
「ラインの読み方にも抜群のセンスを感じます。『エイムポイントで傾斜を感じ取る選手権』をやったら必ず上位に入ると思います(笑)」と佐藤プロ(PHOTO/Hiroyuki Okazawa)
5月の日本プロ選手権で、念願のツアー初優勝を飾った清水大成選手。彼のゴルフを初めてじっくり見たのは、確か2年ほど前の夏でした。ご存じの方もいるかもしれませんが、ボクが解説でお世話になっているゴルフネットワークに『GOLF BRAIN ナナハチ78』という番組があります。
このユニークなところは、そのルールが「ワーストボール形式」。つまりボールを2球打って、2打目、3打目……も悪いほうのボールを選んで9ホールを戦います。悪いボールを選ぶのがボクの仕事で、選手として登場したのが清水くんという形で共演しました。
ちなみに番組名は、ワーストボールでプレーした場合のPGAツアーの選手のスコア平均が78以上になることに由来しています。それほど難しいのですが、このルールで9ホールをプレーし、アンダーパーで回って賞金100万円をゲットしたのが、後にも先にも唯一清水くんだけなのです。
この番組を通じて感じた印象は、ボールは飛ぶし、グリーン周りもパットも上手いし「クオリティの高い選手だな」というもの。一方で「こんな上手い選手がなぜいまだ優勝争いに顔を出さないんだろう?」とも思いました。
実際、プロフィールをのぞいてみても17年、日大1年のときに日本学生を獲得。1年生での優勝は21年ぶりの快挙でした。プロ転向は20年。いきなりQT5位に入ると、ルーキーながら順調にシード入りも果たします。しかし、初優勝にはなかなか手が届きませんでした。
同年代はもとより、下の世代が次々と優勝する流れもあって、周囲の期待もあれば、焦りに襲われたこともあったことは想像に難くありません。初優勝へのハードルを自分自身で上げてしまったのか。ここ数年、シーズン前にはメディアを中心に、“今年初優勝する可能性のある選手”の筆頭に清水くんの名前を挙げていたものです。
いつ勝ってもおかしくない選手。それがメディアや解説者のみならず、プロ仲間でも一致した意見だったのではないでしょうか。実はこれが、11年間キャリアグランドスラムに挑み、翻弄され続けたローリー・マキロイの姿と重なってしまうのです。
実際、その日本プロでの戦いぶりも今年のマスターズでのマキロイのよう。最終日のバック9でミスをしてしまい失速してしまうあたりです。単独首位で最終日を迎え、一時は4打差をつけたものの最終18番のパーパットを外してプレーオフにまで持ち込まれたマキロイ。
一方、清水くんも、16番でセカンドショットをOBとしダボ、17番はボギーで、ここで逆転され、18番のバーディでなんとか追い付きプレーオフに。プレーオフも苦しみながら4ホール目でなんとか勝つあたり……。自作自演でドラマを作ると言ったら言い過ぎかもしれませんが、どこかマキロイを彷彿させるのです。
ちなみに昨年のカシオオープンでは、3日目の7番パー5で10を叩き、にもかかわらず終わってみれば1打差の2位。10を叩いて優勝争いを演じるのがすごいのか、大叩きしなければ簡単に優勝できていたのか……。
それでも、皆が「すべて上手い選手だ」「そろそろ勝つだろう」と思っていましたし、それだけでなく見た目は爽やかで“愛されキャラ”でもあります。優勝した翌週のミズノオープンの火曜日の昼頃、清水くんがレストランに入ってきました。するとどこからか拍手が起こり、やがてレストラン中が拍手に包まれました。ボクも拍手を送った一人ですが、そこには「やっと勝ったね。よくやったね、良かったね」という思いが込められていたように思います。
技術的にはすべてが満点に近く、テンフィンガーで振るドライバーは飛ぶし、アイアンショットはキレるし、ショートゲームも上手い。特に、状況によってドローとフェードを打ち分ける技術、またエイムポイントによる傾斜を読み取る能力は、プロの中でも一、二を争う繊細さの持ち主。
昨年のスタッツを見ても、平均パット1.6884は歴代1位。それを支える技術は“インパクトでの当てる強さ”です。
ちなみにパット名人に、弱いインパクトの人はいません。唯一の弱点だったのは勝負への泥臭さといったメンタル面。しかし、これも裏付けされた非凡な技術によって、また今回の優勝によって磨かれ、強くなっていくに違いありません。
この優勝をきっかけに一皮むけて、高かった自分へのハードルも下げることができ、いよいよ大器の才能が花開く予感がします。今後、日本ツアーをけん引する選手になるでしょうし、海外への挑戦も積極的で、より現実味を帯びてくるはずです。
◆参考ポイント=パット上手にフォローなし! インパクトで止めるくらいのイメージで打つ

インパクトで止めるくらいのイメージで打つといい?(PHOTO/Hiroyuki Okazawa)
強いインパクトにするためには、短いストローク、それもフォローの短いストロークが必要。もちろん距離によってバックスウィングの大きさは変わりますが、極論を言えばフォローを出さない打ち方ができるかどうか。現役時代、ボクも井上(透)コーチとともに、2~3mの壁に向かって“もっとも短い振り幅で壁に届かせる”といった練習をしていたんですよ。
※週刊ゴルフダイジェスト2025年6月24日号「さとうの目」より