
ホールアウト後に涙する高橋彩華と笑顔の菅沼菜々。対照的だった
先週の『宮里藍 サントリーレディス』で、3年ぶりの優勝を果たし、涙を流した高橋彩華。アンバサダーの宮里藍さんは優勝後に、「長く勝てない時期がありプレッシャーもあった中でそれを跳ねのけての優勝は見事」と高橋を称えた。宮里さん自身、米ツアーに参戦した年の2006年に日本の試合で2勝したのを最後に、2年間優勝から遠ざかり、2009年7月に『エビアン・マスターズ』で米女子ツアーでの涙の初優勝という経験をしているだけに、3年ぶりの優勝の苦しさも嬉しさも知っているからのコメントだったろう。
一方で、今年ここまでに日本女子ツアーで2年ぶりの優勝を果たしたのは、吉田優利、穴井詩、菅沼菜々、申ジエ、神谷そら、の5人は笑顔の復活優勝。たった1年で、一方は笑顔、もう一方は涙、この違いは何だろう。

宮里藍 サントリーレディスで3年ぶりの優勝。笑顔で写真に応じる(撮影/有原裕晶)
まず、高橋彩華に『3年ぶり』の優勝までの心境について聞いてみた。
「優勝できなかった2年半ですか……。いつ勝てるんだろうっていう不安はずっとありましたね。もう勝てないんじゃないか、何をしたら勝てるんだろうって、分からなくなりました。でも、その2年半は、ただただもうやっていることを信じて練習をやったというかんじです。自分としては、常にベストを尽くしているとは思っていたので」

パナソニックオープンレディースで2年ぶりに優勝した菅沼菜々(撮影/大澤進二)
次に、菅沼菜々に『2年ぶり』の優勝までの心境についてきいてみよう。
「1年7カ月ぶりだったんですけど、でも長い感じはしました。今年は(昨年の)QT102位から試合に出られる権利も失って、試合の出場権がなかったから、長いと感じたのかもしれないです。去年はずっと調子が悪くて、もうほんとどうすることもできなかったので。でもオフにけっこう練習とトレーニングはやりました。今年は、QTがダメだったからリランキングまでにポイント順位を上げたかったので、(結果に集中できて)そういう意味では本当に良かったなと思います」

Sky RKBレディスクラシックで2年ぶりに優勝した神谷そら(撮影/岡沢裕行)
神谷そらは、1年8カ月ぶりの優勝だったが、「いやぁ、その期間、特に、常に必死でやっていたので」と、彼女の場合、最後に勝ったのがメジャーの『日本女子プロゴルフ選手権』で、3年間のシード権を得たので、気持ちの持ちようは違ったのかもしれない。
3人のコメントからも分かるように、『3年ぶり』と『2年ぶり』の心境の違いは、「もう自分は勝たないんじゃないか」という不安が生じるかどうかのようだ。もちろん年数の長さが最大の要因なのだが、その間に生じるある感情がキーワードになるようだ。永久シード保持者の森口祐子に聞いてみた。
「自分への期待感なのか、周囲からの期待感なのか、成績が良かった人ほど、それが重石みたいにのし掛かることがありますよね。優勝できなくなって、それが1年ダメでも、もう一回頑張ろうって思えるけど、2年、3年経つと、次第に自分への期待感は薄れ、周囲の期待感は重くなる。そうなると『もう勝てないのかも』という不安から、今度は体の改造とかクラブのフィッティングの変更、さらにはスウィングや考え方を変えるということまでやらないといけないと思うようになるわけです」
年月を経るごとに、『期待感』の軽重が『もう勝てないかも』という不安を誘うようになる。その不安から解放された瞬間に涙が出る。1年間のブランクでは涙が出ないけど、2年、3年になると溢れ出てくる理由はそういうところにもあるのだろう。

JLPGAでは2年ぶりの優勝を国内メジャー初戦の「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」で決めた申ジエ(撮影/姉崎正)
最後に、2023年の『アース・モンダミンカップ』で優勝し、2024年は日本では未勝利、そして今年は『ワールドレディス』で優勝した、申ジエに話を聞いた。去年はオーストラリア女子オープンで優勝しているので、彼女自身は厳密には隔年優勝者ではないのだが、優勝からのブランクに関して、傾聴に値することを話してくれた。申ジエは、プロのキャリアで優勝できなかったのは2011年の一回だけ。後は世界のどこかのツアーで毎年優勝をし続けている。本当の実力者だ。それにしても、なぜ長年にわたり毎年優勝し続けることができるのか。
「私は優勝を“癖”みたいなものもあると思っています。優勝の瞬間に訪れるプレッシャーを越えて優勝できたら、そのプレッシャーは癖(慣れ)になると思うので。大事な瞬間に自分の実力が出せるか出せないかとういうのは、そういう部分だと思います」
申ジエのように毎年勝利数を重ねると“癖”はドンドンと付いてくる。毎年勝てなくても、その癖が消えないようにブランクはできるだけ短いほうが良いということで、できれば2年ぶりの『隔年優勝』が理想なのだが。
「3年ぶりどころか、10年ぶりに優勝をする人もいるじゃないですか。でも久しぶりの優勝は、周りに凄く勇気とか喜びを与えられる優勝だと思うので、そうやって、自分へのプレッシャーがかかるのではなく、ポジティブにできるようにすればいい。気持ちの持ち方だと思います」
優勝できない年月が長いほどプレッシャーは掛からなくなり、逆に優勝した時の周囲の喜びは大きくなると、気持ちをポジティブにもっていこうということだ。
2023年の優勝者で、去年は優勝をしていない選手は前述の5人以外にまだ11人いる。前回の勝った時の“癖”が残るうちに、今季優勝してさらに癖をつけることができる選手は何人出てくるか、要注目だ。
文/古屋雅章