2023~2024年、PGAツアーでのタイトリスト ゴルフボールの使用率は何%であったかをご存じだろうか。実に70%(ダレル・サーベイ社調べ)である。圧倒的を超えて、独占的とも言えるこの信頼感はどこから生まれるのかー。その理由を生まれ故郷のフェアヘブンへと探しに出かけた。
 
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最高のパフォーマンスは、最高のプロセスからしか生まれない

理想の弾道を実現するゴルフボールの一貫性がどれほど大切で、どれほど難しい技術を必要とするものなのか? 今度はプロV1の性能進化の研究に没頭しているゴルフボールR&D部門のトップに話を聞いた。

優れたプロV1を作るのではない。優れたプロV1を数百万ダース作るのだ。

「我々タイトリストのゴルフボールR&DのエンジニアがプロV1開発の過程で、日々さらなる精密さに焦点を当ててきたことは確かです。これはすなわちブランド創設時の理念と理想の実現に忠実であり続けていることを示しています。すべてのゴルファーが求めている精密な弾道は総合的なボールデザインだけで生まれるわけではなく、そのプロセス(生産工程)によっても大きな影響を受けるものです」

「例えば、ボールの安定した飛行に大きく関わるディンプルデザインを考えてみても、プロV1・プロV1x は2011年モデルから2013年モデルに移行する際、より一貫性の高い弾道を生み出すディンプルパターンと、それを忠実に量産できる新しい生産機械に移行しています。これによってディンプルの深さに関するバラつき(個体差)を半減させることができたのです」(ゴルフボールR&D/マイケル・マドソン氏)

画像: ゴルフボールR&Dバイス プレジデントのマイケル・マドソン氏。「私は野球をやっていたのでヘッドを上から打ち込む癖があり、ハイスピンです。だからプロV1を選択してスピンを軽減。選択肢をうまく活用できていると思います」

ゴルフボールR&Dバイス プレジデントのマイケル・マドソン氏。「私は野球をやっていたのでヘッドを上から打ち込む癖があり、ハイスピンです。だからプロV1を選択してスピンを軽減。選択肢をうまく活用できていると思います」

トッププレーヤーが使うボールも一般のゴルフショップで売られているボールも、すべてが同じ、均一な品質であることが、製造面から見たプロV1の姿である。それは完全なる自社プラント(マサチューセッツ、タイ)で、プロパースタッフだけで生産するからこそ達成できることでもある。

画像: R&Dチームはゴルフボール専用のテストサイト「マンチェスターレーン」で日々様々なゴルフボールをテスト。プロV1の新モデルの開発では、100を超えるプロトタイプが存在する

R&Dチームはゴルフボール専用のテストサイト「マンチェスターレーン」で日々様々なゴルフボールをテスト。プロV1の新モデルの開発では、100を超えるプロトタイプが存在する

画像: 「マンチェスターレーン」は広大なヒッティングフィールドとショートゲーム専用のフィールドを備えた秘密基地のような場所。東海岸にある施設のため、冬場は西海岸のテストサイト「タイトリスト パフォーマンス インスティチュート」でボールのテストが繰り返される

「マンチェスターレーン」は広大なヒッティングフィールドとショートゲーム専用のフィールドを備えた秘密基地のような場所。東海岸にある施設のため、冬場は西海岸のテストサイト「タイトリスト パフォーマンス インスティチュート」でボールのテストが繰り返される

画像: 安定したボールの飛行にはディンプル設計が欠かせない。マドソン氏は空力デザインの専門家であり、プロV1・プロV1xの一貫した弾道パフォーマンスに大きな貢献を果たしている人物だ

安定したボールの飛行にはディンプル設計が欠かせない。マドソン氏は空力デザインの専門家であり、プロV1・プロV1xの一貫した弾道パフォーマンスに大きな貢献を果たしている人物だ

