1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材し、現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員として活動する吉川丈雄がラウンド中に話題になる「ゴルフの知識」を綴るコラム。第20回目は、ベン・ホーガンの幼少期からメジャー制覇までの道のりについて。

誰よりもボールを打ち続けたベン・ホーガン

画像: 若かりし頃のベン・ホーガン

若かりし頃のベン・ホーガン

深南部のテキサス州ダブリンで生まれたベン・ホーガンは、家計を助けるために11歳でグレンガーデンCCのキャディになり、12歳でゴルフを始めた。

社交的ではなく少年時代はどちらかといえば無口で愛想もなく、友人も少なく頑固者だった。だが負けず嫌いで一人で黙々とボールを打ち続けることが多かった。そのおかげでどのキャディよりもボールを遠くまで飛ばすことができたが、ホーガンは1度も納得したことはなかった。

プロになったのは19歳の時だ。

「練習なんてものは修行中の小僧がするものさ」と言い放ったのはプロの中のプロと称えられ尊敬されたウォルター・へーゲンで、ジーン・サラゼンは「ベンを見ているだけで疲れてしまう」と語っている。球聖ボビー・ジョーンズさえ「これほど熱心に練習する人はベンしかいないだろう」と呆れ返るほどだった。

だがホーガンは「今やらなくて一体いつやるというのだ。これだけ練習をしても思うように打てないのだから」と練習に励んだ。

1935年にバレリーと結婚したが賞金を稼ぐことはできず、食事をする金も乏しく、スーパーに行き大量のオレンジを買い込んで毎日オレンジだけで過ごす辛い日々が続いた。

生活のため試合のない日は臨時雇いの仕事を実に8年間も続け、何とか過ごしていた。だが、ツアーで優勝することを諦めず「いつか結果が出る日がやって来る」と信じ、プロを辞めようとは1度も思っていなかった。

40年ノース&サウスオープンで念願の優勝を果たした。この優勝を機に、日頃の練習の成果が一気に開花して3年連続賞金王に輝いた。太平洋戦争が始まったことで1年半兵役に就いたが、戦後の46年ツアーに復帰するとその年に13勝、47年7勝、48年11勝と誰も寄せ付けない圧倒的ともいえる強さを発揮。

画像: 1953年全英優勝時のベン・ホーガン

1953年全英優勝時のベン・ホーガン

稼げるようになり、生活は向上し名声も手に入れたホーガンは、相変わらず人づきあいが苦手で愛想はなかった。そのためツアー仲間には人気が無くサム・スニ―ドは「ベンはいつも独りぼっちだった」と回想している。

絶頂期の49年2月2日、テキサス州エルパソから約240キロ離れた地点でハイウェイを疾走するグレイハウンドバスとホーガンの車が正面衝突してしまった。全身を強く打ち内臓の大半にダメージを受け、駆け付けた救急隊員は助からないと信じるほどの大怪我で、その時点で生きていることが不思議といえるほどだった。病院に運ばれたホーガンを診察した医師も同じことを思ったという。

だが、奇跡的に回復したホーガンは辛いリハビリ生活を送り、何と事故から11カ月後の50年、ロサンゼルスオープンに出場した。ショットはできたが、歩くのは辛く座り込むことが多かったが最終日、首位を走るサム・スニードに追いついてしまった。試合中は、ラウンドが終わるとホテルの湯船につかり時間をかけ足をマッサージして過ごすという毎日だった。勝負はサム・スニードに敗れたがホーガンの復活と不屈の精神に多くのギャラリーは感動し心から拍手を送るようになっていった。

スニードは辛うじて勝つことができたが、まだ痛々しい姿でゴルフをしているホーガンが同スコアで迫ってきたことから後日「ツアーで怖いものが3つある。それは雷と下りのパット、そしてベン・ホーガンさ」と話したという。

画像: メリオンGC

メリオンGC

その年の全米オープンはペンシルバニア州のメリオンGCだった。ロサンゼルスオープンからそれほど月日は経過していなかったが、ホーガンは最終日18番ホールの2打目、1番アイアンを手にすると奇跡的ともいえるショットでグリーンに乗せ首位を走るロイド・マングラム、ジョージ・ファジオに追いつき、勝負は月曜日のプレーオフに持ち込むことができた。

結果は追いすがろうとするマングラム、ファジオに4打差をつけてメジャー制覇を果たした。

多くのギャラリーがホーガンの強靭な精神に感動し、事故後はホーガン自体も人当たりがよくなり親近感が増し人気は高まっていった。奇跡的な復活は、アメリカ人の心を酔わせるのに十分なストーリーだったからだ。

文・写真/吉川丈雄(特別編集委員)
1970年代からアジア、欧州、北米などのコースを取材。チョイス誌編集長も務めたコースやゴルフの歴史のスペシャリスト。現在、日本ゴルフコース設計者協会名誉協力会員としても活動中

ベン・ホーガンに関して

This article is a sponsored article by
''.