
「もうこれくらいです」で30センチの距離を指で示す蛭田みな美
蛭田みな美はホールアウト目前だった。
18番グリーン上、マークをしてボールを置いたらちょんと打つだけという場面で、雷雲接近によるホーン音がコースに鳴り響いた。
「もうこれくらいです」
写真では広角撮影のため、蛭田が指で示した長さは40センチ以上に見えるかもしれないが、30センチもなかったパーパット。
「私は『お先ぐせ』がなくてちょっと慎重にするタイプなんです」
お先とはゴルフで、同伴競技者に「お先です」と伝えて先にパットを打つことをいう。蛭田はふだんタップインできる短いパットも先に打つことがないのだ。
マークをしないですぐ打ってしまえば、ブザーが鳴る前にカップインできたため、「反省しています。勉強になりました」と「お先に」をしなかったことを少し後悔した様子。
「ラインを読む距離じゃなくて打てばいいだけだったんですけど、打つ前に(ホーンの)音がなってしまったんです」
ゴルフの競技規則には「険悪な気象状況で委員会がプレー中断を決定した場合、同じ組の競技者全員がホールとホールの間にいる場合は、委員会の指示が出るまでプレーを再開できない」とある。
もしホーン音が鳴ったあとに、たとえ30センチだろうと1センチだろうとプレーしてはならない、ゴルフにはそういうルールがあり、音が鳴ったあとにプレーしたら失格となってしまうのだ。
「18番ティー(グラウンド)で雷の音は聞こえてたけど、大丈夫なんだろうと、最後までプレーできると思っていました」
雷や中断の経験は何度もあるが、残りあと1打でホールアウトという状況は蛭田にとって初めての経験となった。
初日は、午後から雨予報で中断の可能性も予測されていた。前日の10日には奈良で学校のグラウンドに雷が落ちて、中高生の男女6人が搬送されるというニュースがあったばかり。雷のゴルフは危険なため、プレーを止めることは仕方ないが、あと数秒でホールアウトできたタイミングだった。
翌日12日は初日ホールアウトできなかった選手が午前7時に一斉スタートとなる。
初日は17ホールで6バーディ1ボギー。短いパーパットを決めれば5アンダーでホールアウトできた蛭田は、トップと2打差の暫定3位タイにつけている。
「調子はまずまずなので明日も頑張りたいです」
17時間待ちの30センチのパットをしっかり沈めて、2ラウンド目に臨む。