1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材し、現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員として活動する吉川丈雄がラウンド中に話題になる「ゴルフの知識」を綴るコラム。第12回目は、シェブロン選手権で西郷真央が飛び込んだ「コース内の池の水」について。
画像: シェブロン選手権優勝者恒例の池にダイブする西郷真央。当たり前だが、優勝者がダイブするために池があるわけではない(PHOTO/Getty Images)

シェブロン選手権優勝者恒例の池にダイブする西郷真央。当たり前だが、優勝者がダイブするために池があるわけではない(PHOTO/Getty Images)

戦略性を高める方法として距離を長くする、マウンドを多用してライに変化を付ける、コース内にクリークや池を造る、バンカーを深く大きくして数も増やすなどなどその方法はさまざまだ。それぞれのデザインにより景観は異なり、ゴルファーが受ける印象も難易度も変化する。

景観と難易度が高まる手法のひとつとして池が考えられる。単に池といっても、浜松シーサイドGCの池越えで攻める3番(437Y・P4)や7番(382Y・P4)の鮫島池、ゴールデンバレーGC最終18番(559Y・P5)右の大きな農業用水池、小野GCの広大な鴨池など、コース造成前からその場にあった池もある。多くのホールが池に絡み赤松林と芝とのコラボレーションが美しい西那須野CCや池に逆さ富士が映り込む鳴沢GCの8番(174Y・P3)など造られた池も印象的で、戦略性だけではなく景観を高めている要素のひとつとして成立している。

コースに池があれば景観は高まるが、コースの立地により池を造ることができないこともある。ではコース設計の時点で池を造るときどのような条件や項目が必要になるのだろうか。

基本的な事柄として池を造るのに必要なのは水があること。池の水が確保できない建設地には池を造ることは不可能といえる。土を掘り水を入れても蒸発、浸透するため失う以上に流入する水量が必要になるからだ。雨が降ると山間部では低い山の谷(沢)などに雨水が集まり流れる。この水が池や沼に流れ込み、やがて川に注いでいく。この他、工事をすると水道(みずみち)から水が流れ出てくる。この水の処理も大切になり、池などに注ぐようにする必要が生じる。

画像: 浜松シーサイドGCの7番(382Y・P4)。目の前に見えるのが鮫島池だ

浜松シーサイドGCの7番(382Y・P4)。目の前に見えるのが鮫島池だ

池における蒸発量の計算はかなり専門的で複雑なため、ここでは簡単な説明にするが、季節によりその日の気温や湿度、風力、池の表面積など複雑な要素が計算式に絡んでくる。

真夏では、水の蒸発によって池はおおよそ2.5センチも水位が下がるという話を聞いたことがある。近年のように猛暑日が続けば減り続け、4日間で10センチも水位は低下しまう。それをまかなう水量の流入が必要になるわけだ。

蒸発量を知るのは(循環水の入り口と出口の温度差×循環水量×水の定圧比熱)÷(水の蒸発潜熱)=蒸発量という計算方法があり、この他にもいくつか計算式があるようだがいずれも複雑といえる。コースの池はほとんどが塩化ビニールシートなどで覆われていることから地下浸透量は計算されることはない。

自宅などの小規模な池の計算法としては、池の淵などに目盛りを付け1日に何センチ減ったかを調べ、池の表面積で計算すれば1日の蒸発量がおおよそ把握できる。その分をバケツなどで補給すればよいことになる。

当然だが、造る予定の池に蒸発量を超える水の流入量がなければ池は自然に涸れてしまう。実際に、かつては景観にアクセントを与える池だったのに水の流入量が激減し涸れてしまった池をいくつか知っている。水のない池は落ち葉などのゴミや砂がたまり景観を悪化させてしまうが、流入する水がなければどうにもならなく、水を入れただけでは蒸発してしまう。

必要以上の水の流入があれば下方に流すことになりそのための水路、もしくは低い場所にあるホールにクリークや池を造り流れ出るようにする必要がある。水の量は季節、地域、地形などに加え降雨量も大きく異なり、近年のように線条降雨帯による異常ともいえる雨量も考慮することになる。また、コースには下流地域への影響、災害も考え調整池の建造も義務づけられる。

景観と戦略性を高めるため池を造る発想よいが、自然が相手なだけに実は大仕事なのだ。 

文・写真/吉川丈雄(特別編集委員)
1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材。チョイス誌編集長も務めたコースやゴルフの歴史のスペシャリスト。現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員としても活動中

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