24年のプロテスト合格者一番乗りの初優勝を飾った入谷響選手。開幕戦の「ダイキンオーキッドレディス」からその飛距離やスケールの大きなゴルフには注目していました。ベテランの清水重憲キャディとコンビを組み多くの学びを得ながら一戦一戦着実に成長して来ていました。

24年プロテスト合格組から一番乗りで初優勝を飾った入谷響
今大会でコンビを組んだのは前週に岡山絵理選手とコンビを組み2位で終えた木村翔キャディ。ご存じの人もいるとは思いますが、ツアー10勝、生涯出場試合714試合というレジェンド木村敏美プロのご子息であります。ツアー会場でひときわガタイの良いキャディさんがいたらそれが木村翔君です。
入谷選手の強みを聞くと「もちろん飛距離だと思いますが、アイアンの弾道の高さとスピン量がハンパじゃないです、アイアンの距離感も良いのでフェアウェイからならどんなグリーンでも止められると思います」とショット力に太鼓判を押します。
前半の悪かった流れを引きずった10番パー5のティーショットは右の林。そこから出して220ヤードの3打目を林すれすれからドローでピンに絡め、バーディを奪った起死回生のショットについては「あんな奇跡ないですよね。右からの風で上手く狙えそうな感じでしたが、あんなにベタピンに付くとは思っていませんでした。でもショットが乱れているときは、大きく曲げるインテンショナルショットの方が上手くいくことが多い気がします」と振り返って解説してくれました。

コンビを組んだ木村翔キャディ(左)もショット力の高さに太鼓判を押す
気温32度、風速16m/sの強風のコンディションの中でフォローの風の吹いた15番、18番では300ヤード近い飛距離を見せバーディにつなげ、2週連続優勝のかかった高橋彩華らから逃げ切り初優勝を手繰り寄せました。ではそのスウィングを見てみましょう。
オーソドックスなスクエアグリップで握りドローヒッターらしくボールの位置は左足延長線上よりも内側に置きます。テークバックの始動では、右に重心移動し右の太ももと股関節でしっかりと受け止めています。顔の向きを無理に残さずに胸を右に回すと同時に顔の向きも右へと動きます。

オーソドックスなスクエアグリップで握り、始動で右へ重心移動し右太ももと股関節でしっかりと受け止める
切り返しで入谷選手の飛ばしの秘訣が見えてきます。切り返しではターゲットとは反対方向にヘッドは動き出しますが、その際に“トップの位置にある刀の鞘を抜くように”手元が動く、つまり手元を顔から遠ざけるようにターゲットと反対方向に手元が動くと、ダウンスウィングの円の半径が大きくなり加速する距離が確保されます。

手元を顔から遠ざけるように切り返すことでダウンスウィングの半径が大きくなりヘッドを効率良く加速させる
切り返しで手元が顔から遠ざかるような動作は、最速降下の条件であるサイクロイド曲線に近い曲線を描き、クラブヘッドは効率よく加速していきます。サイクロイド曲線を簡単に説明すると「斜めの直線の滑り台よりも、滑り始めは急降下するような曲線を描いた滑り台のほうがゴールに速く到着する」というもので、この最速降下の条件に近づけることでヘッドスピードは上がります。
つまりトップから直線的にボールを打ちにいくのではなく、遠回りするような感覚のほうが入射角も安定しますし、速度も上がります。松山英樹選手の切り返し以降、体の右側の半径が大きいスウィングとも共通しています。

ダウンスウィングの半径が大きいことで浅く安定した入射角を実現し、アイアンショットの弾道の高さにもつながっている
前週の「サントリーレディス」で入谷選手のドライバーのシャフトテストを見学しましたが、ヘッドスピードは45m/sを超え、入射角はほぼレベルからアッパー2度以内で非常に安定していました。アッパー軌道が少ないためにスピン量は多めに入る傾向にありましたが、調整を重ねて行く中で適正なスピン量になると、さらに飛距離は伸びるはずです。竹田麗央選手と同じくらいのヘッドスピードがあるので、まだまだ伸び代がありますね。
入谷選手の優勝を機にツアールーキーや2年目の同世代選手も「次は私」と刺激を受けることでしょう。今週の高額賞金大会「アース・モンダミンカップ」ではどんなドラマを見せてくれるか楽しみです。