つの非常に違った選択肢を作りだすことに一生懸命でした。完璧な例が15番です。1つのグリーンは小さく、マウンドと低刈の芝に囲まれていて、他方はバンカーと樹木に囲まれています。プレーヤーは多様な攻めの選択肢に決して退屈することはないでしょう。

画像: ギルはチーム内でのアイディアの交換を勧める。ギルもまた現場、メンバーの意見を吸い上げ、最終的にはリーダーとして決断を下す

ギルはチーム内でのアイディアの交換を勧める。ギルもまた現場、メンバーの意見を吸い上げ、最終的にはリーダーとして決断を下す

――なるほど、土地のスケールがあればそれぞれの攻め方のアラカルトができるわけですね。

ギル その通りです。パー3では全て違った距離と、違った角度からプレーできます。したがって4通りではなく8通りの“顔”があることになります。2グリーン制が機能するカギはそれぞれのグリーンがホール内に違った選択肢と戦略性を持つことです。それらの戦略性がティショットによりバラエティを生むとすれば、そのホールは本当にエキサイティングです。
それと2つのグリーン間のエリアですが、この状況は4~5ホールしかありません。あとはグリーンどうしが離れていますから。真ん中のバンカーは浅めに、両方のグリーンに相対するように。そしてどういう方向にも対応できるように――建設中、ニールに相談しながら――共有するバンカーはそれぞれのグリーンに互換性のあるものにしました。

――バンカーについてもう1つ質問を。当日のグリーンから遠い、他方のバンカーに入った場合、HCの多い人には至難の技になってしまいますが。

ギル 悪いショットでそうなった場合はペナルティですね。チャンピオンシップコースを想定していますので、そのように外れたら、ペナルティを払ってリカバリーをしてもらうことになります。

――愚問でした(笑)。さきほど、ニールさんの話が出てきましたが、ギルさんはシェイパーと共に造り込んでいく現場主義者とお聞きしております。ということは図面自体、そんなに重要視しない?

図面は大事だが現場の感性を優先

画像: 左からスーパーインテンデントの柴沼朋彦氏、シェーパーのニール・キャメロン氏、コースデザイナーのギル・ハンス氏。ギルが記した設計図の前で

左からスーパーインテンデントの柴沼朋彦氏、シェーパーのニール・キャメロン氏、コースデザイナーのギル・ハンス氏。ギルが記した設計図の前で

ギル 私達は現場のデザイン作業に重きを置いています。そして建設中は想像力のあるプロセスを何より大事にします。しかしながら復元プロジェクトではその時代の図面が非常に大事。そうすればメンバーが、私達が何をしようとしているか、理解することができます。これらのプロジェクトの歴史的資料にも頼りますし、歴史的コースで作業する場合は積極的にこれらの図面に頼る。そうすれば会員の皆様が、私達が何をしようとしているか、理解することができます。私達独自の設計プロジェクトでは図面よりもっと現場判断に頼ります。東京プロジェクトでは2期にわたって現場監督を担当してくれた――私が不在の時には正しい判断をしてくれる――最も信頼するニール、そして世界最高のスーパーインテンデントの1人、柴沼さんが完成後も非常にレベルの高いコース管理をしてくれることを確信しています。

ニール 嬉しいですね。ただ信頼してもらっているということは一方で責任も生じるわけです。要求も厳しいですからね(笑)。柴沼さんからも沢山要求がありますし。ただギルがいない時は図面が助けてくれます。ギルが現場にいる時は徹底的に話し合い、材料を出し、最後はギルが判断する……。幸運なことに長くギルと一緒に仕事していて、感覚で判ることもあります。それに写真や意見はメールで情報交換もできますしね。プロジェクトはチーム力だということはいつも感じています。

――倶楽部側の柴沼さんとニールが現場でぶつかったことはないんですか。

柴沼 例えば管理道路とかキャディ専用のカートパスとかはデザイン上は絶対ない方がいいはず。しかしでき上がったものを管理するには車両や機械類が通る場所が必要。道路がなくてやむを得ず芝地を通らざるを得なかったり、雨天には「わだち」ができてしまったり……。

その部分で便利に造りすぎれば、デザイン的なロケーションは美しさをなくしてしまいます。
必要悪とデザインとの攻めぎあいの調整が難しかったですね。でも結論をいえば本物ができたと、胸を張っていえます。

――最後にギルさんの設計者としての理念、哲学は経験を積むとともに変わってきていますか。

ギル 最初から変わっていません。新しいコースをデザインする時は風景や地形を大事にして、コースレストレーションの時には原設計者や歴史・伝統に敬意を表しています。東京プロジェクトではチーム力で満足のいく仕事ができたと思います。皆さんに感謝します。

――ありがとうございました。

通訳/谷章吾
撮影/三木崇徳(人物)、横山博明(コース) 
文/古川正則(特別編集委員)

This article is a sponsored article by
''.