昨年までと全く違う異例のシーズン
まず、今シーズンのPGAツアーは選手たちにとって「近年まれにみるタフなシーズン」となりました。理由は2つあります。
1つ目は開幕が9月から1月に変更になったことです(開幕が1月になるのは10シーズンぶり)。これによりコンディション調整や、出場試合の選定に大きな変化がもたらされました。
PGAツアーは35~40試合が開催されますが、フルで出場する選手はほとんどいません。昨年の賞金ランク1位のスコッティ・シェフラーや同3位の松山英樹は21試合(PGAツアー以外も含む)に絞って出場していました。
そもそも主戦場となる米国は日本とは違って国土が広大なため、移動時間を確保したりそれに伴うコンディション調整が非常に難しくなります。よって、どの試合に照準を絞り、そのためにはどう休養し移動するのかというプランが非常に重要なポイントになるのです。
開幕が9月から1月になったことで、選手たちはそのプランニングの変更を余儀なくされました。
PGAツアーでは、9月から11月末にかけてフェデックスカップ・フォールという秋季シリーズが行われます。これは賞金総額が概ね1000万ドル以下で、主にランキング中〜下位の選手がメインに出場するもの。トッププレーヤーはスキップしたり出場しても数試合で、この時期は調整や休養に当てるのが定石。秋開幕だった昨シーズまでは、この期間にコンディションを整えてから年明けの大会に臨んでいっていました。
しかし、今年の開幕戦は1月の「ザ・セントリー」。これは8つの大会に与えられる「シグニチャーイベント(昇格大会)」の1つで、賞金もフェデックスポイントも通常の大会より多く設定されていました。
つまり選手たちは開幕直後からエンジン全開でスターすることが求められたのです。
タフなシーズンとなった2つ目の理由はパリ五輪の開催です。リオデジャネイロ五輪での競技復活から3大会目となり、「ツアー競技とは違った世界一をかける大会」として認知されてきたためか、多くのトッププロが参戦しました。こちらも移動距離が長く時差もありコースコンディションも異なる環境だったため、選手にとってはフィジカル、メンタルの両面で非常に大きな負担となったことでしょう。
終始群を抜いていたシェフラーの強さ
そんな異例のシーズンにおいて、群を抜いた成績を収めたのがスコッティ・シェフラーです。賞金、フェデックスポイントともにぶっちぎりの1位。パリ五輪でも優勝し、出場21試合で9勝と圧巻のシーズンでした。

PGAツアー9勝で賞金ランク、フェデックスポイントランク1位、パリ五輪では金メダル獲得と圧倒的だったスコッティ・シェフラー(写真は2024年のトラベラーズ選手権 撮影/Blue Sky Photos)
彼の武器は何といっても飛距離とコントロール性が両立したショット力です。トータルドライビングとパーオン率の順位を合算した「ボールストライキング」で1位、平均ストロークも唯一の68台を記録しており、ティーグラウンドからグリーンまでの戦闘力はダントツです。
近年のPGAツアーは飛距離偏重型とも言われるように、コースの総距離が7500ヤードを超える試合も少なくありません。そんなセッティングにおいて、65%以上のFWキープ率を誇りながら平均飛距離が300ヤード超を誇るシェフラーのドライバーショットは、現代のPGAツアーを制するのに非常の相性の良い能力だと言えます。
これくらい他を寄せ付けない成績が続けば、モチベーションの維持や自分を律するのが難しくなりそうですが、シェフラーにそのような死角は見当たりませんでした。同伴プレーヤーやメディアからの評判も非常によく、勝ち続けていても浮かれずに同じ努力を続けられる人間力も兼ね備えています。トップの選手がこのような姿勢は、後に続く若手の良い模範となり、ツアー全体のレベルアップにつながるでしょう。
シェフラーとは大きく差を開けられてしまったものの、賞金ランク2位、フェデックスポイントで6位につけ高い次元で安定感のあるプレーを見せてくれたのがザンダー・シャウフェレです。

賞金ランク2位はザンダー・シャウフェレ。全米プロゴルフ選手権で念願のメジャー初優勝を果たした(写真は2024年のZOZOチャンピオンシップ 撮影/岡沢裕行)
今シーズンのハイライトは、自身メジャー初優勝となった全米プロのウイニングパットでしょう。外せばブライソン・デシャンボーとプレーオフという場面で、見事に打ち切り初日から首位の座を守りきる完全優勝を果たしました。
その後も6月の全米オープンでは7位、7月の全英オープンで優勝とこれまでメジャーで勝てていなかったとは思えない強さを見せました。もともと爆発力があるというより、どんな状況でも平常心でプレーできるのが彼の強み。メジャーに関してもいつ勝ってもおかしくないというプレーは見せていました。
シェフラーのように身長は高くなく、飛ばし屋とは積んでいるエンジンの違いを感じてはしまいますが、練習から丁寧なルーティンを崩さずコースでもそれを再現できるメンタルの強さを持っています。プレースタイルは全く違いますが、来季もシェフラーの対抗馬となる活躍を期待したいと思います。
2勝を挙げ賞金ランク3位に入ったのは松山英樹。2021年にマスターズチャンピオンとなり、日本で開催されたZOZOチャンピオンシップでも優勝。ただ翌シーズン序盤のソニーオープンで優勝したのを最後に勝利からは遠ざかっていました。

賞金ランク3位は松山英樹。今シーズンは2勝を挙げた(写真は2024年のZOZOチャンピオンシップ 撮影/岡沢裕行)
怪我などもありコンディションが万全でない中のツアー参戦は、本人にとってもフラストレーションのたまるものだったと思います。成績を見るとピークアウトしてきたようにも見えますが、今年の試合での表情やインタビューを見ていると心に余裕が出てきたようにも見えます。
2シーズンぶりの優勝となったシグニチャーイベントのザ・ジェネシス招待では、最終日に大会コースレコードの「62」をマークし見事な逆転劇を見せてくれました。ショットが非常にキレており、中でもアイアンショットの精度は抜群でした。これ以降もシーズンを通してスウィングの精度も良く、不安なく振っているように見えました。今季のようにコンディションさえ整えば、来シーズンはキャリアハイを更新するような活躍も期待できるでしょう。
シーズン序盤に大きなニュースとなったのが、ニック・ダンラップによる33年ぶりのアマチュア優勝です。翌週にプロ転向を表明し、7月のバラクーダ選手で早くもツアー2勝目を挙げました。

アマ優勝した翌週にプロ転向したニック・ダンラップ。ツアー2勝目も達成しルーキー・オブ・ザ・イヤーに輝いた(写真は2024年のAT&Tペブルビーチプロアマ 撮影/Blue Sky Photos)
弱冠21歳のダンラップですが、全米ジュニア、全米アマで優勝しており実績は十分。まだ身体はヒョロっとしている印象ですが飛距離は出ますし、ショートゲームも上手く平均点の高いオールラウンダーという印象です。ガッツあるプレーで攻める強気のスタイルが特徴。ツアーの人気者になるポテンシャルは十分。注目してください。
今シーズンはPGAツアー以外でも、選手のレベルが非常に高くなっているという印象を受けました。来シーズンはダンラップのようなニューフェースが何人も出てくるかもしれません。