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こんにちは。SPORTSBOX AI 3Dスタッフコーチの北野達郎です。今回は年末年始のレジェンド特別編の第3弾として、ゴルフの「帝王」ジャック・ニクラスのドライバースウィングをスポーツボックスのデータと共に解説させて頂きます。ニクラスは未だ破られぬメジャー18勝という不滅の大記録を打ち立てたレジェンドです。そんなニクラスのスウィングは、以下の3点がポイントです。
①クラブが天空まで届く大きなテークバック
②左ひざのニーアクションで、トップの回転が深い
③当時のギアで高弾道を実現した逆C型フィニッシュ
それでは早速チェックしてみましょう!
ジャック・グラウトと作り上げた、「クラブが天空まで届く大きなテークバック」
まず最初のポイントは、「天空まで届く大きなテークバック」です。「左手首の角度」(LEAD WRIST ANGLE)に注目して下さい。バックスウィング(P3・左腕が地面と平行)の位置で、左手首の角度は138度です。スポーツボックスAIが独自で調査した、左手首の角度の海外男子ツアーレンジは、P3で111度~131度ですので、ニクラスはテークバックではコックが少ないレートコックのタイプであることがわかります。

画像①バックスウィング(BAH)/スウィングアークが大きいレートコックのバックスウィングだ。※BAHはバックスウィング・アーム・ホリゾンタル(左腕が地面と平行)の略
ニクラスのジュニア時代からのコーチはジャック・グラウト(1910〜1989)ですが、グラウトはニクラスに「若い時はとにかく体を使って、遠くにボールを打つことを覚えよう。真っすぐ打つことは後で学べば良い」と教えています。その教えの1つが「クラブが天空まで届くくらいにバックスウィングは大きく」というものでした。手首のコックが少ないレートコックは、クラブが描くスウィングアークを長く大きくする効果があります。ニクラスのバックスウィングは、それが忠実に現れていると言えますね。
左ひざのニーアクションで、トップを大きく深く
続いてトップをご覧下さい。2つめのニクラスの特徴は、「左ひざのニーアクション」です。写真左がニクラス、右はブライソン・デシャンボーです。左ひざの左右の移動を表す「LEAD KNEE SWAY」のデータ(マイナスは右、プラスは左)を見ると、ニクラスはトップでマイナス18cm(右)と、左ひざが右に大きく動いていることがわかります。

画像②ニクラス(左)とデシャンボー(右)の比較/左ひざを右に大きく動かすニクラスに対して、デシャンボーは左ひざの動きは少ない
両者ともその時代を代表するロングヒッターですが、ニクラスは左ひざを右に動かすニーアクションが大きいのに対して、デシャンボーは左ひざの動きが少ないことがわかります。ただ胸の回転(CHEST TURN)と骨盤の回転(PELVIS TURN)のデータを見ると、ニクラスのほうがデシャンボー以上に回転が深いことがわかります。※2022年のデシャンボーはもっと回転は深く、写真の今のほうが動きを抑えています
データから分かるのは、ニクラスの左ひざのニーアクションとヒールアップは、胸と骨盤のより深い回転を促すことです。デシャンボーは肉体改造とハードなトレーニングによって、左ひざの動きを抑えても充分な体の回転量がありますが、約半世紀前のニクラスが現代のロングヒッターと同等の体の回転量があったことは驚きです。左ひざのニーアクションとヒールアップは、大きなスウィングアークが特徴だったニクラスならではの動きです。
高弾道の球を打つ工夫だった逆C型フィニッシュ
最後にフィニッシュを見てみましょう。写真左がニクラス、右はタイガー・ウッズです。胸と骨盤の左右差を表す「SWAY GAP」は、フィニッシュでニクラスがマイナス15.6cm(胸が骨盤より右)で胸が右に残っているのに対して、タイガーはマイナス0.4cm(胸が骨盤より右)で、胸と骨盤が左足の上に揃っています。

画像③フィニッシュ/ニクラス(左)は逆C型フィニッシュ、タイガー(右)はI字型フィニッシュ
近年ではタイガーのように、左足の上に胸と骨盤が揃ったI字型フィニッシュの選手のほうが多くなりましたが、パーシモン&糸巻きボールの時代は、ニクラスのように逆C型フィニッシュが主流でした。当時のギアは今と違って低打ち出し&高スピンになりやすい特徴がありました。ニクラスのように逆C型のフィニッシュには、①「インパクトロフトを増やす」②「アタックアングル(縦の入射角)をアッパーにする」という効果がありました。インパクトロフトを増やすことで高い打ち出し角を確保して、アタックアングルをアッパーにすることでスピン量を減らす、当時のギアで高弾道を打つためのカギが逆C型フィニッシュだったのです。ただし、現代では「逆C型フィニッシュは腰への負担が大きく、ケガのリスクに繋がる」ことが浸透しているので、現代の選手では逆C型フィニッシュは少なくなりましたが、当時のギアで群を抜く高弾道を実現したニクラスが、高弾道を求められるマスターズで最多6回の優勝を実現できた秘訣の1つが「逆C型フィニッシュ」だったのかもしれません。
今回はジャック・ニクラスのスウィングを解説させて頂きました。レジェンド企画として、計3回にわたってパーマー、プレーヤー、ニクラスのBIG3の3人を分析させて頂きました。偉大なるレジェンドを最新のテクノロジーで分析するのは非常に興味深く、やりがいがありました。今年もプロ達のスウィングの秘訣を追求していきますので、引き続きAI分析シリーズをご覧頂けたら嬉しいです。