
左から澤豊史さん、伊東啓介さん、三好淳之さん、田中利和さん、石野博久さん、小山博生さん
「大数の法則。データを集めるほど平均化される」三好淳之さん(51歳・HC自称8)
理系は会社でも論理的な言い訳が上手いと三好さん。「僕は今でもそうだから嫌われる(笑)。文系の方は『申し訳ございません。私の力が至らなかった』です」
「一次スクリーニングが大事。本から学ぶことも多い」小山博生さん(66歳・HC4)
自分の感覚とマッチする情報を選択すると小山さん。「情報の全部を信じたらダメなんですよ。まずはダメなものを捨てることが大事だと思うんです」
「人間性が出るのが面白い」(石野博久さん)
高速道路を設計したり土木の仕事をしていた石野さん。「僕は細かいことはやらない。でもゴルフは性格が出ますから。見られていると思うと怖いですよ(笑)」
「ゴルフには同じ局面がない」(伊東啓介さん)
建築を学んだ伊東さん。「僕は100%感覚派。でも上手い人は物理学的なことを言う人が多い。メンタルが強くても間違った理論でやっていたら結果は出ません」
とあるゴルフ仲間6人のラウンドを訪ねると、そこには理系が4人いた。なかでもアツい2人、三好淳之さん(機械工学を専門とするメーカーの研究者)と小山博生さん(化学メーカーでIT・情報通信の担当をしていた)の“理系談義”をお届けします。
三好 僕たちは基本的にデータが大好きですよね。自分が打ったボールがどういう場所にどういう傾向で行ったかというデータは重要です。ただ、理系の人間はネガティブになりがち。ミスした原因をしつこく追求する傾向があるから。
小山 確かに、原因分析はします。
三好 小山さんはゴリゴリの理系だけどゴルフが上手い。珍しいんですよ。普通は上手くならない(笑)。特に僕みたいな製造業の理系人間は、ミスが許されない環境で働いているので、原因分析を追求しすぎる傾向がある。それはゴルフには必ずしもよくないんです。たとえば「今日はアプローチが上手くいかなかった。何が原因だったか」という分析はできるけど、解決策となると急に難しくなる。うちの会社は分業化されていて、仕事であれば別の部署に解決してくれる人がいますけど、ゴルフは自分で解決しないといけない。
小山 なるほど。研究と開発では違いがあるかもしれない。僕は両方やらなければならなかったから。
三好 研究は現場でトラブルが起きたときに何が起きているかを分析し、解決策の選択肢を複数提示します。しかし選択するのは開発側です。小山さんは両方やったことがあるから、適切なものを選べるんです。これ、ゴルフに通じる気がします。
小山 私はコンピュータサイエンスの専門家として入社した。新しい部署でしたし、研究からアルゴリズム開発、設計、それをテストして、商品化するまで全部やる必要がありました。
三好 僕もゴルフの本をたくさん読んだりするので情報は多くあるんですけど、選択肢を多く持ちすぎて、自分に合う解決策につながらない。
小山 まず一次スクリーニングが必要です。たとえばYouTubeなどでさまざまなメソッドを見て、その人が何を言いたいかを理解する。そのなかで自分が「そうだな」と思ったものを一度試してみて、練習で上手くいけばコースでも試して、それが上手くいけば自分のものになる。全部を信じたらダメなんですよ。まずはダメなやつを捨てることです。

「やはり、原因を追求し分析することは大事ですよね。でも私たちは自己流だから、自己満足だけでいいのかもしれません(笑)」(小山さん)
三好 それが小山さんの強みだ。僕は捨てられない。僕は情報過多でお腹いっぱいになるタイプなんです。ただ最近レッスンを受けるようになって、「解決」を手伝ってもらえるようになり、飛距離も伸びたんです。
小山 確かにそうだね。でも、やはり原因分析が抜けてはダメ。私は中学時代からゴルフを始めましたけど、もちろん自己流。自分で分析するしかない。今のジュニアは親がコーチを付けるので言われた通りに繰り返し練習して上手くなる。もちろん上手いけど(笑)、それだと将来どこかで挫折する可能性もあると思うんです。
三好 強くなる人は、やはりいろいろなことを考えられる人ではないかと思いますよね。
小山 自分がゴルフで一番理系っぽいと感じるのはパットかな。ゴルフの本もたくさん読んできたけど、友人に教えてもらった本を今でも参考にしています。その友人も三好くんと同じ博士号を持つ研究者で非常にマニアックな知識を持っていて。データ分析をして、メジャーリーグの覆面予想などもしています。
三好 その方を僕も知っているんですけど、ゴルフ中に「28ヤードを……」なんてつぶやいていたので、細かさに驚いて聞いたら距離の「表」を持っていました。それに影響されて僕も作ったんです。
小山 確かに細かい(笑)。彼に細貝隆志さんという理工系の方の『パット・エイミング教本』を紹介してもらったんです。

