史上最多にして最強と言われる、今季の米LPGAツアーに参戦する13人の日本女子選手たち。中でもシーズン開幕直後から、今季初挑戦組が気を吐いている。開幕戦では竹田麗央が2日目に3位タイに躍り出るも、結果は8位。2戦目は山下が初日の12位タイから追い上げて4位タイに。3戦目では岩井明愛が『62』を出して初日に首位に躍り出ると2日目はこれを堅持。3日目には優勝したエンジェル・インにトップを明け渡す。5打差の2位で迎えた最終日は、『61』のビッグスコアで首位のエンジェル・インを最終ホールのパッティングの瞬間まで追い詰めたが、1打及ばず2位に。
優勝したエンジェル・インは、「アキエは凄いプレーをしていた。凄かった」と口にした賛辞に恐怖心を滲ませた。この時の岩井明愛のプレーぶりをTV解説をしていたレックス倉本プロに、エンジェル・インが感じたという岩井明愛の『凄さ』と、双子の姉妹の千怜も含めた今後の米ツアーでの活躍の可能性、そして今週の日本女子ツアー開幕戦での期待感などを聞いた。

Honda LPGA THAILANDで2位と惜敗した岩井明愛が今週、JLPGA開幕戦に出場
――『ホンダ LPGAタイランド』を解説されていて、岩井明愛のプレーをどう見ましたか。
レックス: 今回はエンジェル・インのプレーが上回ったということですが、でも素晴らしいの一言です。非の打ちどころが無かったですね。あえて言えば3日目のパフォーマンスがちょっと残念でした。3日目は最終組でスタート前に、前の組のプレーヤーがロストボールで打ち直しに戻ってきて、ティーイングエリアで7分くらい待たされたんです。彼女は、そのティーショットをミスしてから一日調子が上がらなくて終わったという感じになってしまった。もちろんいろんな要素はあるのだけれど、そういうアンラッキーな部分もあったと思います。それを踏まえても最終日のラウンドは本当に凄かったです。1番ホールから集中力MAXで優勝を目指して戦って、『61』という凄いラウンドをした。あれだけ凄いパフォーマンスは久々に見ました。
――岩井明愛は攻撃的なゴルフが身上のスタイルですが、一方のエンジェル・インはステディなゴルフに一歩及ばなかったということですか。
レックス: いや、僕は岩井明愛選手が最終日、エンジェル・インを圧倒していたと思います。結果的にスタートでの5打差のリードがあったから、圧倒されながらもエンジェルは二枚腰で逃げ切ったという形になりましたけど。
――それは試合直後のコメントで『アキエのプレーは凄かった』と漏らしたエンジェル・インの言葉からもよくわかりますね。特に良かったのは、ショット、パット、アプローチ、何でしょうか。
レックス: いやもう全てです。全てが揃っていますよね。ボールストライキングも良いし、ショートゲームもパッティングも全部良いですし、それになによりハートが強いですよね。彼女は日本ツアーで6勝を短い期間で挙げて(プロ入り2021年6月、同年9月にステップ・アップ・ツアーで優勝。22年からは3シーズンでレギュラーツアー6勝)。それも彼女が妹の千怜さんと“岩井ツインズ”としてスター選手になってからは、常に優勝することを期待された中で、戦って優勝を築き上げてきているわけだから、要するに『勝つゴルフ』が出来るんですよね。2年で6勝している選手って、アメリカツアーでもそんなにいるわけじゃないんですよ。勝つというゴルフに慣れているというか、勝つ準備が出来ているからこその先週のパフォーマンスもあったと思います。そういう意味でも、今後、ツアーで優勝をすると思うけど、1年に複数回勝てる可能性はあると思います。