「塗装ひとつとってもディンプル内に塗料が溜まるだけで飛行には大きな違いが出てしまいます。塗料、溶剤、均一に吹き付けるペイントシステムまで、自社で研究・設計し生産に生かしていく。一貫性の高い生産プロセスが、トッププレーヤーに信頼されるプロV1だけの一貫したトータルパフォーマンスを生み出しているのです」(マドソン氏)

プロV1ファミリーを生産する“ボールプラント3”を訪問する度に、生産工程のあちこちでオートメーション化が進められていることに気付く。最新の製造機器がさらなる精密弾道を生み出している、と実感する光景だ。しかし、製造プロセスの終盤では熟練スタッフが一つ一つ目視で検品したり、最後には創業時と変わらずX線による偏芯チェックがすべてのボールに対して行われている。

画像: 3ピース構造のプロV1が出来上がるまでに、工場内で行われる検品項目数は90を超える。デュアルコアを採用した4ピースのプロV1xになると、検品項目も120以上に増えていく。積層(レイヤー)が増えるほど精密製造が難しくなり、さらに厳しいチェックが必要になるということだ

3ピース構造のプロV1が出来上がるまでに、工場内で行われる検品項目数は90を超える。デュアルコアを採用した4ピースのプロV1xになると、検品項目も120以上に増えていく。積層(レイヤー)が増えるほど精密製造が難しくなり、さらに厳しいチェックが必要になるということだ

これを見ると「1個作って終わりではないのです。我々の仕事は優れたゴルフボールを数百万ダース単位で均一に作ること」というビル・モーガン氏(プロV1の開発と進化に大きく関わった元R&D責任者)の言葉を思い出す。そして、その想いは確実に後輩エンジニアたちに引き継がれていると感じるのだ。

“何も犠牲にしない”
プロV1が起こした大革命

精密な弾道が生み出すタイトリストゴルフボールへの絶大な信頼感。しかし、それだけで使用率70%もの独占的なシェアを獲得できるものだろうかー。そこにはプロV1でなければ達成できなかったエポックメイキングがあった。

“飛んで、止まる”は当たり前ではない
プロV1でなければできなかったこと

プロV1はその誕生から25年を迎えるが、その始まりから今日まで、成功の物語をすべて共有してきた人物がメリールー・ボーン氏である。現在、タイトリストゴルフボールのプレジデントであるボーン氏に、プロV1が起こした革命とは何だったのかを聞いた。

「プロV1がそれまでのツアーバラタやプロフェッショナルなどの糸巻きボールの時代を終わらせた最も大きな理由は、飛距離性能と確かなスピンコントロール性能を両立したことでした。飛んで、止まるというのはゴルフボールでは当たり前に使われる宣伝文句ですが、プロV1が2000年に登場するまでは、そうではなかった。飛びを追求すればスピンは落ち、スピンを増やせば飛ばなくなるという、トレードオフの関係にある。それは、最新のゴルフボールでも普通に起きていることなのです」(ボーン氏)

画像: アクシネットカンパニー ゴルフボール プレジテントのメリールー・ボーン氏。「私はプロV1を愛用しています。グリーンでのスピンコントロールがイメージ通りで、打感もソフト。グリーン周りで自信を持つことが私にとって非常に大切です。こだわりはボールナンバーを9にしていること。母の誕生日なのです(笑)」

アクシネットカンパニー ゴルフボール プレジテントのメリールー・ボーン氏。「私はプロV1を愛用しています。グリーンでのスピンコントロールがイメージ通りで、打感もソフト。グリーン周りで自信を持つことが私にとって非常に大切です。こだわりはボールナンバーを9にしていること。母の誕生日なのです(笑)」

プロV1が初めてPGAツアーにシーディングされたのが2000年10月の『インベンシスクラシック』。そこでいきなり47名のプレーヤーがプロV1にスイッチするわけだが、実はその年の夏に1カ月かけてPGAツアーの練習ラウンドでウレタンカバー・ソリッドボールのテストを敢行し、高評価を受けていた。