1歩を「0.9Y=約82㎝」に調整、毎回歩測する。「たとえば10歩だったら8.2m。練習グリーンでその日のコンディションをフィードバックすることも大切です」(小山さん)
三好 僕も読みました。パットの距離感やラインの読み方について、科学的に解説しています。たとえば特定の距離からどれくらいの力で打てばいいかなど数値化されています。これを実際やってみて、フィードバックしながら練習することで身に付きます。
小山 練習グリーンでのフィードバックも重要。もしグリーンが2つあれば、まず1つのほうで仮説を立てて打ってみて、そのグリーンのスピードを確認する。それから別のグリーンで試して自分の仮説通りかを確認します。時々2つのスピードが違うこともあるけど、そのときは諦める。まあ、週に1回ゴルフしていればそのうち感覚はつかめるようになります。
三好 回数を重ねられるのはうらやましいです。40、50代はサラリーマンとして忙しい時期。60歳以上になると時間的余裕ができて、現場でのフィードバックを積み重ねられるようになる。すると、飛距離は落ちてもショートゲームの距離感などは向上しますよね。やっぱり、「大数の法則」という、データをたくさん集めると平均化されるという考え方は役立ちます。

表裏にパットの距離感(歩数、距離)、番手ごとの距離(キャリー、ラン)、アプローチの距離感(振り幅のキャリー、ラン/AWとPWランニング)を記入。「距離感がよくなりました」(三好さん)
小山 これは統計学の基本です。
三好 文系の方に一番受け入れられないものかもしれない。AIだって統計のお化けですから。
小山 AIもそうだし、情報科学は基本、確率論に基づいています。情報を集めれば集めるほど精度が上がるわけです。
三好 AIでドライバーも設計していますからね。でも理系って、見た目よりスペック重視。そして理系のダメなパターンは「オレは絶対正しい」という感じになること。学者に多いです。
小山 頭で先にやるからね。僕はゴルフを中学生から始めたから、頭の前で体でやるところがある。
三好 でもゴルフはスペックです。クラブ選びなんかでメーカーの宣伝文句はまったく信用していません。すべてコスパに置き換えて考えますね。

スペックはもちろんコストパフォーマンスも大事。「ネットのレビューなどを参考にして、自分と似た感覚や個人データを持つ人の意見を特に重視します(三好さん)
小山 そこは同じだな。新しいモデルはチェックするけど新品はまず買わない。1つ前のモデルをいろいろと調べるんです。
三好 新しいものは自分の5年後のためにチェックするんです。
小山 何でもまず疑問に思って、まず疑うわけです。そういえば“6ヤード飛ぶティー”という商品に関しても計算しました。力積で計算できます。クラブに当たった瞬間のある短い時間の間にどれだけ力が伝えられるか、それは保存されるから、理論的に計算できる。“飛ぶティ―”をまったく抵抗がないケースと思い切りあるケース、どちらで計算してもドライバーで1%しか違わない。
三好 ゴルフは力積。力積保存とエネルギー保存ですね。
小山 運動量も保存されます。すみません、今日はいろいろ言ってきましたけど、僕はゴルフと仕事は切り離して考えています。ゴルフはライフワークなので、仕事とは結び付けたくないです(笑)。
三好 僕も同感です。ゴルフは遊びであり楽しむためにやっています。上手くなれば嬉しいですが、それが目的ではありません。なんて、最後に蘊蓄を言うあたりが理系なのかもしれないですね。
▶学びにも教えにも“理系脳”を使う。「テクノロジーの進歩で、理系ゴルフを生かせる」
PHOTO/Tsukasa Kobayashi
※週刊ゴルフダイジェスト7月22日号「理系のゴルフ」より一部抜粋