解説/赤野公昭(あかのきみあき)
「『不安』でいい。不安を生かすと上手くいきます」
1972年岡山県生まれ。世界のアスリートを育てたアメリカのトップメンタルトレーナー、ジョセフ・ペアレント博士に師事。日本古来の「禅」と欧米の最新理論を融合させた独自のメソッドでプロゴルファーなどトップアスリートを指導する。
「“終わったらラーメンが食べたい”とイメージが湧いていいんです」(赤野)
体験ファーストでプレイする
前回の内容は、ネガティブ・ポジティブどちらの感情にも捉われないように不思議系を目指す必要があると語った赤野氏。では、「不思議系」になるにはどうしたらいいのか。
「まず、ネガティブ思考だと感じている人は、自分を単純にネガティブだと決めつけないことです。もちろん、ポジティブになろうとしなくてもいいのですけれど(笑)。自分を固めようとしないことって大事なんですよ。不思議系は雲のように流される存在のようでもあるんです。それもまたよし。流れとはバランスです。固めるとバランスは崩れる。ゴルフって一打ごとに違うバランスで打っていますよね」
突き詰めないことをよしとすること。何事もやってみないとわからないとすること。
「『体験ファースト』です。不思議系の順番は、『考えてから打つ』ではなく、『打ってみてから考る』なんです」だから、余計な考えにとらわれない。
そのうえで、「なりたい」ではなく「ありたい」を大事にしたい。
Q.プレー中、あなたの頭に浮かぶ言葉はなんですか?
「今日は90を切りたい」「バーディを狙う!」は、過剰なポジティブ思考になっているかも⁉「穏やかでありたい」「普通でありたい」の心持ちで「不思議系」を目指そう!
「ホームポジションを見つけることです。『優勝したい』『今日は90を切りたい』『バーディを狙う! 』ではなく、『静かでありたい』『穏やかでありたい』『普通でありたい』の心持ちで、ひとつひとつのプレーをしてみるといいと思います」
「絶対いける! 」「オレはできる! 」というようなポジティブシンキングはあまりおすすめはしない。
「しつこいようですが(笑)、ムリに元気にしようとする思考は、逆にエネルギーを浪費してしまっている可能性が大きいです。これは『ないもの』を無理やりつくろうとしている状態。大事なことは、すでに『ある』ものを見つけて生かすことです。キーワードは『気持ちよく』と『安心感』です。たとえば受験で『ない』ものが苦手科目だとすれば、『ある』ものとは好きな科目です。みなさんも経験があると思いますが、好きな科目は、苦手科目に比べて、ムリなくラクに取り組めます」
自分のなかに「スペース」をつくる
ちなみに、ミスした後の気持ちの切り替え方について聞くと、“不思議系”を代表するであろう小祝さくらと竹田麗央はどちらも「ミスしても死ぬわけじゃないですから」と答えた。
「この自分を追い込まない、自分を痛めつけない感じがいいんですね。一打ごとにゼロに戻るためには、ミスしても仕方がないと思うことが肝心ですから。そして小祝選手も竹田選手も『考えていない』という発言をしますよね。これはもう、ご本人が気づいているかどうかにかかわらず、自分を捨てきる『無我の心』になっているということなんです」
また、不思議系の人には、常に心に“スペース”があるのだという。
「だからプレーだけに必死にならなくてすむ。いかにこのスペースを持てるか。ネガティブな人はこのスペースがなくなるので、不安を通り越して絶望になってしまうんですね。そしてそのスペースこそが、クリエイティビティを生み出すんです」
仕事や生活の場面でも、同じようなことを耳にするのではないか。詰め込みすぎては何もアイデアは浮かばない。だから、リラックスすることや休暇を取ること、趣味や旅行など別のことをするのも必要だと……。
「ゴルフのことばかり考えないためにも、プレー間にクラブを持たないことやボーッとすることも大切です。周りの自然に目を向けたりするものいい。考えていない状態がスペースです。放っておいても頭のなかに言葉は湧いてくるもの。いかにゴルフ以外のことが湧いてくるようにするか。すると、直感の声が聞こえてくるんです。直感とつながると体は自然に動くようになる。これが結果的にいいプレーを生みます。不思議系の方は自分が不思議系だなんてまったく思ってないでしょう。スペースがある人は、周りから見ると何を考えているかわからない。それは、頑張ってゴルフのことを考えていないからなんです。重要な場面でも『終わったらラーメンを食べたいなあ』というイメージなどが湧いてきているかもしれませんよ」
「1つ1つのプレーを『なりたい』から『ありたい』へ」(赤野)
日常から、ムキになる場面で頑張って考えることを止めてみることも必要だと赤野氏。
「自然に自分のなかに湧いてくるものに任せてみましょう。それに委ねるようにしてみると、自然にスペースができてきます。また、『人生のなかにゴルフがある』というのは、いい考え方ですね。他にも好きなことがある。食べること、寝ること、買い物すること、おしゃべりすること……自分の好きに囲まれて生きることは大事です。ネガティブな人は、“好き”が少ない傾向にあるんです。何でもよいので自分の好きを広げてほしいですね」
あなたも今日から「不思議系」へ。余計な力みが抜けたゴルフや生活が手に入るはずです!
ILLUST / Kouki Hashimoto
PHOTO / Shinji Osawa、Hiroyuki Okazawa、Hiroaki Arihara
※週刊ゴルフダイジェスト12月17日号「不思議系のメソッド」から一部抜粋