
プロ10年目で悲願の初優勝を遂げた阿久津未来也とドラコンプロの山崎泰宏(撮影/姉崎正)
阿久津と山崎は2022年12月に、共通の知人のとりなしでタッグを組むことになった。最初に、2024年に勝つことを目指してやろうという長期スパンの計画を二人で立てた。23年に最終戦のJTカップに出場。24年は優勝争いを2回ほど経験。目標の優勝こそ出来なかったが右肩上がりの結果が出せているゴルフに手応えを感じていた。
「山崎さんはドラコンの方なので、飛距離を求めて頼んだのかと聞かれるけど、決してそうではなくて。山崎さんからは、優勝するため、そして1年間戦えるためのスウィングを作ろうと言われ、それが自分が思っていたことと180度違うようなアドバイスもあって。もちろん最初は大変でしたけど、それを折れずに信じてやってきたのが優勝に繋がったのかなと思います」(阿久津)
この2年半の間に山崎と取り組んできたことは、阿久津が言うように飛距離アップより、ショットの安定性を向上させることに重きを置くものだった。
「最初、とにかく曲がらないようにすることから始めました。クラブの入りが安定しない動きをしていたので、そこをフェース面を変えない動きにしていこうと。最初はウェッジなどでやっていきましたけど、ドライバーになるとちょっと右に抜けちゃうとか、つかまり過ぎるとか、週によって違う方向に飛ぶなど、苦労はしていましたね」(山崎)
クラブの動きの修正やスウィングをいじることは、基本的にシーズン中にはやらず、オフに集中的に行った。
「オフの宮崎の合宿で、ミドルアイアンとかでクラブの動かし方やスウィング作りをしてフェースローテーションをとにかく抑えたんです。その結果フェースコントロールが良くなって、右に行ったり、左に行ったりというのが収まって。ショットはフェアウェイキープとグリーンキャッチができるようになったから、後はパットが入ればイケるという手応えを感じ、いつ勝ってもおかしくない状態に仕上がってきてはいると思っていました」(山崎)

悲願の初優勝をミズノオープンで成し遂げ、7月の全英オープン出場を決めた阿久津(撮影/岡沢裕行)
今年の3月にツアー外の試合で優勝して期待を持ってシーズンインしたが、いざツアーが始まると開幕後5試合目までに予選落ちが2回という芳しくない成績だった。そこで山崎は、好調だった3月の時の感覚に戻すために、当時やっていたスリークォーターのスウィング練習を指示。そしてミズノオープンを迎えた。
今回の優勝のポイントは、ひとつは風。スピン量が多くない阿久津は風の中のショットを苦にしていなかった。
「ラウンドしながら、良い球を打つ必要はない、それなりの球でいいからって思ったら気持ちが凄い楽になって。最終日は『風、吹いてくれ』と思ったら、朝から4〜5mの風が吹いてくれたので。それである意味、緊張で震えたりということがなく18ホールを終えることができました」(阿久津)
もう一つは、山崎が「パットが入ればイケる」と言った通り、パッティングだ。
「パターを変えたり、打ち方を変えたりしてました。今年だけじゃなく、去年とかもモヤモヤはずっとあって。それが一気に、『確率は収束する(試行回数を重ねるほど望む結果を引き当てることができる)』じゃないですけど、あの4日間、特に最終日のハーフに凝縮された感じはありました。終わってから映像を見ましたけど、変な動きはなく、ちゃんと手が動いてるじゃんって」(阿久津)
終盤、10年目の初優勝が近づくに連れ、阿久津の心模様はこう変化していったという。

最終日17番でバーディを奪って、小さくガッツポーズをとる阿久津(撮影/岡沢裕行)
バックナインでは『心が折れた人はボギーは止まらない』という感じの中でプレーを続け、17番ではバーディが獲れるピンと風ではないなかでのバーディに『お疲れさんおめでとうの合図』。これで2位とは4打差をつけて迎えた18番で、『超長かった』、『正直、ホッとした』という気持ちとで、10年間の未勝利に幕を閉じた。
7月の全英オープンの出場権を得た阿久津に、山崎はこんな注文をつける。
「優勝のご褒美で出られるんだから、小さくまとまるんじゃなく、ドカンと攻めて、今の自分のゴルフがどのくらい、あのフィールドでやれるのか世界と戦って欲しい。その結果が自分の宝になるわけだから」
阿久津の全英への意気込みは。
「選手で行く以上はどんなに凄い選手がいても、“ギャラリー”になっちゃいけないと思う。練習の時くらいはギャラリーしてもいいけど、試合になったら選手として、しっかりとメリハリをつけて臨みたいと思います」
海外への挑戦に意欲的な阿久津にとって、国内メジャーの今週は勝てば5年シード獲得の狙っていきたい試合だ。その「BMW 日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ」は2日目を終えて1オーバーで、首位の米澤蓮に7打差の21位タイ。2週連続Vを目指し、決勝ラウンドに挑む。