22年のメルセデス・ランク51位から23年は10位、24年には初優勝から3勝(国内メジャー1勝)を挙げ躍進が止まらないた桑木志帆。22年から見続けて来たみんなのゴルフダイジェスト特派記者で24年から桑木志帆のコーチとしてサポートするプロゴルファー・中村修がシーズンを振り返り前・中・後編でお届けします。

コーチとしてともに戦った桑木志帆の2024年シーズンを振り返る記事も、いよいよ最終回となりました。

「資生堂レディス」で初優勝を挙げた翌週、チームの目標は「予選通過」でした。もちろん竹田麗央、岩井明愛・千怜選手らと同じように2週連続優勝も狙いたかったのですが、体力も、集中力も、前週に使い果たしていました。結果、なんとか予選を通過し24位タイでフィニッシュ。

「大東建託・いい部屋ネットレディス」では猛暑の影響でスピードの遅いグリーンに苦労しました。せっかくイメージの良かったエースパターのイメージが悪くなってしまったんです。

この試合で2週連続優勝を果たし、28アンダーとツアー記録を樹立した優勝した川﨑春花選手は翌週から2試合予選落ち。エースパター1本でシーズンを戦う選手も存在しますが、グリーンの状態によってヘッド形状や重量、ロフト違いなど常にオプションを用意しておく必要性を感じた試合になりました。

翌週の「北海道meijiカップ」では2日目に65を叩き出し首位に1打差の2位タイで最終日を迎え、2勝目に期待がかかりましたが、最終日は75と崩れてしまいました。翌週の「NEC軽井沢72トーナメント」でも予選落ち。

中断のあった試合でしたが、中断中はテレビ解説を務められた森口祐子プロからツアーで活躍するプロゴルファーとしてのあるべき姿を伝えられていました。「まだまだ“おこちゃま”なのよ」と桑木の成長を見守ることを教えていただきました。出場選手を徹底取材する森口プロ。私自身も、多くの学びをいただいています。

それとコーチ仲間の南秀樹君にパッティングを相談すると「すぐに動画を送ってください」と言われ見てもらうと、少しダウンブローが強いと指摘され、最下点付近でインパクトするようアドバイスをもらっていました。

「CATレディス」の週には全英女子オープンの出場資格が当時世界ランク84位だった桑木にも下りてきました。実は、その前に現地のマンデー予選から出るという選択肢もあったのです。23年は現地から12名が通過していたので、十分にチャンスがあると思ったのですが、結局マンデー参戦は見送り。

全英女子の会場はセントアンドリュース・オールドコース。2018年にカーヌスティGLで開催した全英オープン取材の際に明け方から並んでプレーしていたので、どんな準備が必要か自分なりには考えていました。強風対策として弾道を低く抑える3UTや2UT、バウンスが邪魔にならないウェッジ、スピードの遅いグリーンに対応するパターなどのギアの準備。転がしのアプローチやそれを試合で使いこなすための練習に取り組む必要があるな、と。

しかし、出場資格が下りてくる可能性があることも頭にはありましたがマンデーに行かないという選択をしたこともあり、準備を怠っていたんです。そういった状況も踏まえて全英女子オープンには行かずに国内で結果を出すことをチームで選択。そして迎えたのが、「ニトリレディス」でした。

この試合はトラブルではじまりました。予定してたキャディが体調不良でキャンセルとなってしまったのです。

急遽何人かの札幌の知り合いに連絡すると、プロも出場する「札幌オープン」で優勝し、日本オープンに出場したこともあるトップアマの工藤大之進さんを紹介してもらえました。

画像: 24年の急場をしのいでコンビを組んだ工藤キャディと「ニトリレディス」で2勝目を飾った(写真/大澤進二)

24年の急場をしのいでコンビを組んだ工藤キャディと「ニトリレディス」で2勝目を飾った(写真/大澤進二)

開催コースの桂GCは週に3回はプレーしていて風向きもグリーンも熟知しているという強力な助っ人でしたが、練習日は仕事があってバッグを担げるのは初日からだとのこと。それでも構わないとお願いし、初日の前日に夕飯を共にすると「桑木さんが優勝する夢を見たので今週勝ちますよ!」と力強く“宣言”してくれました。

ギアも工夫しました。スピードの遅いグリーンが続いたことで、ヘッドが少し上から入るようになっていたこともあり、ピン社にエースパターと同じモデルでロフトを少し寝かせたものを用意してもらっていたんです。

ふたを開けてみると工藤キャディとの相性は抜群。ショットも好調で、初日は67で首位タイのスタート。2日目は2打差の2位タイと一歩後退しましたが、3日目に首位タイに戻ると、最終日は逃げ切って見事2勝目を挙げることができたのです。