「のべ100名超のトッププレーヤーにプロトタイプのプロV1をラウンドで使ってもらい、感想を直接聞きました。多くのプレーヤーがまずその飛距離に驚き、そしてショートゲームでの感触やスピンコントロール性能に再び驚きの声を上げました。“このボールはいつ試合で使えるようになるの?”と、数多く質問されたことも覚えています」(ボーン氏)

画像: 初代ProV1(2000年)。薄いウレタンエラストマーカバーでショートゲームではバラタを上回るスピン性能と耐久性を発揮。ソフトで反発性の高い大口径コアとアイオノマーのケース層の組み合わせでさらなる反発性能とロングゲームでのスピン抑制を実現した。392デュアル・ディンプルデザイン採用

初代ProV1(2000年)。薄いウレタンエラストマーカバーでショートゲームではバラタを上回るスピン性能と耐久性を発揮。ソフトで反発性の高い大口径コアとアイオノマーのケース層の組み合わせでさらなる反発性能とロングゲームでのスピン抑制を実現した。392デュアル・ディンプルデザイン採用

そもそもプロV1とは開発ネームで、“1番(最初に作った)”、“プロフェッショナル(向けの)”、“ベニア(積層構造の)”ゴルフボールという意味に過ぎなかった。しかしプロからの催促に応えるために、開発ネームのまま公認リストに登録。結局それが正式なモデル名となったというのが草創期のエピソードである。

「飛距離・スピン・打感そのすべてを犠牲にしない大きなポイントが、プロV1のケース層にありました。ウレタンカバーとコアの間にある透明で薄い層がゴルフボールに大革命をもたらしたのです」(ボーン氏)

ツアープロへのシーディングに先立ち、タイトリストは1999年にウレタンカバーソリッドボールのテスト販売を行なっている。その評価は「最初こそいいが、時間が経過すると飛ばなくなる」というものだった。原因はカバーからしみ込んだ水分が浸潤し、コアが正常に機能しなくなることにあった。そこで開発チームは水分をバリアする意味合いでアイオノマーのケース層を考案。これによって3ピースのプロV1の構造が出来上がった。

画像: 透明な樹脂ケースの中にボールのエンジンとも呼ばれるコアを内蔵。ケース層は元々外からの水分をシャットアウトし、コアの性能を安定して発揮させるために考案されたもの

透明な樹脂ケースの中にボールのエンジンとも呼ばれるコアを内蔵。ケース層は元々外からの水分をシャットアウトし、コアの性能を安定して発揮させるために考案されたもの

「ケース層の厚み、硬さ、素材を変えることでボール初速やスピン量をコントロールできることがわかった。それは青天の霹靂でした。でも、最初のプロトタイプを失敗とは考えていません。プロV1にたどり着くための大切な学びと捉えています」(ボーン氏)

確かに糸巻き構造のボールには、中間層とも呼ばれる樹脂の層は存在しない。一般的には目立たず、主張もしないアイオノマーのパーツがボール初速を飛躍的に高め、スピンをコントロールする重要な役目を果たすとは、当時のエンジニアすら想像していなかったという。

画像: 「ゴルフの常識をひっくり返した」とアメリカ最大手のタブロイド誌U.S.A.トゥデイが一面で報道したほど、2001年からのプロV1プレーヤーの活躍は目覚ましく、ゴルフ界に衝撃を与えた

「ゴルフの常識をひっくり返した」とアメリカ最大手のタブロイド誌U.S.A.トゥデイが一面で報道したほど、2001年からのプロV1プレーヤーの活躍は目覚ましく、ゴルフ界に衝撃を与えた

TEXT/Yoshiaki Takanashi(Position ZERO)
PHOTO/Hiroyuki Tanaka、Getty Images
SPECIAL THANKS/Acushnet Company

※月刊ゴルフダイジェスト2025年3月号より

※第3弾は2月21日(金)公開予定

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