「岩井明愛はすでにLPGAで勝てるすべてが揃っている」とレックス
――『勝つ準備』ということでいうと、海外のツアーに参戦する日本人戦手は、芝の違いに苦戦すると言いますが、彼女はどうでしたか。
レックス: タイはバミューダ系の芝でねちっこい芝でしたが、そのタイプの芝はアメリカの南部でもけっこうある。明愛さんの今回のゴルフが実証したように、その手の芝に対しての苦手意識はまったく無いですよね。今後、アメリカの本土に戻って北の中西部に行くとベント芝のフェアウェイとライグラスのラフのコースが多くなりますから、その時の対応ですよね。でも、彼女なら、すぐに慣れると思いますよ。
――最終日の17番では、2打目を右奥に外し、そこからパターで寄せに行き、寄らずにボギーになりました。結果的にこの1打が勝敗を分けましたが、あそこは芝やアプローチの苦手意識があったのでは。
レックス: アレは、何を使っても寄せられなかった状況ですから。パターが一番可能性があったんじゃないですか。あの場面は、1打ビハインドで先にエンジェル・インがグリーンを捉えましたからね。王手取られたわけだから、だから行かないといとしょうがないので2打目をギリギリ手前に狙ってきたのが右奥に外してしまい、結果的にそこが行ってはいけない所だったということ。そこは、終始圧倒されながらも、1打勝っている人がやるべきゴルフをエンジェル・インにやられたということだと思います。

17番の3打目はパターを選択。「ここは何を使っても寄らない」とレックス
――今週開幕のダイキンオーキッドに岩井姉妹が出場しますが、どうでしょうか。
レックス: もう技術的には間違いないなく優勝争いに絡むだけの実力はあります。ただ、スケジュールが、サウジ、タイ、シンガポール、沖縄と移動が続きますから。明愛さんはそれでタイは優勝争いですから体力的には大変だと思いますけどね。心配材料は、そこだけじゃないですか。
――ちなみに、妹の千怜は去年のこの大会で優勝していますし、タイの前の欧州女子ツアーの『PIF サウジレディース・インターナショナル』は「68」「69」「69」と3日間60台で4位タイでした。連覇の期待はもてますかね。
レックス: 結果的にはタイではボギーがけっこう出たんですけど、でもゴルフもしっかりしているし、今回も活躍できると思いますね。なんといっても双子が一緒に参戦して戦っているというのは、無茶苦茶、強いですよ。一方が良い成績を出したら、自分も出来るという“確信”に繋がりますから。いい雰囲気を共有しながら戦うんだろうから、それが良い方向にはたらきますよね。

双子の妹・千怜はディフェンディングチャンピオンとして「ダイキンオーキッドレディス」に挑む(撮影/岡沢裕行)
――その意味では、サウジで千怜、タイで明愛と好成績が出ているので、今週は千怜ということもありそうですね。
レックス: あるかもしれないですね。
――アメリカでは既に“岩井ツインズ”ってことで話題になっているということですが。
レックス: なっていますよね。だって話題が欲しいんですから、LPGAも。その意味で二人は、これ以上ない選手だから、今後もプロモーションしてくるでしょうね。
――二人とも、ショットは通用しますか。
レックス: ショットというか、二人とも技術的には全部、通用するものを持っている。通用というか、十二分に戦えるものを持っていると思います。
――あえて、今後の課題のようなことはありますか。
レックス: 今後は、ルーキーとして初めてラウンドするコースがほとんどでしょうから、そういう意味での大変さが毎週あると思うんですよね。そして日本と違って4日間の試合がほとんどだから、試合が終わったら長い移動が一日あって、月曜日に次の試合開催地に着いて、火曜日は練習、水曜日にプロアマがあれば9ホール出てという連戦が続くわけです。そういうスケジューリングの問題ですよね。2年目になってコースを把握して自分でスケジュールも組んでこれるようになったら戦い方も変わってくるけど、1年目はツアールーキーの受ける洗礼のようなものですから、これを経験していく中で、自分たちのペースを作っていくということでしょうね。
――今季、岩井ツインズの初優勝の期待は持てますかね。
レックス: 僕はそう見ています。二人とも、どこかで勝てるんじゃないか、そして複数回優勝もあると見ていますよ。

LPGAですでに話題になっているという岩井ツインズ。今後の活躍に注目だ!
今後の米女子ツアーでの“岩井ツインズ”の活躍が楽しみだが、その前に、今週の国内の女子開幕戦『ダイキンオーキッド』での二人のプレーが楽しみだ。
撮影/姉崎正