この大会では工藤キャディとコンビを組めたことが最大のラッキーでした。そして、疲れてくると下半身が使えなくなり上体が突っ込むことを修正できたことも桑木らしいピンを指すショットが戻ることにつながったと思います。

全英女子オープンに行かない選択をしたからには、結果を残さなければならないという気持ちはあったものの、その通りの結果を残してくれた桑木。上位の選手が不在の試合でしっかりと勝ち切ったことは、残るシーズンに向けて大きな自信になりました。

翌週から3試合は上位には入れませんでしたが、難セッティングの「日本女子オープン」ではヘッド重量を少し重くしたプロトタイプのパターにスイッチし、8位タイ、翌週の「スタンレーレディスホンダ」でも初日の出遅れを2日目、3日目に取り返して7位タイ、富士通レディースは3位タイ、「マスターズGCレディース」は4位タイと自身初の4週連続のトップ10フィニッシュを記録。充実の秋を迎えていました。

そして最後の山場となったのが、伊藤園レディスからの残り3戦です。前週の「TOTOジャパンクラシック」が不発に終わったことで世界ランキングは78位と下がり、来年の全米女子オープン出場資格の75位以内から外れていました。

全米女子オープンの出場資格は開催週から9週前と開幕週時点での「75位以内」なので、25年シーズンは開幕から3戦目の「アクサレディス」終了時点で世界ランキング75位以内で終われば出場資格を得ることができます。そこにつなげるためにも、まずは残り3戦で75位以内に滑り込むことがとても重要でした。

さて、この試合から「TOTOジャパンクラシック」の途中から高校ゴルフ部の同級生だった中村優海さんが現場マネージャーとして帯同してくれるようになり、おじさんばかりだったチーム桑木に同世代の話し相手ができました。これはとても大きな変化でした。

残り3戦の大切さをチームで確認して臨んだ「伊藤園レディス」は9位、「エリエールレディス」では中村マネージャーがキャディを務めて7位タイ、そして最終戦の「JLPGAツアー選手権リコー杯」では前週から投入していたコーライグリーン用パターも功を奏し、初日から首位を譲らない完全優勝で国内メジャー初制覇で3勝目を飾ることができました。最終日は今季課題としていたアプローチとパットでスコアメイクし、メンタルも最後まで崩れることなく、1打差で後続を振り切っての優勝です。

画像: 初日から首位を譲らない完全優勝で3勝目を国内メジャーの「JLPGAツアー選手権リコー杯」で飾った(写真/岡沢裕行)

初日から首位を譲らない完全優勝で3勝目を国内メジャーの「JLPGAツアー選手権リコー杯」で飾った(写真/岡沢裕行)

この結果で世界ランキングは62位まで上がり、来年の全米女子オープンの出場資格はほぼ手中に。来年の開催コースであるエリンヒルズGCは2017年の全米オープン開催コースで、当時私は取材で1週間コースを歩き倒し、最終日翌日の月曜日にはメディアデーでプレーもした思い入れのあるコース。初出場となる海外メジャーでしっかりと結果を残せるようにオフからアップダウンのあるリンクスに対する準備もしなければならないと思っています。

画像: 年間3勝を挙げメルセデスポイントランクも6位とキャリアハイの成績を収めた2024シーズンとなった(写真/岡沢裕行)

年間3勝を挙げメルセデスポイントランクも6位とキャリアハイの成績を収めた2024シーズンとなった(写真/岡沢裕行)

最終的には世界ランク60位で2024年を終えることになりましたが、6月の4週目に開催される女子メジャー「KPMG全米女子プロゴルフ選手権」の出場資格は開催4週前の世界ランク60位。当然、出場を目指していきたいのですが、そのためには国内の開幕戦からの3カ月で世界ランクを落とさないような準備をオフの間にどれだけできるかが重要になって来ます。

その準備が実を結べば、全英女子オープンやエビアン選手権といった次の海外メジャーへの道も開けるはずです。そしてメジャーのドアをノックし続けていればいつかは……と夢はふくらみます。

これまでは山下美夢有、竹田麗央、岩井明愛・千怜姉妹といった自分よりも世界ランクが上の選手が間近にいましたが、2025年シーズンを彼女たちはみな米女子ツアーを主戦場に戦うため、桑木より上位の選手は小祝さくら選手のみ。

もちろん第二、第三の山下美夢有、竹田麗央が表れる可能性も大いにある中ですが、来季は勢いだけではなく、真のトップオブトップになれるかどうかがかかった勝負のシーズン。自分を見失わずに1試合1試合、1打1打に集中して積み重ねること。その1打をチームで支え、進めていけたらと思っています。

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